第13話 崩壊
「お嬢様! いったい何を?!」
リーシャがダンジョンに向かって歩いていくと、驚いたようにマリアが声を上げる。しかし、その声を気にする様子もなく彼女はダンジョンの入り口から少しだけ入ったところに行き、足を止める。
「さて、この辺でいいかな? ――
魔法を唱えたリーシャの目の前に大量の白い粉が通路を塞ぐように山を作っていた。彼女は満足すると、ダンジョンから外に出る。そして、白い粉の手前のところに手榴弾を投げつけた。手榴弾が期待した場所に落ちたのを確認すると、走ってダンジョンから離れた。
ドゴォン、ボォン、ボォン、ボォン、ボォン。
最初の手榴弾の爆発から遅れて、連続して爆音が響く。その音は、徐々に小さくなっていき、ついには聞こえなくなった。
「かなり奥まで行けたみたいね。上等上等」
「一体何が?!」
「ん-、爆弾で奥まで掃除してみた。あの積まれた粉が爆風で奥まで吹き飛ぶのと同時に、燃えて爆発する。それを繰り返して奥まで行くのよ」
「さすがです。お嬢様――相変わらず容赦がありませんね」
「そんなことはないわ。現にまだダンジョンの通路が形を保っているでしょう? できたらダンジョンごと潰したかったのだけど、粉塵爆発じゃ厳しそうね」
そう言いながら、思案顔になる。しばらくの間、そんな感じで考え事をしていたが、何か思いついたのか、手をポンと叩くととんでもないことを言いだした。
「やっぱり、大氾濫に起きてもらうしかないわね」
「……正気ですか?お嬢様」
「もちろんよ。ダンジョンの壁は固いけど、モンスターの体は柔らかいじゃない。だからこそ、あえて壊してもらうのよ」
「……さようでございますか、お嬢様」
そう言って、数日間、彼女はダンジョンの入り口の周りにマグネシウムの粉を大量に作ったり、火花を起こすトラップを設置したりと慌ただしく動いていた。そんなことをして早5日が経とうとしていた時、突然轟音が鳴り響いた。
「大氾濫だ!」
護衛の一人が叫び声を上げる。その声に反応してテントの外に出ると、確かに入り口がぐちゃぐちゃになっていて、大量のモンスターが湧き出ていた。
入り口の周囲は入り口が壊れた衝撃で設置していたマグネシウムの粉が大量に舞っていた。そして、一部のモンスターがトラップに引っかかり、火花がいくつも散った。
ボボボボボボォン!
火花が大量に舞ったマグネシウムに引火して白色の爆炎を撒き散らす。その爆風により、さらにマグネシウムが舞い、それがさらなる爆炎を撒き散らす。
「――
その様子を見ながら、リーシャはさらに魔法を使う。追加されたマグネシウムの粉はさらに舞って爆炎を撒き散らす。そこにはモンスターを全滅させようという確固たる意志が存在していた。爆炎が撒き散らされるのは一瞬のことだが、ポーションを飲みながら、彼女が絶え間なく粉を供給することによって、かれこれ1時間にわたって爆発が続いていた。途中、何体か爆発から生きて出てきたモンスターもいたが、いずれも死にかけていたため、あっさりと護衛の人が倒していた。そして、ここ2、3分は特にモンスターが抜けてくることもなくなっていたので、大氾濫も終わったものと判断して、魔法を使うのをやめる。
すぐに爆炎も収まり、そこに残っていたのは、地中深くまで続く大穴とそれを塞ぐ大量のモンスターの死体であった。死体と言っても、絶え間ない爆炎によって、ドロドロのぐちゃぐちゃになっており、死体だと思わなければ土か泥と思ってもおかしくない感じになっていた。
彼女は大穴のところに行くと、残っていた手榴弾100個程を全て放り投げ、最後の一個の信管を外して投げ入れる。
「――
最後に鋼鉄の板を生成して蓋をする。数秒後、凄まじい爆発を地震が起こる。そして、その爆発の勢いが鋼鉄の板の重量を超えたため、巨大な炎の柱とともに空の彼方へと飛んでいった。
「――
流石にあの大きさの鋼鉄の板が落ちてきたら危険なので、念のため消しておくのも忘れない。リーシャはできる女の子なのである。
「どうやら、大氾濫も終わりみたいね」
「さすがです。お嬢様」
こうして、馬車でアイネスまで戻ったリーシャたちであった。門番に大氾濫の終息を報告すると、街は歓声に包まれた。その熱気は彼女たちが宿に向かうまでの間、横断幕を掲げ、旗を振り回す領民の歓声を通して十分に伝わってきたのである。
「前回ほどじゃないけど、だいぶ疲れたなー。というか、これって聖女の仕事じゃ無くない?」
「お嬢様、お気づきになられましたか。そうですね、王国は大氾濫の対応を冒険者ギルドに一任しているのですよ」
「じゃあ、何で私が……?」
「それは、もちろん暗黒姫の名声が上がり過ぎて、依頼の際に指名されるからです。もちろん、お嬢様の体はお一つですので、依頼の内容は王宮と公爵家の検討会を通して選別しております。それに、そろそろ学園に入学しないといけませんので、その間は依頼も最低限になります」
「はあ、嫌な名声の上がり方ね。それに依頼も最低限――って、学園生きながら、こんなことをしないといけないの?」
「そうですね。名前こそアレですが、王国としても聖女にして英雄路線で攻めたいようです。グッズの売り上げによる王国の税収も馬鹿にならないそうなので」
「なんじゃそりゃー?! 結局搾取されてるだけじゃない?」
「そうとも言います。まあ、細かいことは気にしない方が良いですよ。聖女になりましたら、本格的に搾取されるようになりますからね」
「搾取されている前提で、今の方がマシって言われるとへこむわ……」
無事に依頼を解決したリーシャではあったが、事態は悪い方向にしか向かっていないことに気付いてうなだれるのであった。
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