04.ドォリィ、無自覚。
『どぉりぃ・・・かわいい』
『どぉりぃはてんしだね・・・・・・』
『ぼく、しょうらいおとなになったらどぉりぃとけっこんする!!ぼくが、いっしょうどぉりぃをまもる!だから、ずっとずっといっしょにいて?』
『ドォリィ!!こんなに綺麗になって!やっぱりドォリィはお姫様だ』
『どうしたのドォリィ!?なんで泣いてるの?僕が何とかするから、泣かないで』
ドォリィ、ドォリィ、ドォリィ・・・・・・
私の美しい、幼馴染み。
物心ついたときから、ずっと一緒にいてくれた。
優しげな瞳で見つめられると心の底から安心でき、笑いかけられると胸の内がぽかぽかとしてくる。
サイが怒るときはいつも、私が何か嫌な目に遭ったとき。
サイといると、いつも心が温かい。
もちろん、兄様といるときも。
三人で、このままずぅっとこんな風な時間が続いていったらいいのに・・・
と、ふと考えるときが、ある。
***
「ああドォリィ・・・!可愛いよ。似合ってる」
「ありがとう。サイも、似合ってるわ・・・・・・」
心底嬉しいというような笑顔を見ると、胸がぎゅんと疼く。そんな顔、私以外に見せないでほしいという、おかしな独占欲まで顔を出してきてしまう。
でも、この笑顔は私と兄様だけが知っている事実は、私に優越感を抱かせた。
高等部では中等部までの若干子どもらしい服装とは異なり、大人っぽいものに様変わりする。
落ち着いた色の制服を身につけるサイは、この世で一番綺麗で、格好良く見えた。
おかしいな。婚約者であるクリスタ様のことを考えるべきなのに、何故かサイの姿ばかり見てしまう。
無事に入学式が終わり、サイと共に外へ出る。クリスタ様は、婚約者だからといってあまり私と共にいることはない。それは婚約が決まった昔からのことで、王子様との結婚が決まり嬉しさにはしゃいでいた頃は、すぐに他の女の子に目を向けるクリスタに毎回泣き喚いていた。
そしてその度にサイが本気で怒るのだ。
サイが怒ってくれるから、私はすぐに立ち直ることができた。兄様も、額に青筋を立てて怒ってくださる。そのときの兄様は、ちょっとこわいけど。
兄様と合流して家に帰ろうと廊下へ出ると、少し離れたところにその存在を見つけた。
「兄様!こちらから行きましたのに!」
恐縮しながらそう言うと、ふわりと頭を撫でられる。
「改めて進学おめでとう、ドォリィ、サイ」
「恐縮です、リディオ様」
同じようにもう片方の手で頭を撫でられているサイは、恥ずかしさに頬を染めていた。
「っはは、リディでいいって言ってるじゃないか」
「いや、でも・・・」
いつも『様』をつけるサイに、リディオもいつものようにそれを外させる。んもうサイったら、私たちだけのときはそれでいいって言ってるのに。
気分良く帰ろうとしたところ、突然背後から『きゃっ』という悲鳴が聞こえた。そしてその後にぼふんという服同士が密着する音と共に、クリスタの声も。
振り返ると、ピンク色の髪をした女子生徒を抱きしめているクリスタの姿。
直後、嫉妬の炎が湧き上がった。
あの色は、今年から高等部に入学するという平民上がりの女に違いない。一人だけ礼儀も知らず式の間中キョロキョロと頭を動かしており、髪の色に似合いの下品な女だと思ったのだ。
その女が今、私の婚約者の身体にしなだれかかっている。しかもクリスタの方も彼女の顔から目を外さず、彼女の手を握ったままだった。
相手は王子よ!?何ふつうに感謝を述べているのよ!?
王子を相手にしての彼女の軽々しい対し方に、苛立ちが募ってくる。本当に、礼儀知らずね!!それに、いつまでその手を握っているのよ!
「ちょっと貴方!いい加減手をお離しになられたら!?」
「ぁっ、も、もうしわけございません・・・・・・」
当然のことを指摘したら、彼女は怯え、か細い声で謝罪の言葉を述べた。何それ。私が悪者みたいじゃない。そんな言い方、やめてよ。
本当は口を出したくなかった。私が口を出すと、クリスタが『また、面倒くさい女だ世本当に』というような目で、迷惑そうに私を見てくるからだ。私より、いつも違う女の子の方が大事なのだ。
「おいドリータ、そんなキツく言わなくても良いだろう?・・・足を挫いたりはしていないかい?一人で立てる?」
「あっ、実は足首を少し捻って――」
ほら、やっぱり。邪魔をしないでくれと言いたげな目で適当にあしらわれ、あちらを庇う。少しは遠慮するという姿勢をしらないのか、彼女は図々しくも足首を痛めたことを言い出した。それには私も我慢できなくなって、思わず声を荒立ててしまう。
「アンタねぇ~~!!」
「ドォリィ、落ち着いて。折角おめかししたのに、勿体ないよ。ほら、笑って?」
皆が見ている中でもお構いなしに彼女に食ってかかろうとしたとき、ぽん、と肩に温かい手が乗せられた。
いつもと変わらない優しい笑み。それを見ると、今まで怒りでささくれ立っていた心が落ち着いてくる。
だが次の瞬間、ピンク髪の女が甲高い声で『サイレント様っ!?』と叫んだ。彼女は傷めた足も忘れたのか、しっかりと立ってサイのことを凝視している。
何、その目。まるで、サイに恋をしているかのような、きらきらと光り輝いた目。
ぞくんと、その瞳を見て背中に寒気を感じた。
恐怖のような感覚。
それが何なのか、私はその時はまだわからなかった。でも、何となく『こいつにサイを取られたくない』とは思った。
だって、サイは私のなんだもん。
社交辞令としてサイがピンク髪の女に名乗りを上げると、無礼にもサイに詰め寄り下手なカーテシーを披露した挙げ句、愛称で呼んでくれと言い出した。
いつも私のことを私だけの愛称で呼んでくれるサイに、私は不安を抱きながらサイの顔を見上げる。すると、彼はスンとした冷たい目のまま、彼女に笑いかけていた。
形だけで、笑ってはいない目。というより、怒っているように見える。リドリータは何を勘違いしているのか目を輝かせてサイを見つめているが、サイは完全に怒っていた。そのことに、安心した。
あまり場の雰囲気を読み取ることのないクリスタ様が、リドリータに向かって大声で名乗る。王子に名乗られることだけでも貴族にしたら光栄なことなのに、リドリータ・・・、いや馬鹿女で十分よ。彼女がサイのことを横目で盗み見ていることに再び怒りが湧いてきた。
クリスタ様に腕を絡め、馬鹿女に見せつけるようにして私も自己紹介をしてあげる。最後に本音が漏れてしまうと、馬鹿女は見る見るうちに目に涙を溜めだして、クリスタ様がまた私をお咎めになった。
『彼女はお前と違って繊細なんだ。言葉に気をつけろ』。その言葉に、胸がずんと重くなる。どうして、私は繊細じゃないと言われるの?このような場で、どうして私の味方でいてくれないの?
寂しさが、胸の中で降り積もっていった。
すると再び私の肩に温かな手が乗せられ、見上げるとサイが優しげに笑いかけてきてくれていた。そしてクリスタ様にこの場を離れる旨を伝え、自然な形でのお暇が許された。
「ちょっと待ってくれ!」
だが、サイがクリスタ様に呼び止められてしまった。
私をリディオ兄様のところに預け、サイはクリスタ様に向き直る。
私は、そんなクリスタ様にあまり良くない気持ちを抱いてしまった。だって、クリスタ様はサイのことを、まるで気に入った令嬢を見つめる目で見るんですもの。
ちょっと、嫌だな。
そう思い、クリスタ様との会話を終わらせるサイを離れたところから見つめていた。
――04.ドォリィ、無自覚。
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