第34話 危機感
体育祭も無事に終わり、リーシャのクラスは総合2位と大健闘であった。もちろん1位は生徒会会長ロイドのいる3-Aクラスである。
そんなリーシャは今、過去最大の危機に陥っていた。
「第一王子の好感度が下がっていないような気がする」
「今さらですか? どう見ても好感度が下がっているリアクションじゃないですよ」
「うーん、好感度下げるために冷たくあしらってるんだけどなぁ。何がいけないんだろう」
「それは、知名度と戦闘力ですかね。お嬢様はどう考えても第一王子にとって優秀なコマですからね。魔王討伐まで引っ張るつもりでしょう」
「何それ! これは何としても婚約破棄を引き出すしかないわね」
「そうは言ってもどうするんですか? ユーティア殿下もそう簡単に手放さないと思いますよ?」
「そこはそれ、アイリスさんに手伝ってもらうのよ。今、アイリスさんはヤツといい感じになっているはず。間違いなく、アイリスは恋愛感情を持っている。それを利用――じゃなかった、彼女の恋愛を手伝ってあげるのよ」
「いや、彼女が頑張っても殿下はお嬢様を手放さないんですよね? 無駄じゃないですか?」
そう言ってきたマリアにリーシャは不敵に微笑んだ。
「ふっふっふ。アイリスの恋愛を応援するためのアイテムがダンジョンに置いてあるのよ。その名も
「なるほど、では、これからダンジョンに?」
「そうよ。いつやるの? いまでしょう、って言うじゃない」
そう言って、リーシャは早速とばかりに公爵邸の馬車を引っ張り出してダンジョンへと向かった。目的のダンジョンは王国でも辺境の方にあるため、王国の中心にある王都からは2頭立ての馬車でも2日ほどかかる。さすがのリーシャでも、時間短縮はできないため、途中の街に宿泊しながら向かっていた。なお、彼女の知名度は王国内では非常に高く、宿泊場所の選定に苦労した。結局、最後には宿泊場所に一人15分ほどのプレゼン大会をすることになってしまった。
「やっと着いたわね。ここまで来るのに大変だったわ。まあ、帰りは既に宿が決定しているから、まだいいけどね」
「そうですね。自分の宿に泊まって欲しい方々にアピールしてもらうのはいいのですが、おかげで寝不足気味です」
「そうね。野営よりも疲れた気がするわ。馬車で寝ればよかったかもしれないわね」
「お嬢様、そんなことをしたら、余計に面倒なことになりますよ? 最悪の場合、寝てるところを叩き起こされて営業をかけられるかもしれませんね」
「護衛たち、仕事しろ! それはともかく、何でここまでして私を泊めようとするのかしらね」
「それは箔付けってやつですよ。有名人が宿泊した宿、となれば宣伝になりますしね」
そんな話をしていたら、寝不足の影響からかリーシャたちは大きな欠伸をした。
「ふぁぁぁ、まあ、帰りの宿の人たちも待っているから、さくっと取ってきましょうかね」
「そうですね。場所はわかっているんですか?」
「もちろん、何回も攻略済みよ」
もっとも、それは最初だけで、最後の方はRTAで使われる定番アイテムになっていたのであるが。そこでは開始早々、これを取ってきて使うことで、その時点でハーレムエンドにできるというものである。RTAでは、このアイテムをいかにして早く取るかという競争になるくらいであった。
リーシャも前世において、この攻略方法は試したことがある。もちろんRTAの猛者どもと比べる程ではないが、そこそこのスピードで攻略した。その記憶を頼りにダンジョンを爆走したリーシャは1時間ほどで、目的の部屋まで辿り着いた。
当然ながら、その手前にはアイテムを守るボス『ゲイザー』が居る。このモンスターは相手を睨むことによって状態異常を引き起こすことができるのだが、当然相手を視認している必要があるため、背後から忍び寄って振り返ったところで弱点である巨大な目を潰すことで楽に倒せるのである。リーシャも、それに倣って背後から難なく忍び寄り、すかさず前に出て目玉を潰した。
「こいつ振り向くのが、ちょっと遅いのよね」
「これって、遠くから狙撃すればよかったのでは?」
「ああ、こいつは遠距離の攻撃を弾くシールド張ってあるから、こうやって近づくしかないのよね」
無事にボスを倒したリーシャは、その奥にある書物を手に取る。
「よし、あとはこれをアイリスに渡すだけね」
「これって、お嬢様が自分で使えばいいんじゃないでしょうか?」
「ダメよ。これは光属性魔法の最上位魔法の一つが書かれているの。私には使えないわ。まあ、主人公専用ってやつね」
「なるほど、それでは早々に戻りましょうか。学園もあまり休むと留年しますよ?」
「うーん、どうせ国外追放になるんだったら、あんまり関係しないような気もするけど」
「ダメです。お嬢様は有名なんですから、留年なんてしたら、それこそ炎上しますよ?」
「ちぇっ。しゃーなしだね。急いで戻ろうか」
無事に傀儡の書を手に入れた二人は馬車に乗って王都に戻るのだった。
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