第92話 禁断のコラボ その一
現在のVTuber界には、一つのタブーが存在している。いや正確には存在しているのではなく、いつの間にか設けられていたと言うべきか。
「はいどうも皆さんこんばんは。デンジラスのスーパー猟師、山主ボタンです。時刻は夕方の六時、場所はマイスタジオでの配信となっております」
:ワクワク
:ばんわー
:待ってた
:こんばんはー
:きちゃー!
:ばんわ
:ついにか……
:はじまた
そのタブーとは異性関係。それも実態を伴う内容ではなく、それを連想させるような言動それ自体が嫌厭されている。
と言っても、これらはリスナー全体の総意と言うわけではない。所謂ガチ恋勢、その中でも厄介者とされている連中が騒ぎ、作り出しているものである。代表例はユニコーンと呼ばれる人種だ。
「で、配信の内容ではありますが、既に告知していた通りコラボ回です。いつものダンジョン食材振る舞うアレですね。──なお、コラボ相手も告知通り。ライブラ所属のお二人です」
そうした厄介リスナーを多く抱えているのがライブラ。アイドルVTuberを売りとしている業界トップの事務所。
厄介リスナーが多い理由は、純粋にライブラ所属の彼女たちが抱える数字が莫大だから。……そして、主に男性に対して夢と理想を届けるアイドル活動をしているから。
アイドルに異性の影があってはいけないという主張。自分たちの特別に、特別な存在がいてほしくないという独占欲に由来するもの。……まあ例外はある。
「さあ、溜めに溜めてきましたが! 今ここに宣言しましょう! タブー上等の地獄企画! 我らが電子のアイドルたちに! えげつない! 碌でもない! いやらしい! え ろ い のゲテモノ食材を食べさせる炎上上等のオフコラボが開幕じゃぁぁ!!」
「「ちょっとぉぉ!?」」
:きたぁぁぁ!
:草ァ!
:マジで炎上すんぞ山主ィ!?
:草
:やりやがった! マジかよコイツやりやがった!
:エロイもの食わせるとか怖いもの知らずかお前!?
:セクハラ……セクハラかこれ?
:馬鹿が代
:衝撃的すぎてウタちゃんたち出て来とるやんけ!
:えぇ……
──俺は今日、業界のタブーを踏み越える。
「あの山主さん!? 何か凄いキメ顔してるところ悪いんですけど! 企画内容は打ち合わせ済みとは言え、この挨拶は聞いてないんですけど!? 個人的にはもっと感動の再会的な導入してたんですけどぉ!!」
「ウタはともかく、儂は本当に今日が初対面なんじゃが!? いやゲテモノ出るのは知っとったけど! それでもこう……ちっとは遠慮とかあるじゃろ普通!?」
「あ、二人とも今立ち絵出しますね」
「「聞いて!?」」
えーと、先に貰ってたファイル開いてと。縮尺は……これぐらいで、脇の方にポンポンと。
「こんな感じでどうでしょう?」
「え、あ、大丈夫です。……じゃなくて!」
「問題な……くっ、VTuberの習性が! てか、知ってはいたが本当に自由じゃのお主!?」
「それじゃあ自己紹介お願いします」
「山主さん実はわざとやってません!?」
「会話を成立させぬか!? ちゃんと応答せい!」
:草
:草
:VTuberの習性出ちゃったかぁ
:草
:いきなり飛ばしてんなぁ
:草
:二人とも真面目だなぁ
:ライブラメンバー相手でも容赦ないな山主さん……
:草
:草ァ!
ふむ。掴みはこんな感じで良いだろう。ゲスト二人をぞんざいに扱っていることに関しては、もちろんわざとである。まあ、ちょっとしたリスクヘッジだ。
タブーは犯すと面倒だからタブーなのだ。厄介リスナーは依然として存在する以上、彼らを刺激するのは得策ではないと判断した。……いや、俺に矛先が向くのなら気にしないが、ゲスト二人が槍玉に挙げられたら困るし。
だから開幕は軽快な、シリアスとは真逆なネタ的な方向性でぶちかました。これなら男女関係を連想させないし、仕掛け人は俺であると印象付けることができる。
代償として少しセクハラっぽい言い回しをすることになったが、まあ許容範囲だろう。俺の悪評など今更ではあるし。
「うぅ、こんなはずじゃなかったのに……」
「ウタも気の毒に。もっとエモい感じにしたがっておったのにのぅ」
「いやエモいも何も、あんなのもう終わった話でしょ」
「あれをもう終わった話で片付けられると、私としては少し悲しいものがあるんですが! 自分で言うのもアレですけど、漫画ならヒロイン張れるエピソードですよ!?」
「扱いがゲームのサブクエなんじゃよなぁ……」
「実際お使いクエストでした」
「ちょっとぉ!?」
色羽仁さんの言うことも間違ってはいない。ヒロイン誕生イベという表現も納得できる。……が、俺視点では桃を届けただけなのである! 桃を届けただけなのである……!!
あとそれはそれとして、自分から火種を投下しないでいただきたい。それとなーくダメコンしてるんで。
「まあ、はい。それより自己紹介を」
「納得が……納得がいかない……!」
「あー、ウタがダメージを受けているので、先に儂からさせてもらおう。……んんっ! さあ跪け! 高天原を翔ける風の姫、天津風サテンの御前であるぞ!」
「ちなみに高天原在住だとワンチャン俺とバトルことになります」
「……その時はジャンケンで手を打たんか?」
:あ
:草
:目の前にいるのは現代の神殺しです
:てんてん逃げてー! 超逃げてー!
:ジャンケンでもまず勝てないんだよなぁ
:草
:これは草
:やめたげてよぉ……!
:草ァ!
:声震えてますよ
思いのほか反応が良いな。神様系ライバーと話す時の持ちネタにしよう。
「この話題を引っ張ると儂の身が危ないの。故にウタよ! 早く自己紹介して話題を変えよ! そろそろ復活せい!」
「う、うんっ。……ウタんちゅの皆、こんばんはー! 現代に蘇ったいろは唄の精霊、色羽仁ウタだよ! 私の声は届いてますかー?」
「精霊……スピリット系モンスター……?」
「あれこれ私も倒される!?」
「お主ちと血の気多すぎんか!? てかウタに関してはお主は命の恩人じゃろうが!!」
いやほら、これもまたダメコンかなって。
ーーー
あとがき
どうにか間に合った……。今からライブ始まるんで手短に。
購入報告ありがとうございまーす。さあまだの人もどんどん買えー。
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