第63話
鬼人の2人が雲に乗って、魔法都市まで帰っていく姿を見送っていると、頭の上のサタ様がポツリと話す。
「うむ。あれは妖力というやつかな? 鬼人はワタシ達とは違う力を使うと聞いたことがある。それにあの男、相当腕が立つな」
「ええ、とてもお強いです。それに面白い術をお使いになる」
「うむ、あれは面白い術だな。奴に、もう一度会って話しを聞きたい。できれば手合わせも願いたいな」
「はい、僕もです」
アールも興味を持ったのかと、2人は楽しげにさっきの鬼人さんたちの話していた、そんなサタ様が私の方を向いた。
「なあ、エルバ、冒険者ギルドの登録用の金より、王都に入る硬貨を借りればよかったのではないか?」
「私もはじめはそう思ったけど……お団子一本100アークだったんだ。もしさ、今日売りに来た団子の本数がもし100本だとしたら全部売ったとしても、合計金額が10000の金貨一枚か銀貨10枚アークで、彼らが家族にお土産を買っていたらとか、色々考えちゃって5000アーク銀貨にしたの」
「……そうか」
「……そうでしたか」
まあ、彼らがそれ以上持っていたとしても……5000銀貨しか借りなかったかも。サタ様が飼ってきた素材の値段も知りたいし、冒険者ギルドに登録とかに憧れる。
小説のように水晶に触ったり、針で指先をチクッとして血で測るとか……『お前、曲者だな』とか言われて、ギルドマスターと戦ったりしちゃったりして。
「何はともあれ硬貨を借りれた。エルバ、冒険者ギルドに登録しに向かうか……いや、その前にアールは確認のためワタシに着いてきてくれ、エルバはここで待っていろ」
「かしこまりました、サタ様」
頭の上にいたサタ様がアール君を連れて、パタパタ羽を動かし、近くの大木の後ろに消えていった。サタ様が何をするのかはわからないけど。
(お、これは新しい薬草?)
博士、この紫の薬草なんていうの。
ワタシの足元にピョコッと、生えている薬草を聞いた。
《その草はキランという薬草です》
効能はなに?
《全草を採取し、水洗い、天日干してすり潰します。すり潰した粉薬は解熱薬になります。また、葉を揉み潰し、すり傷に塗りますと、化膿どめにもなります》
粉薬にすれば解熱剤、葉っぱは化膿止めか。
キランのタネを頂戴。
お、あっちの薬草は? と、目についた薬草を博士に聞こうとして気付く……楽しいことは魔犬ヌヌを助けてからと決めていた。だけど、朝市で出会った、おばちゃんにもらった野菜は博士に聞いちゃって、タネを植えている。
これ以上は、今は我慢。
だけど……この原っぱに咲く青い花以外にも、私の知らないたくさんの薬草が眠っているはず……ウズウズする。
あ――ダメダメ、我慢、が、がまん……我慢ならぬ!
次、あの薬草だ、と、行こうとした私の頭を、誰かがガシッと鷲掴みした。
「…………ぎゃっ!」
「クク、エルバ、楽しんでいるところ悪いが、今は後にしてほしい」
「ご、ごめんなさい…………って、誰?」
「ワタシだが?」
鷲掴みの手を離され、振り向くと私の近くに長身、短い黒髪、赤い瞳の若いイケメンとアール君がいた。
「え、ええ――もしかして、サタ様??」
「そうだ、サタナスだ。エルバよりワタシの方が何かとギルドに詳しい、それで人に化けてみたがどうだ?」
「ツノと羽がないし、シュノーク古城で会った時より若い……」
「完璧です、素敵です、サタ様。魔力も人並みに抑えられていますし、見た目もエルバ様とさほどおかわりない。これなら、エルバ様のお兄様としていけます」
「……エルバの兄か、それはいいな。おい、何を呆けておる? 冒険者ギルドに登録して素材を売るぞ」
「う、うん」
サタ様が麗しい美形から、イケメン青年になっていた。
その見た目が、多くの女性を惹きつけそうだけど、大丈夫かな……なんだか心配だ。
原っぱからマサンの街に戻り、私達は冒険者ギルドに向かった。ギルドにはいるや否(いな)や、イケメンサタ様は冒険者の女性の目を釘付けにした。
「すみません、冒険者になりたいなのですが?」
程よい低音の声に受付嬢を始め、女性陣はうっとり。
男性冒険者からは睨まれている……しかし、当の本人はさっさと見向きもせず冒険者登録していた。
そんな、サタ様の隣にいる私に。
「ねえ、あの子……だよね」
「そうだね」
「うらやましい」
アール君は魔法で姿を消しているけど、サタ様と一緒についてきた私はギルド内で『誰あの子?』『あの人のパーティー?』『使えなさそう』『まさか、あの人の恋人?』『あんな子が? 似合わない』と、ヒソヒソ話す声が聞こえていた。
(イケメン青年のサタ様だもの、みんな気になるよね)
それにしても、ギルドにいる女性冒険者って綺麗な人が多い。美丈夫な騎士、胸が大きくスタイルがいい魔法使い、可愛い武道館、ほとんどの女性がサタ様をみているけど、彼はまったく気にしていない様子。
私は足元にいる、アール君にコッソリ話しかけた。
(「ねえ、アール君、サタ様って周りの女性の反応に気付いてる?」)
アール君は首を横に振り。
(「エルバ様、サタ様はあの様に昔から魔族、人族、亜人族に昔からオモテになられるのですが、本人にはまるっきし気付いておられません」)
(「やっぱり、そうなんだ」)
――うん、そんな気がしてた。
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