第93話 禁断のコラボ その二

「はい、それじゃあ自己紹介が終わったところで。天津風さん、色羽仁さん。本日はよろしくお願いいたします」

「え、あ、はい。よろしくお願いします」

「普通はこっちの挨拶が先なんじゃよなぁ……。まあ、うむ。よろしくお願い致します」


:草

:草

:草

:今更挨拶かい

:草

:さっきまで物理的に狙ってたんだよなぁ

:アイサツは大事

:てんてん正論


 お互いにペコリと挨拶。挨拶自体は配信前に当然済ませてはいるのだが、これもまた様式美である。


「それで天津風──」

「待て待て。さっきも思っておったが、呼び方もうちょいなんとかならんのか。『天津風さん』ってお主のぅ……。もっとフランクにしてくれ。愛称で頼む」

「おや。苗字は嫌いですか?」

「まさか。ママ殿からもらった大切な名じゃよ。ただ配信だとテンポが悪い。お主もライバーなら分かるじゃろ?」

「あー。じゃあ……てんてんさん?」

「うむ」

「はいはい! じゃあ私もウタちゃんで!」

「ウタちゃんさん」

「……まあ、良し!」


 良いのか。


「ちなみに、山主殿は何か呼び方にリクエストとかはあるか?」

「いや特には。お好きなように呼んでいただければ」

「あ、じゃあ私はボタン様で」

「ウタちゃんさん?」


 なんか一瞬で雲行きが怪しくなったんだが? 今さっきまで、初コラボじゃありがちな会話でしたよね?


「まさか事故の後遺症だったりします?」

「今更ではあるが、例の件をネタにするの躊躇しなさすぎやせんか? なんだかんだセンシティブな話題かなって儂思うんじゃが」

「いやー、躊躇もクソもないでしょ」

「その心は?」

「だってアレ、一番の被害者は俺でしょ。だからネタにできるんすよ」

「……ああ、うん。それはそう」

「その節は本当にご迷惑をお掛けしました」


:草

:完全に巻き込まれてたもんな

:でも正直、ボタン様呼びは後遺症疑われても仕方ないと思うの

:ファンとしては、マジすいませんでしたとしか言えねぇ……

:改めて考えるとまあ酷い

:草

:山主さんだから笑い話になっただけだからなアレ

:ウタちゃんガチ謝罪

:まあ、ウタちゃんが悪いかと言われるとまた違うんだが……

:強いて言うなら俺らが悪い

:あの時はマジで民度終わってた

:山主自身は一切得してないのがまた……


 アレは本当になぁ。神がかったタイミングで善意と悪意が濁流となって押し寄せてきたから。緊急時におけるSNSの悪いところが全部出た感がある。


「まあ、終わった話なのでそれは良いんですけど。……で、ボタン様ってなんです?」

「いやほら、面白いかなって」

「左様で。お任せします」

「良いのか!? こんな頭悪い理由認めて本当に良いのか!?」

「呼び方なんて個々人の自由でしょ。俺は燃えたところで気にしませんし」

「いや山主殿が燃えることはないと思うが……。むしろウタの方が燃える可能性が高い」

「え、何で?」

「……何で?」

「なんでって、そりゃあ……」


 お互いに無言。ぽく、ぽく、ぽく、なんて効果音が背後で聞こえてきそうな空気感。


「あの、ボタン様? ご自分がどれだけ人気あるかご存知で?」

「普通ぐらいでは?」

「自分のチャンネル登録者数を見てからそういうことは言わんか! 謙遜もすぎると嫌味にしか聞こえんぞ!?」

「いやリアルなまでの本心ですが」


 謙遜なんてそんなそんな。ただシンプルに自分のチャンネル登録者=ファンだなんて思ってないだけだ。

 もちろん、ファンがいないとは言わない。人気VTuber並には、俺もファンというやつを抱えている自信はある。しかし、全員がそういうわけではない。

 俺の配信は世界情勢に影響を与える。頻度としては多くはないが、影響力自体はかなりのもの。だからこそ、世界中から注目されている。

 つまりチャンネル登録者の大部分は、情報収集を目的としていると考えられる。仕事として真剣に張り付いている者、センセーショナルな話題に置いてかれまいとする者など、程度の差はあるだろうが。

 個人的な分析だと、情報収集ガチ勢が一割、話題を求めているエンジョイ勢が五割、飯テロを求めている食いしん坊たちが一割、ファンとまではいかないリスナーたちが一割、ファンが一割。そして最後に新規が一割かなと。


「分母が多いのは認めますが、ライバーとしての俺のファンなんて端数みたいなもんでしょう」

「甘い! 例の件が起きた当時ならともかく、すでに知名度では山主殿の方が遥かに上! ならばそれ相応にガチ恋勢が存在していることもまた必然ぞ!」

「多分ボタン様の目に入ってないだけで、そういう人は結構な数いると思いますよ?」

「国内外問わず殺害予告が頻繁に届く俺にガチ恋勢……?」

「サラッとなんか怖いこと言ってる!?」

「ねえ待って!? それ表に出して良いやつ!?」


 あ、てんてんさん素が出たな今。


「あー、情報に関してはお気になさらず。どうせ全部右から左で警察行きですし。やらかしたことを考えれば、とっくに予想されてるでしょうし」

「それにしたって軽くない!?」

「感情で動く馬鹿と、遊びのラインが分からない間抜けの扱いなんて雑で良いんですよ。一応、周りに被害行く可能性は考えて警察には投げますけど」

「く、口が悪い……」

「悪ふざけで始めたことだけど、ボタン様マジでボタン様」


:アウトロー(ガチ)

:本質的には俺様系だよな山主って

:かっけぇ

:殺害予告とか無謀すぎない?

:もっと重く受け止めてもろて

:口も悪いし態度も悪い。でもかっこよい

:ガチ恋勢がいるのも納得

:これはボタン様ですわ

:ここまで堂々とできたらなとは思う

:強者の理論だ


 別にこれぐらい普通だろうに。やけに驚かれているが、俺からすれば何を今更というやつだ。

 探索者など、大なり小なりリアルファイト上等の武闘派。殺害予告なんぞで堪えていたら、ダンジョンでモンスターと殺し合いなどできやしない。

 むしろ現実の俺を見つけ出し、本気で殺しにきたらその勇気を讃えるまである。もちろん、俺のみを狙った場合に限るが。


「……やっぱり山主殿モテるじゃろ。そういうちょい悪なSキャラを好きな女子は多いぞ」

「そんなキャラ付けした記憶ないんですが?」

「真性は自覚ないって言いますよね」

「そんなにゲテモノ早く食べたいなら言ってくださいよ。今用意しますから」

「会話の流れ変わりすぎじゃろ!?」

「ダンゴムシと蜘蛛で良いですよね?」

「いや急にスタスタと動き出さ……今蜘蛛って言いました!? 前の配信のアレだけじゃないんですか!?」


 あーあー。聞こえなーい。





ーーー

あとがき


難産でした。早くこの章のハイライトまでいきたいなー。


惰性になってきてるけど、電子と紙買ってね。

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