正体不明の超人気Vtuber(♀)な俺がクラスのクール系美少女にガチ恋されていた件。〜ネットでは美少女配信者をしている平凡(?)な男子高校生の俺ですが、リアルではなぜか美少女配信者たちに囲まれてます〜
ゆーやけさん
第1話 『氷の人形』は動じない。
少し蒸し暑い初夏のある日。いつも通りに授業が終わり、なんら変わりのない日常が過ぎると思っていたある日の放課後のこと。
「ミツメアイちゃん可愛すぎる……腎臓売ってでも貢ぎたい……しゅき……」
目の前で顔に手を当ててそう告げるのは普段はクールな学校1の美少女。そんな彼女を見つめながら、俺は静かに考える。一体なぜこんな状況になってしまったのだろうか、と────。
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(なんか騒がしいな……)
終礼が終わった後の放課後、ちらほらと人が帰り始めた教室の中。机に突っ伏して眠っていた俺……
「────神凪さん、俺と付き合ってくれ!」
俺が目を上げた先にいたのは、ラブレターを持った金髪のあからさまにチャラそうな隣のクラスのイケメン男子。名前は……うん、忘れたからいいや。
「……それは?」
そしてそんな彼を机に座りながら無表情な顔で見つめるのは、うちのクラスのクール系美少女、
透き通るような水色のロングヘアに人形のような整った顔を持ち、成績優秀、スポーツ万能な、うちの学校で1番モテている美少女だ。そして……
「ラブレターさ! 君のことを思って書いたんだ!」
「……そう、なんだ」
「えっ? あの、貰ってくれるとかは……」
「……えっと……ごめんなさい?」
何よりも特徴的なのは、無表情で無感情なその立ち振る舞いと性格だ。男子に告白されても反応ゼロ、誰かが話しかけても5秒で撃沈、入学してからまだ2ヶ月なのにフラれた男子の数は既に30を超えたらしい。
(……さすが『氷の人形』、全く動じないな)
そんな他人への無関心を擬人化したような人間性から多くの生徒に憧れられ、同時に恐れられたことで付いた通り名は『氷の人形』。故に、名前も知らない彼がこうなることは分かっていたことだ。
「いや、でもまだこれ以外にも……!」
「私、もう寝るから……」
「あっ……すみませんでした」
結局ラブレターを受け取ることさえせずに、神凪さんはまた机に突っ伏して眠り始めてしまった。さすがにここまで塩対応されると思っていなかったのか、フラれた彼は魂が抜けたような顔で突っ立っている。
(本当、信じられないくらいの美人ではあるんだけどな……)
俺だって出来れば仲良くなりたいが……どんなイケメンにも靡かないあの人とは、普通の男子高校生な俺では友達になることさえ無理だろう。
(……なんか目も覚めたし、さっさと帰るか)
まあ、考えるだけ無駄な話だ。告白という名の
ただ1人机に突っ伏して眠っている神凪さんの姿を見ながら、俺もその後に続くように教室を後にしたのだった。
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(……って、寝る暇あったらちゃんと帰る準備しとけばよかった……)
そして、それから1時間ほど後のこと。ちょうど家に着いたあたりで弁当を学校に忘れたことに気づき、急いで学校へと帰ってきたところだ。
教科書とか筆記用具ならまだ良かったが、弁当は1日忘れるだけで主に匂いが大惨事になりかねないからな……今日はやらないといけないこともあるし、早く弁当を回収して家に帰ることにしよう。
(神凪さん? いったい、何を……)
そう思って教室の中に入ると、熱心に何かを見ている神凪さんの姿があった。
「うん……そうそう……」
1人で画面に向かって相槌を入れるその姿は、まさに真剣そのもの。俺はなるべく邪魔にならないよう、静かに扉を開けて教室の中に入る。しかし、その瞬間……
「尊い……」
(……えっ?)
今の、気のせいだよな? なんか、『氷の人形』から聞こえることはないであろう声が聞こえた気が……
「はぁぁぁぁ……やばい、尊すぎてやばい……一昨日もスパチャしちゃったし……確か『いつもありがとう』って言ってたよね!? えっ、私なんかが認知されてた!? いや、待って、あっ、あっ……はぁぁぁぁぁぁあ……無理……幸せすぎて死ねる……神様、お父さん、お母さん、この世界に生んでくれてありがとう……しゅき……」
「なんか思ってたのと違うんだけど!?」
しっかり言ってた! しっかり尊みに溢れてた! 真面目そうな顔しながらシンプルに推し活してるだけだったのかよ!
予想の斜め上を行っていたその
「……えっと、星宮くん?」
「あー、その、これは……」
神凪さんから見れば、知らぬ間に教室に入ってきて唐突にツッコミを入れてきたヤバい奴にしか見えないだろう。しかも実際そうなのだから救えない。
「今の……見てた?」
「見てません、聞いてません、何も知りません、許して下さい」
「へえ、見てたんだ」
非常にまずい。『氷の人形』のこんな姿を見てしまったとなっては、何をされるか分からない。
嫌われるだけならまだマシだが、もし裏で何か言われたら? あるいはクラスメイトがいる中で露骨に嫌がられるようなことがあったら? どう転がったにしても悪い事態になることは間違いない。
(さよなら俺の高校生活、さよなら俺の青春……)
そんな最悪な想像を巡らせている俺に向かって、神凪さんは下を向きながらゆっくりと近づいてくる。その表情は見えないが、おそらく相当怒っているのだろう。
「……ねえ、星宮くん」
「は、はい……」
そして目の前で立ち止まった彼女は、さっきとは打って変わって低く、震えた声で話しかけてきた。何をされるのかと思いながら恐る恐る返事を返すと……
「お願いします! 誰にも……誰にも、このことは言わないでくださいっ!!」
「……えっ?」
あの無表情で無感情な神凪さんが────『氷の人形』とまで呼ばれ学校中から恐れられてきた彼女が、顔を真っ赤にしながらそう告げたのだった。
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