第17話 魔法試験

先ほどの女性はしばらく固まっていたが、すぐに復活した。リーシャが次は魔法試験だということを伝えると、親切にも魔法試験の会場まで連れて行ってくれた。


「ありがとうございます」

「ええ、試験頑張ってね。私はちょっと野暮用があるから、ここで失礼するわ」


無事に彼女を送り届けた女性は足早に去っていった。そして、彼女は魔法試験の会場である魔法訓練場に入っていった。中は前世の射撃演習場のようになっていて、50mほど離れたところに的がいくつか設置されていた。


「はい、こちらでは好きな魔法を使って。あの的に当てたら合格ですよ。その威力と精度を見て点数を決めます」

「魔法は1回だけですか?」

「詠唱開始してから10秒以内であれば何回使ってもいいですけど、10秒じゃせいぜい2回くらいでしょうね」

「なるほど、わかりました。――多重化マルチキャスト――石散弾ストーンシャワー


リーシャは詠唱すると1回目の詠唱で彼女の周りに魔力の渦が現れる。そして、2回目の詠唱で巨大な石が彼女の掌の上に現れた。この魔法は本来は石弾ストーンバレットという大き目の石を作り出し、相手にぶつけて攻撃するための魔法である。彼女はそれを散弾化して、発射後に100個の石弾にばらけて飛んでいくように改良した。また、多重化させる魔法を併用した。これは基本的な魔法のため、属性に関係なく使うことができるのだが、単純に魔法をためて同時に放つようなものなので、あまり役に立たないと言われているものである。


しかし、この魔法に使った場合は散弾化を2段階にすることができるようになる。そのため、2回の詠唱で石弾を10000発作ることができるのであった。


彼女から放たれた10000発の石弾は的を跡形もなく破壊するだけに留まらず、その背後にある壁にも大穴を開けてしまった。しかも、短縮詠唱であったため、詠唱時間は1秒足らずであったため、試験官も唖然としていた。


反応のなくなった試験官を見たリーシャは、これでは物足りないと思ったので、再度魔法を使うことにした。


「あれ? これじゃあダメでしたか。まあ、まだ1秒でしたからね。折角なので10秒フルで使ってやりますので、もう一度お願いしますね」


そう言って、再度詠唱を始める。もっとも、今回は10秒間で20回唱えられるので、最初の19回を多重化、最後の1回で石散弾を使うことにした。しかし、5秒くらい経過したところで、我に返った試験官が慌てながら、「やめ! やめ!! 終わりです。合格です!! 100点! ひゃくてんよ!!」と言って、リーシャを止めてしまった。


「合格したんですね! もう、もっと早く言って下さいよ。足りなかったかと思ったじゃないですか。1割の力で受けるように言われたのですけど、思わず全力でいっちゃうところでした」

「全力はダメ、絶対!」

「でも……。折角だし、私の全力も見てみません?」

「見てみません! その物騒なものしまってください」

「ちぇ。あと少しだったのになぁ」


そうぼやいた彼女を、試験官が睨みつける。彼女の顔は「これ以上、学園に被害が出たら自分がヤバいわ」と言っていたので、終わりにすることにした。


その後、索敵術試験を行ったが、前世の経験を生かして100点で合格することができた。前世では専門ではなかったが、それなりの訓練は受けているのである。そして、最後が歴史、政治、経済などの筆記試験であるが、前世の知識でほとんど上書きされてしまった彼女にとっては、一般論が通用するもの以外はほとんど答えることができなかったため、点数は15点だった。しかし、その正解した問題が経済の難問とされる「通貨問題に関する課題と、その解決法の提案」だったため、人知れず騒動となるのであった。


数日後、リーシャは学園の合格通知を無事に受け取った。それを見ていた父親が「チッ」と舌打ちをしたのだが、見なかったことにしてあげた。どんだけ彼女をアイドルみたいに売り出したいのかと呆れていた。


そんなくだらないやり取りがありつつも、リーシャは無事に入学の日を迎えた。合格通知を持ってクリスタリアに行き、学園の入学受付に差し出す。


「はい、確認いたしました。そうしましたら、入学金と初年度の授業料、併せて10万ゴールドいただけますか?」

「え? お金かかるの?」

「いや、当然ですよ。合格通知に同封された案内にも書いてありますよね?」

「いや、案内とかもらっていないんだけど。それに、合格通知を当日、ここに持ってくれば良いって言われたんだけど」

「案内はこちらの手違いかもしれません。しかし、入学金の2万ゴールドも払えないようでは、入学させることはできません」

「そんな! そっちが原因なのに――何日か待ってもらうこともできませんか?」

「申し訳ありませんが、規則ですので。来年試験から頑張ってください」


そう言われて、彼女は項垂れた。そこにちょうど試験の時に案内してくれた女性が通りかかった。


「あれ? リーシャさん、こんな所で何をしているんですか? 受付は済ませました?」

「それが……お金が無くて入学できないそうなんです」

「えっっ?! いや、そんなはずは」


そう言って、その女性はリーシャから受付の女性に向き直った。


「ちょっと、なんで手続きできないんですか? あなた、何をやっているかわかっています?」

「はい、その方が入学金も支払えないということで、お引き取り願いました」

「あなた、合格通知書に書かれた『特例』の文字が見えないんですか? 研修の時、教えましたよね。これが書いてある場合は、必ず上の人間を呼ぶようにと」

「あ、大変申し訳ありません。し、失礼しました」

「もういいです。あなたは解雇クビです。今すぐ、この街から出ていきなさい」

「そんな! 私、家族を養わないといけないです。ウッウッウッ」

「そんなの知らないわ。実際、あなたのせいで一人の学生が路頭に迷うところだったのよ。分かってる?」


酷い扱いだったものの結果として何とかなったことで、どうでも良くなっていたリーシャは、彼女に助け船を出すことにした。


「まあまあ、結局のところ何とかなったし、いいんじゃないかな? どうせ今日ダメだったとしても、どうせ後で入学できたんでしょ?」

「まあ、そうですが……。あなたが言うのであれば仕方ありません。学長からは、あなたに粗相があったら即クビと言われていたのですが……。良いでしょう。あなた、彼女に感謝することね」

「うっ、ふぁい。ありがとうございますぅうっ。お詫びに暗黒姫グッズに全財産捧げます。」

「いや、それはやめて! あれが売れても私に1ゴールドも入らないから!」

「「なんですって?!」」


一難去って、また一難。余計なことを言ってしまったかもしれないと、言ってから後悔するのだった。

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