修羅場に勝つのは、美しい沈黙

秋雨千尋

仏の顔も三度

 クリスマスイブに高級ホテルのレストランでディナー。

 私は今、世界一幸せだ。

 仕事が忙しくてなかなか会えない彼に、どうしてもこの日だけはデートをしたいと半年前から言っておいた甲斐があった。

 乾杯をして微笑みあった時──。


「マジありえねーし、なんだよその女!」


 ド派手なギャルが割り込んできた。

 甲高い声を上げて罵り倒す様子から、どうやら浮気相手らしい。

 真面目タイプの私では物足りなかったのかな。

 だが私は動じない。

 彼はイケメンエリートだ。ライバルが居てもおかしくないと思っていた。


 余裕の微笑みで沈黙する。


 これこそが修羅場を乗り切る手段だ。

 今の私は美しい。


 ギャルは彼に水をぶっかけて帰って行った。

 よしよし勝ったぞ。彼に優しい言葉をかけてハンカチを差し出した時──。


「お仕事だって言ったのに嘘つき!(´;ω;`)まあみ、きずついた!」


 ピンクのロリータ女が現れた。

 まだ居たんかーい!

 色んなタイプの女をコンプリートしやがって。ビンゴでもやってんのか。

 いやいや平常心。平常心。仏の顔も三度。まだ二度目。

 引きつり笑いで沈黙する。

 ロリータ女は彼の頭にワインシャワーを降らせて帰って行った。


 レストランから追い出された私達は、ホテルの部屋に向かう。この際ルームサービスで我慢しよう。

 濃厚な口づけを交わしながら部屋に入った瞬間、ガッとドアを開かれた。カメラのシャッター音が響き渡る。



「はい現行犯。二人に慰謝料を請求します」


 カメラを持ち、メガネをかけたバリバリのキャリアウーマンが現れた。

 しまった。笑って黙っていないで罵って帰った方が正解だったんだ。しくじった代償はあまりにも大きい。



 正妻の美しい沈黙は、勝者の貫禄に満ちていた。



 終わり。

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修羅場に勝つのは、美しい沈黙 秋雨千尋 @akisamechihiro

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