第55話 待望のコラボ回 その二

「じゃ、そんなこんなで雑談の方を始めましょう。あ、これお酒とオツマミです」

「思ってたより普通なの出てきた」


 導入が終わり、メインコーナーである雑談タイムへ。ちなみに雑談のお供に用意したのは、市販品のワインとナッツである。


「なんというか……意外でした。てっきり、ダンジョン産の食材の何かが出てくるのかとばかり。……あ、いえ、用意していただいたものに文句があるわけではないんですが!」

「あははは。そんな慌てなくて大丈夫ですよ。単純に予想外だったのは分かってますから。あ、ワインは大丈夫です?」

「はい。それは大丈夫です」


 実際、これまでの俺の実績を考えれば、ここでダンジョン産の食材を出してくると予想するのは当然。そこで市販品が出てきたのだから、おやと首を傾げたくもなるだろう。


「まあ、食前酒ってやつですよ。最初っから飛ばすのもアレですし。特に今回は気合いを入れてきてるんで」

「なるほ……ちょっと待ってください? なんか今、地味に不穏なこと仰いませんでした?」


:山主さんが市販品、だと?

:食前酒ねぇ。なんか怪しいと思うのは俺だけ?

:気合いいれたとかなにそれ怖い

:ワインなのか

:リーマンが戦々恐々としてて草

:ちょっとどんな物か気になるんで、写真欲しいです


 む。気になるコメント発見。はいはい、それじゃあ映り込みに気をつけながら写真をパシャリ。あとはこれを投稿して……良し。

 なお、戦慄の表情を浮かべている沙界さんに関しては、意味深な微笑みだけ返してスルーしておく。後のお楽しみというやつだ。


「まーまー。とりあえず、乾杯といきましょう。ささ、どうぞどうぞ」

「あっと、これはどうも。……今どうやってコルク抜きました?」

「指で、こうピンと」

「……指で」


 凄い名状し難い表情でこっちを見られた。配信でいろいろやっているので今更な気もするのだが、やはり生で目にすると違うらしい。

 ま、それはともかく。二つのグラスにトクトクとワインを注ぎ終えたので、軽くチンと鳴らしてはい乾杯。


「うん。我ながら悪くないチョイス」

「では失礼して……あ、美味しい」


 軽く含み舌で転がすと、上品で芳醇なぶどうの風味が口の中に広がった。酸味と渋味の具合も良い。キリッとした辛口が特徴という論評通りの、素晴らしいキレの爽やかさだ。

 食前酒としては上等も上等。同じ感想を沙界さんも抱いたようで、軽く目を見張りつつもグラスを傾けている。


「……本当に美味しいですねコレ。ワインの銘柄は詳しくはないんですが、これかなり良いやつだったりしません?」

「さあ、どうなんでしょう? 適当にネットで味の評価見て注文したんで。俺自身もそこまでワイン、てかお酒には詳しくないので、その辺りはさっぱりっすねぇ」

「へー。ちょっとボトル見て大丈夫ですか?」

「どうぞどうぞ」


:有名なワインなんかね?

:適当かぁ……

:買う時に値段見てねぇパターンではこれ?

:あ、察し

:写真見てきたけど五万しますねあのワイン

:アレ結構な有名どころやんけ!

:わりと真面目にリーマン味わってて草なのよ

:五万ってマ!?

:しっかり高級酒じゃないですかー!

:食前酒にするには上等すぎるんだよなぁ!?


 お、コメント正解。投稿した写真から、用意したワインの値段に辿りついたリスナーが多数いたようだ。

 やはり趣味扱いされるだけあって、ワインに詳しい人間はそこそこいるっぽい。


「っ、ハハハハッ!! ……いや、つい笑っちゃいましたけど、五万ってマジで言ってます!?」

「確かにそれぐらいの値段はしましたねぇ」

「いや反応軽くないですか!? 五万円のお酒ってガッツリ高級酒ですよ!?」

「いやいやいや。ゲストを持て成すのに安酒出すわけないじゃないですかー」


 なんだったら五万ですら安いと思ってたり。いや、商品としては十分以上に上等なのは承知してるけど、やはり推しに捧げるとなると……ねぇ?

 あとは単純に、俺の中の高級酒の基準が大分バグってるってのもある。味はもちろん、飲んだ際に追加効果が存在しないものは、どうしても格落ち感が否めないのである。


「大丈夫ですよ。事前にお伝えした通り、金銭的なアレコレは本当にご心配なさらないでください。むしろ俺の場合、積極的に使って経済回さないといけないレベルなんで」


 ちなみにコレはガチである。裏でも沙界さんにいろいろと遠慮された(主に高級食材であるダンジョン産の食材を無償提供すること)わけだが、個人的には本当に心配無用というか、むしろ費用関係はこちらが持ち出ししないといけないレベルだったりする。

 なにせこちとら、単純な現金資産だけでも十二桁はあるわけで。それでいて収入源である探索者業も、もはや身一つあれば十分というシンプル過ぎる一次産業。

 そのため、基本的には消費が個人レベルから逸脱することがなく、経済的観点からするとわりと真面目によろしくないとのこと。

 国家にとって金は血液なので、大金が口座に死蔵される=動脈硬化に繋がるウンタラカンタラ言われたことも。


「ま、これは基本的に俺のコラボ方針みたいなものなので。こっちが勝手にやっている以上、気に病む必要はマジでないですよ?」

「そう言っていただけるのはありがたいですけどね!? やっぱり限度ってものがあると思うんですよ!!」

「HAHAHA。五万の食前酒で驚いてたら身が持ちませんよー? ──なにせ今回のコラボのために、ダンジョン産の食材以外にもいろいろ高いの仕入れてるんで」


 ダンジョン産の食材はもちろんだが、トークで万全をきすために、話のタネになりそうなネタもしっかり仕入れてきてるんだよぉ!


「……ちなみにですけど、今回どれぐらいヤバかったりします?」

「『食材』と『いろいろ』、どっちから聞きたいですか?」

「……とりあえず、いろいろからで」


 いろいろかー。ならもう、この際だから出しちゃうか。

 ということで、空間袋から今日のために仕入れた品を、ヒョイヒョイと沙界さんの目の前に積んでいく。


「待って待って待って待って!? 凄いの出てきた! 何事もなさそうなテンションで凄いのが沢山出てきたんですけど!?」


:なんかリーマンがめちゃ焦ってる……

:これマジでやべぇの用意してきたな?

:なんぞなんぞ

:早く教えてー

:写真欲しいなー

:ガチで驚いてる奴やん

:あのリーマンがここまで焦るって相当では?


 おっと。そうだったそうだった。これも写真上げないと、リスナーがよく分かんないか。というわけで、パシャッとやってツイート。


「というわけで、適当なカードショップの通販で買い漁ってきたWTG、正式名称ウィザード・ザ・ギャザリングの未開封BOXの山です。沙界さんが好きとのことだったので、話に詰まった時に剥こうかなと思って用意しました」

「馬鹿じゃないですか!? 失礼を承知で言いますけど、あなた馬鹿なんじゃないですか!? 流石にそんな箸置き感覚で持ってきていいもんじゃありませんからねコレ!!」

「いやほら、カード開封って盛り上がるじゃないですか」

「確かに開封作業は楽しいですけど! ここにあるの全部、個々で枠になるぐらいには貴重な品なんですよ!?」


:予想以上にやべぇもん持ってきとるやんけ!?

:おまっ、この馬鹿野郎!

:あの写真のやつ、そんなにヤバいん?

:ツイートの反応で察した

:山主さん、このコラボのためにいくら使ったん……?

:頭おかしい

:WTG分かんない人に説明しておくと、右上から順にざっくり五十万、四十五万、六十万、二十万、三十万、五十万、六十五万ぐらいする。

:合計で三百万以上しますね

:草

:エグい金額出ててワロエナイ


 相変わらずカードってアホみたいな値段するよね。まあ、それでも端金にすらならないのですけど。なんなら推しが慌ててる姿を見れただけでプラスになるレベル。


「流石にこれはやりすぎですよ山主さん……」

「んー、これは個人的なツボというか、性癖みたいな話になるんですけど。男女問わず知ってるライバーさんが、赤スパとかで殴られてるのを観ると大変気分が良くなるんですよね。特に喜ばれるより、戸惑われたり遠慮してる姿の方が高ポイント」

「なんで今その話しました?」


 用意したことに深い意味はないという自白だったりします。







ーーー

あとがき


『感謝の言葉』よりも、『戸惑い』や『恐怖』の叫びにこそ風情を感じる。……あると思います。


それはそれとして、まだ午後二十五時ぐらいだから週一投稿。

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