第170話 脳が蕩ける配信 その二

「──はい、てなわけで完成しましたー。スフレパンケーキ。いやー、美味しそうですねー」


:美味そう

:ホントそれな

:ふわふわ

:それはそれとして相変わらず量が多い

:めっちゃ美味そう

:この時間にこの量のスイーツはちょっとテロすぎませんこと?

:これは大罪

:カロリーの暴力……!

:俺も甘いもの食べたくなってきた

:毎度思うけどそれ食べきれるん?

:見てるだけで口の中が甘い

:明日パンケーキ食べよ


 これは食欲唆りますわ。わりと真面目に。二段積みのスフレパンケーキ。それが沢山。一皿には載りきらないのでこうなった。

 端的に言ってスイーツバイキングである。それもケーキとかが置いてある方のテーブル。自分でやっておいてアレだが、壮観な光景だ。


「それじゃあね、冷めてもアレなので早速食べていきます。まずは全部の皿にバターを投下。俺は基本マーガリン派だけど、こういう時はやっぱりバターだよね。なのでたっぷりいきます。カロリーなんか気にしないよ。俺の場合は関係ないし」


 バターたっぷりスフレパンケーキ。……もうパンケーキで統一するか。使ったのホットケーキミックスだけど。もう同じってことで良いよね別に。

 ともかく。ビジュアルの暴力性がまた一段階アップした。熱によってバターが溶け、ふわふわのスフレパンケーキの表面に広がり、染み込み、側面をツーと伝っていくこの光景。

 なんという魅力。なんという誘惑。甘いもの好きにはあまりにも有毒すぎる。

 だがこれだけでは止まらない。正直止まっても問題ないのだが、これではただ市販のホットケーキミックスを使っただけだ。俺の本来の持ち味はここからなのだ。


「そして仕上げの二品。下層に出現する誘引蜜蜂の蜂蜜と、エルダートレントの樹液です。これをそれぞれの……とりあえず二皿に掛けていきます」


 ちなみに誘引蜜蜂はアレね。身体から甘い匂いを発して周辺のモンスターを集めてくる系のモンスター。それでいてロケット花火みたいな速度で縦横無尽に飛び回るし、顎は大木を抉るし、針は分厚い鉄板をぶち抜くよ。

 ちゃんと本体も強い系のモンスターだし、蜜蜂だけあって普通に群れてるのでエグいよ。ワンチャンその階層のすべてのモンスターを集めてくるデストラップ。

 エルダートレントは一般的なイメージ通り。やたら動くクソでかい木。


「んじゃ、いくよー。はい、とろーっと……」


:なにそれなにそれなにそれ!

:蜂蜜めっちゃ輝いてて草。うっすら発光しとるやん

:グルメ漫画かな?

:絶対に高い

:それ本当に樹液? 水飴みたいな垂れかたしてるけど

:甘い甘い甘い甘い。見てるだけで甘い

:最高かよ

:黄金色に輝く蜂蜜とか現実でお目にかかれるとは思わんかった……

:樹液のほう絶対に糖度ヤバい

:美味そう

:ひえええ……

:マジのテロやんこんなの

:夜中になんてことしてくれてんだ


 はいこれでビジュアルの暴力性がMAXまでぶち上がりました。……なんかちょくちょく飯テロについて文句言ってるやつおるけど、こっちだってまあまあツライかんな!

 こっちは配信あるから我慢してんねんぞ! 本当だったらさっさとがっつきたいねんぞ!? 五感すべてに訴えてくる誘惑に抗ってんだよこっちはよー!!

 しかも今回は、いや今回結構ヤバいんだぞ! 蜂蜜と樹液、てかメープルシロップの香りがバターと溶け合って漂ってんの! 部屋が一瞬でケーキ屋みたいな香りで塗りつぶされたの!

 俺かなり甘いもの好きだからさぁ! こういうの駄目なんだって! 遊園地のポップコーン屋台とか、映画館のカウンターとか、ああいう場所にふらっと引き寄せられちゃう人間としてはねー、この香りは堪らんのですよ!

 しかも何がキツイって、あの手の店の香りより万倍ヤバいっていうね! 甘ったるいって表現できるレベルで甘い匂いなのに、すげぇ上品でくどくねぇの! そんでめっちゃ奥深いの! 単純な蜂蜜とメープルシロップの香りだけじゃなくて、無数のフレーバーが織り込まれているの!


「……画面の向こうに届けられないのが残念だよ。脳が麻痺する甘さってやつをさ」


 もうこの香りだけで理性が蕩けるよね。一般人だとマジで他人様にお見せできない表情になると思う。もうゆるっゆるよ。だって俺もそうだもん。……いや、我慢はできるけどさ。いまは別に必要ないし。


「ではでは! 実食していきましょう! まずは蜂蜜の方から!」


 はい、ナイフをすぅーっと入れまして! ふわっとした感触と、蜂蜜のもたっとした重みを楽しみながら……パクリ!


「……」


:無言やん

:草

:草

:食レポまだですかー?

:し、死んでる……!?

:草

:反応がない

:草

:草

:なんか言えや

:コメントないけど立ち絵が雄弁に語ってるな

:浸るな浸るな

:たまに発生する放送事故

:草


 あー……。糖分が脳、いや全身に染み渡るわぁぁ。うんまっ、なにこれうんまっ!!

 やっべぇわー。これ感想言うの無理だわー。要約すると蜂蜜の甘さなんだけど、それだけじゃ表現できない部分がある。言葉にできない旨味的なね? 上手い喩えが全然見当たらない。


「はぁぁぁぁ……」


 ほわーってなる。一口食べただけでほわーってなる。無駄な力が抜けていく感じがする。別に身体の何処にも無駄な力なんて入ってないけど。

 一口食べるだけでリラックス。やっぱり甘味って凄いね。幸せの大半が甘味には詰まってる気がする。肉とか魚とかもね? 美味ければしっかり幸せを感じるんだけどさ。甘味は全体的なベクトルが違うのよね。

 なんだろ? パワー味? 肉とか食べた時は、こう身体の奥底にガツンとくる系の幸せなわけ。命の糧になってるというか、燃料をぶち込まれて力が湧いてくる的な。

 対して甘味はこう……滋味? ふわっふわな泡で全身を洗われてるみたいな、高級なリゾートで身体を癒してスッキリさせる系の幸せなのよね。


「行儀悪いけど、樹液の方にいくか」


 食べ比べじゃ食べ比べ。蜂蜜の方を食べきってからの方が、マナー的には正解なんだろうけどね? でもやっちゃう。だってそっちの方が楽しめるから。

 ほら、やっぱり温かいうちに食べたいしさ、味とかを比べながら食べた方が美味しくて楽しいじゃん? あと、こういうパンケーキは二つの姿があるから。

 シロップを掛けたばっかの、生地の食感がMAXの姿。そしてシロップを生地が吸って、味に一体感が出る代わりに若干しっとりしてる姿。

 これを楽しまないのは損、いやパンケーキに対する侮辱ですよ。全部をしっかり楽しんでこそのスイーツなんですよ。

 だから俺は決して恥じない。好きなものを好きなタイミングで食べる。これもまた正道。なので堂々と一口いかせていただきます。


「あむっ……うみゃぁぁぁ」


 はい最高。はい幸せ。なんだよこのメープルシロップ。旨味が段違いすぎるだろ。ねっとりしてるのにサラサラ喉を通っていくとか矛盾してるだろ最高かよ。

 はぁぁぁぁ。これだよこれ。スイーツを食べる時の幸せがすべて詰まってる。ストレスで荒んだ心がどんどん潤っていく。


「次は溶けたバターをガッツリ絡めて……」


:あー! いけませんいけません!

:やめろぉぉぉ! こっちまで食べたくなってくる!

:美味そう

:ヤバいよヤバいよ

:なんということを……

:これは大罪

:絶対美味いやつー!

:バターが蜂蜜と混ざりあって……

:カロリーの暴力……!!

:デブの食べ方なんだよなぁ

:シンプルに女の、いや人類の敵

:太るぞって言いたいけど、絶対にこの人は太らんからなぁ

:総カロリーとかエグいことになってそう

:マジで明日パンケーキ食べよう


 ふぅぅぅっ。至福。これこそが至福! ストレスには甘いもの! 絶対的な解! 余白に書かれていたはずのフェルマーの最終定理はきっとこれだったんだ!


「ぁぁぁぁぁぁ……」


 マスコミのせいでこのメニューとなったわけだけど、こうしてパンケーキを食べると違う考えも浮かんでくるな。

 そう。これはまるで、汗だくになるまで運動したあとに飲むサイダー。空腹は最大のスパイスというように、ストレスこそが甘味を楽しむ上でのマストアイテム。重要なファクター。

 彼らはそれを教えてくれたのではないか。あえて心を荒ませることで、この出会いに導いてくれたのではないか。一周回って俺は感謝するべきではないのか。


「──いや、ねぇな。さすがに錯乱しすぎだ。マスコミは絶許。アイツら必ず潰す。……あっ」


:おん?

:え?

:はい?

:あ

:あ

:お?

:マスコミ?

:え?

:アイツらまた何かやらかしたんか

:いまなんかヤバいこと言わなかった?

:これは珍しく失言パティーンか?

:あ

:草

:へ?


 こーれーはー……もしかしなくてもやらかしましたかね?







ーーー

あとがき

とりあえず、次にくるライトノベル大賞に投票お願いします。投票番号は【21】です。よろしくお願いします。



んで、話は変わるのですが。この場を借りて読者の皆さんにいくつか質問をば。……念のため言っておくと、本作の内容とは関係ないです。今後の展開はすでに決まっているので。


Q1.ハーレムについてどう思いますか? 肯定派ですか? 否定派ですか? 否定派の方は、よろしければその理由を教えてください


Q2.ハーレム否定派、または否定するほどじゃないけど、微妙に思ってる人に質問です。それはほぼ無条件で異性から好かれる状況が嫌いなのですか? しっかりとした理由、バックボーンがあれば納得はできますか? それとも複数の女性と付き合う主人公がそもそも嫌いなのですか?


Q3.ハーレムは何人から認定されますか? 二人ですか? 三人以上ですか? また、ただ仲の良い女性集団の中に男が一人の状況はハーレムだと思いますか?


Q4.いわゆるハーレムタグなどは、攻略ヒロインが二人以上になったら必要だと思いますか? 最終的に選ばれるのは一人だけとシナリオで決まっていても、ハーレムタグは必要だと思いますか?


Q5.物語の都合で途中から恋愛要素、及び複数キャラとのフラグが立ってくるとしたら、最初から恋愛タグやハーレムタグは入れておくべきだと思いますか? 展開を予想させないために、入れないのはアリだと思いますか?


Q6.そもそもハーレムはどの状態を指しますか? 男主人公が複数人の女性と同意の上で交際している。

男が複数人の女性から好意の矢印を向けられている。

男が複数人の女性コミュニティの中におり、恋愛感情はないが好意的に見られている。

男が複数人の女性コミュニティの中にいる。



とりあえず、パッと思いつくのはこれぐらいでしょうか? まあつまり、皆さんは『ハーレムってどう思ってるの?』って話です。

ちょうど前にコメント欄でハーレム云々の話題になったので、ちょっとこの場を借りて訊いてみました。なので、前に議論の内容になったものもいくつか混ざってます。


ちなみに訊いた理由としては、作者の個人的な興味と参考資料的なアレです。ほら、もうすぐカクコンとかいろいろあるでしょう?

最初に言いましたが、これらの質問は本作の展開には何の影響もありません。展開はすでに決まっています。……別作品とかに関係ある内容の質問をこっちでするな? それはそう。

でも仕方ないんや。この作品のあとがきの方が大勢の人の目に留まるんだもん……。Xよりこっちで訊いた方が母数が増えるんや。一応、Xの方でも今度訊く予定だけど。


*予想以上の反響をいただいたので、回答を締め切らせていただきます。いや本当に、まさかこんなに皆さん答えていただけるとは……。

コメント欄が大変なことになって、他の方のコメントが見えないというもっともな指摘もいただいてしまったので、ご納得いただけれると幸いです。

それではありがとうございました。(質問文に関しましては、この話のコメント欄に対して、後続の方が勘違いしないよう残しておくつもりです)


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