第39話
どこかで魔物を狩ってきたサタナス様は、明かり魔法(ライト)の下にいた私を見て笑った。
「お前ら、ワタシがいない間につまみ食いはいいが、エルバの唇が真っ暗に染まっているぞ」
サタナス様に言われて、マジックバッグから手鏡を取り出して確認する。
隣のアール君は黒猫だから染まっていても見えない……だけど、私の唇はブラックベリリー色に染まっていた。
「真っ黒だ、ブラックベリリーが美味しくて気づかなかった……(フフ、サタナス様も同じ目にあわそう)甘酸っぱくて美味しいですよ、食べますか?」
「ほう、ブラックベリリーという果物か」
サタナス様にシェラーカップに採ったブラックベリリーを進めた。
彼は嫌がらず一粒取り優雅に食べ、私の真っ暗な唇を見てまた大笑いした。
「クク、これは美味いな。フフ、先程エルバの作ったもち鳥の雑炊も美味かったが、魔力が回復してひさびさに狩りと美味い肉が食べたくなった」
散歩の途中に見つけた、もち鳥、オオトカゲ、ビッグベア、飛竜ワイバーンを狩って、血抜きしてアイテムボックスに入れてきたと言う。それら全ての魔物たちが入ってしまう、サタナス様のアイテムボックスの容量に驚くしかない。
「ブラックベリリーは後で食べる。さて、肉を焼くか」
私の魂胆(こんたん)は見透かれ、サタナス様は狩ってきたオオトカゲをアイテムボックスから取り出し、ナイフで器用に捌きはじめた。私のナイフがいいのもあるけど、サタナス様は手際がよくオオトカゲの肉をさばき、お肉、皮と牙、骨になっていく。
食べれない内臓類は火の魔法で燃やしていた。
手際の良い、サタナス様の手元を見つめる私に。
「エルバ、このオオトカゲの皮と牙、骨は素材として人の世で高く売れるぞ。捌いたオオトカゲの肉は少し硬めだが、噛めば噛むほど味がでる」
凄い、サタナス様は人の里にいる魔物の場所も熟知していて、やけに魔物の素材にも詳しい。
「不思議ですか、エルバ様? サタナス様はひととき、人々の食事、生活を知るために人の世で冒険者をしていた時があります。僕もよくお供をして魔物と戦いました」
「ええ、サタナス様とアール君が冒険者? 魔物と戦った?」
「うむ。勇者が住む人の世を知りたくなった。暮らしてみて分かったが、ワタシ――魔王は存在するだけで害になるらしい」
――魔王様がいるだけで害?
「ほんと、おかしいです。僕たち魔族も人と同じように畑を作り、食物を育ている。まあ、人とは食べるものはちがうかもそれませんが……暮らしはさほど変わらないのに、人は僕達を害とみなします」
魔族は人にとって害か……ツノ、翼、尻尾など人には無いものを持つからかな? ママも言っていた……私達魔女、魔法使いも異なる珍しい魔法を使うから、人に見つかると捕まり、ひどい目に遭うと。
そんなの変だと思う。
何もしていないのに、存在するだけで嫌われてしまうなんて。――前世の私もそうだった、知らないうちに両親、妹、妹の周りの人達に嫌われていた――悲しいより、寂しかったかな。
今はパパ、ママ、サタナス様、アール君がいて幸せ過ぎる。
私は、ふと思ったことをサタナス様に聞いた。
「あの、一つ質問なんですが。サタナス様が狩ってきた魔物と魔族は違うのですか?」
ファンタジーゲームだと大体、両方敵だったような気がする。私は魔族と魔物の違いが、よく分からなかったのだ。
「魔族と魔物の違いか……魔族は魔物と違い理性と知性があるため、むやみやたらに人族に襲い掛かることはないし、主に人型をしていて魔族語、人語などの言葉を話す。中には人型をしていない魔族もいるがな。――そして魔物の中には念話なので会話できるものもいるが、殆ど会話ができないものが多く、魔物の多くは人に害をなす。凶暴化しなければ大人しい魔物もいるぞ」
「サタナス様、教えてくれてありがとうございます」
「うむ、年の功だ。わからないことがあれば聞くと良い」
ふむふむ魔族は知能が高く人を襲わない。
魔物の多くは人に害をなすのか。
「あと、魔族でも襲ってきたものは誰とで容赦なく、叩きつぶす」
「ええ、不届きものは全力で叩きのめします」
と、拳を握る2人にウンウン頷いた。
――戦わないと、やられてしまうもの。
❀
肉をさばき終えて、私は神様仕様のおひとり様パーツを丸ごと収納して持ち運べちゃう、トランク型の卓上コンロを取り出して、キャンプテーブルの上にひらいた。
「コンロのここに焚き火から火だねを入れて、この網の上でお肉を焼くんだよ」
「小さくて、可愛いコンロですね」
「そうでしょう、一目惚れして買っちゃったの。あと硬いお肉なら、筋切りをしてシュワシュワ(炭酸水)に15分から30分漬け込むと柔らかくなるから」
これはキャンプ雑誌に載っていたやり方。試しに安いお肉でやってみたら、本当にお肉が柔らかくなったのだ。
私はシュワシュワ入りの水筒と、大きめの鍋をとりだして、一口に切ったオオトカゲの肉をシュワシュワに浸した。
それに興味を持ったのか、サタナス様とアール君はオオトカゲのお肉を、シュワシュワに浸した鍋を覗き込み。
「ワタシの知らない、面白い調理法だな……どれどれ、やってみるか」
「はい、是非やってみましょう」
と言い。
2人は食べやすく切ったオオトカゲのお肉を、シュワシュワに漬けはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます