第9話 15万人記念配信 その一

「──はい、リスナーの皆さんこんばんは。このたび料理系? VTuberに新生しました、デンジラス所属のスーパー猟師、山主ボタンです」


︰きちゃぁ!

︰ばんわー

︰待ってたぞ山主ぃ!

︰16万人おめでとう!


 てことで、15万人記念配信だ。まあ、告知ツイートをして暫くしたら16万人になったんだけどな! マジで勢いが止まらないので、正直ちょっとビビってる。

 コメント欄の流れも速い。過疎ってたこれまでが嘘のように、同接者数も増えている。特に外国語のコメントが目立つ。

 やはり注目度的には、国内よりも海外の方が大きい気がする。じゃなきゃここまで海外コメが投下されることもあるまい。料理はともかく、トークに関してはほぼ通じてないはずなのだから。


「いやはや。寝て起きたら大変なことになってて草ですよ。テコ入れとは言ったものの、まさかこんなことになるなんて、ですよ」


︰大変というレベルじゃねぇんだよなぁ

︰初見です

︰たった一日で15万超えたのは笑った

︰海外ニキのコメントが目立つね

︰とりあえずオメ


「はいお祝いコメントありがとう。初見さんたちもいらっしゃい。海外ニキたちもねー、コメントしてくれてありがとうね。是非とも見ていってください。また美味しいもの作るから」


 流れていくコメントにちょくちょく返答。もちろん外国語のコメにもだ。通じてるかどうかは微妙だけど、ちゃんと反応することが大事だからね。


「それじゃ、サクッと本題に。急遽設定したとはいえ、今日は記念配信だからね。昨日よりも豪勢なものを作ろうかなと」


︰いろんな意味で早くない?

︰記念配信というのなら、せめてもうちょい喋ろうや

︰話した方がいいんじゃない?

︰トークを切り捨てていくスタイルで草


「そうは言っても、これまでの配信を知ってる人は分かってるでしょ? 俺、トークってそこまで得意じゃないんだって。初見さんや海外ニキも多いし、つまらないトークよりもサクッとメインに移った方が楽しめるじゃん。感謝の言葉は締めにしたいしね」


 まだテコ入れは終わってない。むしろ今が仕上げの段階なのだから、グダる前に一気に興味を引っ張ってしまいたいわけよ。


「──てことで、これから料理に入ります。雑談はあくまでついで、『ながら』でいいの。今日のメインは料理です」


︰割り切りが凄い

︰まあ、校長とかの話が嫌いなのは分かる

︰雑談も需要あると思うんだけどなー

︰サクッと本題に移るのは高評価


「んじゃ、映像出しますねー」


 昨日と同じ感じで、キッチンの映像をドン。今日のメイン食材、巨大な牛ブロック肉を配信画面に映す。


︰相変わらずいいキッチンやの

︰なんかまたデカいやつが置いてあるな

︰一目で分かるぐらいに良い肉やんけ!

︰まあ、記念配信とかならいい肉は鉄板よな

︰また外人ニキたちが好きそうなものを


「あ、コメント正解。せっかく大勢の外人ニキが見に来てくれてるからね。彼らがテンション上げそうなものを用意しました。やっぱりお肉の魔力は世界共通だからねー」


︰ちゃんと客層を意識してるのエラい

︰海外の人って豪快な肉料理とか大好きだもんなー

︰そして日本人も大抵が好きという

︰やはり肉。肉は全てを解決する

︰同時視聴してる巫女様たちが荒れ狂ってるぞw


 待って見過ごせないコメントあったんだけど。


「コメントそれマジ? 先輩たちこの配信を同時視聴してんの?」


︰マジやで

︰なんでオフコラボの全体配信にしねぇんだよって、巫女様がキレ散らかしてる

︰山主が跳ねた途端にコラボ解禁だと、いろいろと角が立つからしゃーないんだけどね……

︰どんだけタダ飯食いたいんだよwww

︰同期コラボすらしてないのに、段階を飛び越すわけにはいかないという姿勢は、個人的には義理堅くて高評価

︰理由は分かる。ただTweeterで触れるだけだと寂しいからってことで、残りのデンジラスメンバー全員で同時視聴になったらしい

︰あったけぇなぁ

︰なお現在は嫉妬の叫びを上げている者が多数


 なんか凄い楽しそうなことになってるのな。というか、一人のV好きとしてむっちゃその枠見てみたいんだけど。


「……まあ、うん。配信を観ててくれてるのなら、全力で楽しんでもらいましょう。──てことで、まずは軽く食材の説明を。これは深層に出現する牛型モンスター、【鎧魔牛】のドロップ食材です。部位的にいえばに当たります。はい、コレ全部そうです」


 シャトーブリアン。牛肉の中でも最上位とされる希少部位。ヒレ肉の中心、もっとも太く、もっとも柔らかい部分のみを指す名前。


「ちなみに、シャトーブリアンは牛一頭で六百グラムぐらいしか取れません」


︰は?

︰しゃ?

︰深層ってマ?

︰いや、え?

︰マジで言ってる?

︰待って脳の処理が追いつかない


「ちなみに鎧魔牛っていうのはね、全身が鎧みたいに頑丈なクソデカい牛です。このシャトーブリアンのサイズから分かるようにクソデカです。普通の牛の五、六倍ぐらいの大きさがあります」


 体高だけで十メートルを超えるような弩級の牛で、その肉体は鎧の名がつくだけあって鋼のような硬さを誇る。


「主な攻撃手段は突進や蹴り。やってることは普通の牛と変わらないんだけど、とにかくスケールがヤバい。超質量+それを平然と支えてみせる筋肉+鋼並の肉体という、脅威のトリプル役満。皆にも分かりやすく教えるとね……」


 一旦言葉を切って、肉へと向き直る。そして予め用意しておいた百均の包丁を、シャトーブリアン目掛けて思い切り振り下ろし。


──バキッィィン……!!


︰……へ?

︰はぁ!?

︰あっぶ!?

︰ちょっ、大丈夫!?

︰なにそれ怖っ!?


「と、こんな感じでね。普通に切ろうとしたら、シャトーブリアンですら包丁が折れる。それぐらいかってぇのコイツ。筋繊維の一本一本がワイヤーと大差ねぇんだわ。……あ、心配してくれてる人が何人かいるけど、ちゃんと分かってやってるから安心してな。折れた包丁は空中でキャッチした。怪我もしてないし、どこも傷つけてないよ」


 証拠というわけではないが、カメラの前で折れた包丁の刃と柄を揺らしてみせる。するとコメント欄の流れが一気に爆速になる。

 ありありと見せつけられた異常性は、そりゃあ興奮もしたくもなろう。元となった怪物のサイズを連想させる、超巨大な希少部位。肉が鉄を弾き、折るというトンデモ。

 ダンジョンに潜らなければ、いや潜っていても深く到達できなければ、まず触れることのないであろう狂気の世界。

 非常識であるが故に、慣れぬ者が触れた場合は、恐ろしいほどに熱狂する。


︰やっば!

︰うわっ、これまーじーか

︰分かってはいたけど、マジで山主って凄いやつなんだな

︰こんな滅茶苦茶なモンスターいるのか……

︰空中で折れた包丁キャッチとか、サラッと凄いことしてるぅ……

︰向こうでめっちゃ歓声上がって草なんよ

︰見てて冷や冷やするからやめてくれ


「いや、うん。これは失敬。ただのパフォーマンスなのでご心配なく。この程度で怪我をするほど弱くもないし」


 銃弾ぐらいなら、目をつぶっててもキャッチできる。深層をソロで活動するというのなら、それぐらいできなきゃお話にならないのだ。


「では、コレがどんな肉かは皆も理解できただろうから、早速調理に入ろうと思います。──今日のメニューは、鎧魔牛のシャトーブリアンハンバーグ。繋ぎ、玉ねぎも一切なしの、完全牛肉百パーセントハンバーグをキメていくよ」

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