第42話

「エルバ、この『リラックスモード』の姿になれば魔力はほんの少しで良いぞ」


「サタナス様のリラックスモード、久しぶりです」


 嬉しそうに涙目のアール君。サタナス様の『リラックスモード』とは省エネということかな。小説でサタナス様はそのもこ鳥の姿にはならなかったような気がする、まあ使い魔もだけど。


 うーん、モコモコで可愛いし、いいっか……じゃ、なーい。

 ここは、ちゃんと話さないと。


「私とサタナス様との『使い魔の契約がすでに終了している』ということは……サタナス様は私が魔力を枯渇で寝ている間に、勝手に儀式をおこなったという事ですね」


「……そうだが、ダメだったか?」


 さっき迄の美形なサタナス様とは違い、コテンと首を傾げ、もこ鳥はつぶらな瞳で私を見つめた。


 ――あはっ、モコモコもふもふで可愛い、触りたい!


「べ、別にダメではないですけど……使い魔の契約って特殊なものだと習っています。この契約は、サタナス様の自由だって奪ってしまうし……なにせ、私に断りもなくおこなうのはダメです。アール君のときだって……私、すごく悩んだんだから……」


「そうであったか……なら、ワタシが必ずエルバを守る、ではダメか?」


「僕も微力ながら、エルバ様を守ります」


 うっ! ふわふわ、もふもふパワーが増幅して、私は何も言えなくなる。これから先……私が危険になることはないとは思うけど……"もしもの"ときがあるかもしれない。


 そうなったときに、彼らが私の"せい"でケガをする姿は見たくない。とは言っても、契約が終わってしまった今では危険が伴う為に契約の無効にはできない。


 ここは心を決めないと……


 よし、こうなったらバンバン植物を見つけて博士に効能を聞いて、たくさんの調理を覚え。エルバの畑、エルバのレシピを充実させて、私が彼らを守れるように強くなるしかない。 


 ――なってみせるわ!


「わかった。これからよろしくね、サタナス様」

「うむ。ワタシのことは、これからサタでよいぞ」


「サタ? ……じゃ、サタ様と呼びます」

「サタ様ですか? いいですね。僕も今日からサタナス様を、サタ様と呼ばせてもらいます」


「うむ、サタ様か良いな」


 魔族の王――元魔王サタナス様は私の使い魔になった……いや、なっていたかな。


 しかし、ベッドの上にモコモコ、もふもふ……可愛い。


「そうだ2人とも、奥にある露天風呂にはいっておいでよ、温かくて気持ちいいよ」

 


「「露天風呂?」」

 


「ここをまっすぐに進んだら、すぐ見えてくるから。近くの真っ白な扉はトイレね」


 と、2人にタオルを渡した。


 タオルを受け取った2人は露天風呂が『何かわからないが、とりあえずいくか』と向かったのを見て、私は天蓋付きベッドの寝転び。


「凄いことになったなぁ、元魔王のサタ様が私の使い魔かぁ~」


 小説にはないことが起きてしまった……まあ、生きていれば違うことも起きるのは仕方がないとして。

 それよりも魔王サタナス様を使い魔にしたって言ったら……パパとママ、驚いて腰を抜かしちゃうかも。


 ――この説明は、サタ様に任せよっと。

 



 ❀



 

 エルバにタオルを待たされ言われだ通り奥に向かい、着いた先でモコモコ、もふもふの2人は初めての露天風呂に驚いていた。



「「なんだこれは?」」

 


「いつも浴びていた……シャワーじゃない。これがエルバ様が言っていた露天風呂? サタ様、変な匂いと水が白く濁っていて温かいです」


「なに、シャワーだと? 初めて聞くな。露天風呂とは……岩で囲い湯をはるか。うむ、300年も経つと風呂は水ではないのだな。アール、何事も経験だはいってみるぞ」


 2人、同時に露天風呂に飛び込み、お湯にプカリと浮かんだ。


「ほおおおお、気持ちいいです」

「なんと、いい湯かげんではないか? お湯が心地よく、体の芯まで温まるぞ!」


 露天風呂に驚きながらも、温かな湯にゆったり浸かるモコモコ、もふもふの2人。


「ふうっ〜、サタ様これは癖になります~」

「うむ、なるな~」


「サタ様、ここでキンキンに冷えた『レンモン入りシュワシュワ』が飲みたいですね」


「エールとはまた違う、あの爽快なやつか? ワタシも飲みたい」

 


「「うい〜っ」」

 


 この日、黒猫ともこ鳥は『露天岩風呂』を覚えたのだった。

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