第161話 男たちの宴 その二

「まあ、俺の立場云々はさておきまして」

「あんまりさておきできないんだけど?」

「この場にいるのは、デビューして間もない新人ということでお願いします」

「……あれ? でも山主君、言うてライバーやって半年ぐらい経ってない? 確か今年の三月か四月でしょ、デビューしたの」

「……言われてみれば?」


 千田さんに指摘されて気付いたけど、そういえばそうだな? もうすぐ十月で、デビューしたのが春だから……確かに半年は経ってる計算になるのか。


「正直、もう新人ではないよね。俺たちからすれば、キャリア的に後輩ではあるけど」

「他の事務所ならもう先輩になってますね」

「ばーちかるなら多分三期生ぐらいは追加されてる」

「それはばーちかるが多すぎるのでは……?」

「それは本当にそう」


:確かに半年ぐらい経ってるのか……

:よくよく考えればそうだな

:草

:ばーちかるのサイクルが早いのはガチ

:未だに山主の腰が低いから忘れてた

:草

:ライバーだと半年って地味にやってる方だよな

:ばーちかるは正直デビューが多すぎると思うの

:草

:ばーちかるは例外

:半年で先輩になるVTuber業界ってちょっと変よね

:草

:これまでの日々が濃すぎたせいで忘れてたわ


 実際、ばーちかるの所属人数は凄いからね。俺が普通なら先輩になってるって意見は、この業界なら全然あり得ることだし否定しないけども。流石にばーちかるを基準にされると困る。

 半年もあれば、わりと真面目に後輩が十人以上増えるもん。一回のデビューで三〜五人。それが二ヶ月ちょいぐらいの頻度で起こるんだから、まあビックリよね。

 そりゃ追えないわってなるよ。あそこだけ箱推しする難易度がルナティックなんだもん。事務所の方針が質より量って感じなんだろうけど、流石に限度ってもんがあると思うのよね。


「うちの事務所、気付いたら新人増えてるからビックリするのよ。未だに絡んだこともない新人も普通にいるし」

「それな。なんなら絡む順番とかも前後したりするし。一番下とはコラボして、その二個上とはまだコラボしたことないとか」

「私も経験がありますね。個人的には、新人の方とはちゃんと関わりを持ちたいのですが……」

「はえー」


 やっぱり所属してる側も苦労してるらしい。まあ、普通に考えればそれはそうだよねとしか。


「とは言え、業界的にはデンジラスさんも結構珍しいですよね。ばーちかるは例外だとしても、半年間新人なしというのは……」

「そこんところどうなの? もちろん、言えたらで大丈夫だけど」

「どうなんでしょうね? まあ方針はともかく、デンジラスがこれまで新人採らなかった理由は分かりますが」

「そうなのぉ? どうして?」

「俺にまつわるアレコレの対処で、それどころじゃなかったんじゃないかなと」

「「「あー……」」」


:草

:草

:草

:それはそう

:草

:草

:納得しかない

:草

:でしょうね

:草

:もう絶対それやん

:だろうなとしか

:草


 俺のせいでいろいろエクストリーム進化をしてるけど、デンジラスって規模的には未だに中堅事務所だからね。

 比較的落ち着いてきたとはいえ、現状ですらわりとオーバーフローしてる部分もあるし。その状態で新人をデビューさせたところで、十分なプロデュースを行えるかって話になるわけで。

 だからもう暫くは無理なんじゃねぇかなってのが、個人的な見立てだったり。ただ知名度だったり、俺以外のメンバーのチャンネル登録者数とかも爆増しているので、もうひとふんばりって面もあると思う。

 マンパワーはともかく、企業としての力は着々とチャージされているのだ。それらを発揮できる環境が整った時、デンジラスは急激に成長するだろう。

 恐らくそれまでの辛抱だ。……と言っても、負荷を与えている側の台詞ではないのだが。


「確かに山主さんレベルとなると、スタッフの人たちも大変なのかもしれませんね。いろいろと空前絶後でしょうし」

「問い合わせとか凄そうだもんね」

「私がスタッフならキレてるかも」

「そのへんは定期的に高級食材を差し入れしてケアしております」

「マジィ? 例えばどんなの?」

「基本はお肉とかお酒とかを。それに加えて、最近は女性スタッフさんたちに美容効果のある食品を。男性の方には身体機能を回復させる食品を差し入れてます。もちろん、法律に問題のない範囲でですが」

「それなら許すわぁ。むしろドンと来いってなるかも」

「なんなら食べます? 肝機能を回復させたり、肩や腰周りの筋肉を十代ぐらいまで戻させる食品とかありますよ?」

「アラサーがピンポイントでほしいやつじゃん。……でも、お高いんでしょう?」

「詳しい値段は忘れましたけど、三桁万円には収まってたはずです」

「そこで本当に高いのはズルだって」


 そうかなぁ? 個人的にはいつも通りなんだけども。……で、いります? あ、いらない? そっかー。


「……知ってはいたけど、本当に金銭感覚がバグってるね山主君って」

「言うてそんなにですよ? たんに使う時は雑に使うってだけで。実は金銭感覚自体は一般人と大差ないっす」

「えー、本当ぉ?」

「本当です。沙界さんが証人になります」

「あ、私に振るんですね!?」


 はい。なにせこの場で唯一プライベートでの付き合いもありますし。


「……まあ、金銭感覚は確かに普通ですね。以前一緒に秋葉原にオリパを漁りに行った時も、高額カードの値段に慄いていましたし」

「プライベートで遊んでたことは知ってるけど、わざわざ二人でオリパ剥きにいったのか」

「なんで私も誘ってくれなかったのぉ?」

「今日が初絡みなんだから無理ですよ。次は誘いますから」


:仲良しかよ

:草

:その話詳しく

:草

:草

:楽しそうなことしてる

:ナニソレ気になる

:草

:初耳なんですけど

:ちょうだいちょうだい、そういうのちょうだい。もっと

:しっかり仲良くなってて草

:山主さんって人と遊んだりするのね

:草

:確かに高いカードは凄いけども


 あくまで感覚は普通なんだよね。ただお金には全然困ってないから、『うわ高っ』って思いつつも躊躇なく買うってだけで。


「まあ、金銭感覚と金遣いの荒さは両立するってことですね。元々、宵越しの銭は持たない寄りの人間ですし」

「一応言っておきますけど、それ両立させちゃ駄目なやつですからね?」

「てか、自覚のある山主君から、何が飛び出てくるのか怖いんだけど。前に出してたBOXの山の時点で相当ヤバいのに」

「なんか追加したって言ってたよね。何を買ったのぉ?」

「……いま言うんですか? 直前でドンの方が撮れ高ありません?」

「配信者的にはそっちの方が正しいんですけど、私たちの心臓がもたないので教えてください」

「あ、左様で。えーと、一番高いのが確か『レジェンダリー』ってやつの英語版で、それの未開封BOXですね」

「「「……レェッ!?」」」


 アレ、一箱で五百万ぐらいしたからビックリしたよね。まあ、調べたらそれより全然上の値段のやつとかもあったけど。全部在庫切れだったのが悔やまれる。








ーーー

あとがき

元ネタ、ミリしらレベルだから調べるの苦労した。最初は千夜一夜を参考にしようと思ったけど、よくよく考えたらまず売りに出ねぇよなってなって取りやめ。

販売サイトの在庫とか見て、ギリ有り得そうなやつを探してこうなりました。

今後もこのゲームのネタ考えてるし、勉強のためにアプリに手を出そうかしら?

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