第47話

「おーい! ビッグベアの肉がさばけたぞ!」


 サタ様の声にみんなは庭に集まる。お肉とお酒を鬼人直売店に交換へ向かった2人もちょうど帰ってきて、バーベキューが始まる。


 サタ様はエバァさんとドロシアさんが交換してきた、前にサタ様達が言っていた『エール』というお酒を氷魔法で冷やしている。


 このエールは人里にしかないお酒で、鬼人の方が物々交換で手に入れた変身の魔導具を持ち、3年の年月をかけて人里で学んできたらしい。

 ほかにも、学びに人里にでている人達がいるって、ママに聞いた。


(おお、私も負けずに色々覚えるぞ!)

 



 シュワシュワに漬け柔らかくして、ローズマリーンとニンニククで臭みをとったビッグベアの肉が、バーベキューコンロの網の上にドンと乗った。


 大きさはステーキぐらいで、サシの入ったお肉の油がコンロの網の火で溶け、お肉の焼ける音と匂いでお腹がすく。

 そこにママとパパ、ミネルバ様がトレーを持って現れた。

 


「みんな、コメのおにぎりができたわよ」


「焼きおにぎりは香ばしくて、美味いぞ。さあ、食べてくれぇ!」


 ――焼きおにぎり?


「エルバ、気になる?」


 頷くと、ママが教えてくれた。


「これが焼きおにぎり、コロ鳥に卵を使った卵焼き、キキュウリの漬物、ダイズンで作ったシロカベと薄切って油で揚げたアゲのお吸い物よ」


 お豆腐は『シロカベ』でお揚げは『アゲ』か。

 すごい、新しい料理が増えていた。



 博士ダイズンとキキュウリの効果教えて。


〈ダイズンは脂質、炭水化物、食物繊維、鉄、カルシウムなどの栄養素が含まれます〉


 さすが大豆。


〈キキュウリは美肌効果につながります〉


 美肌? キュウリにそんな効能があるんだ。

 魔法都市の何処かでダイズン、キキュウリを栽培しているのか。

   

 ぜひ、エルバの畑にも植えたい。


 博士、タネをちょうだい。

 タネを貰ってエルバの畑に植えた。

 


「うーん、いい香り。ママ、どの料理もおいしそう」


「フフ、そうでしょう。みんな研究熱心でね――お互いに競って、楽しみながら料理を作っているわ。いまね。ダイズンとコムギン、塩を使って、鬼人の方との合同企画で新しい調味料の試作ができたから、みんなに試してもらおうと思うの」


「新しくできた調味料って、なになに?」


「気になる? それはね、ダイズン、コムギンを使った――赤褐色のムラサキっていうの。甘味とコクが豊かな調味料よ」

 


((え――!))


 

 ムラサキ? その言葉に私は衝撃を覚えた。

 心の中はワクワクが通り越して興奮。ママ達が作ったムラサキって醤油じゃない? 等々、都市の人は醤油を作ったの?


 た、確か醤油って大豆を蒸して、小麦は炒って、麹とか、色々な工程があったはず。


「ママ、そのムラサキの味見したい! 味見させて!」


「え、これなんだけど……まだ試作だから、そんなに量がなくてごめんね」


 ママは小さなガラスの瓶に入った、黒い液体を取り出した。それを少し指につけて舐めてみる。味は醤油とは少し違っていて、しょっぱい感じ。だけど、ママが言ったとおり甘味とコク……懐かしい味がした。


 ――まさしく、これは醤油だ。


 塩と砂糖があるし、お酒(エール)もある。

 醤油があれば料理の幅が増える。


 コムギンを水と氷で解き、野菜につけて油で揚げる天ぷら。パン粉を作り魔物のお肉を揚げたカツにかけたり。唐揚げの下味、ダイダイコンのすりおろしに醤油。


 親子丼、カツ丼、うどんのつゆ、スタミナ焼き、けんちん汁、チャーハン……ううん、もっと、もっとだ。


「フフ、エルバ、楽しそうね」


「ママ、楽しいよ。このムラサキで料理の幅が増える、コメがもっと美味しく食べれる!」


「まあ、コメがまだまだ美味しくなるの? 嬉しい、コメのおかげで都市の人達は今まで疎かにしていた、食事を大切にするようになった……ありがとう、エルバちゃん」


 ママとパパ一緒にキッチンで料理をしていた、ミネルバ様が可憐に笑った。


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