野草から始まる異世界スローライフ

にのまえ

プロローグ

 ここはアルクス国にあるシーログの森。

 その森の奥へとすすむ私の足元に、小さな丸みのある葉っぱが"モコッ"と地面から生えていた。


 私――エルバはみつけた薬草をながめ、心のなかで“博士これはなんという薬草?" と聞く。と、私のスキル"植物博士"が教えてくれる。


《これは、コロ草という薬草です》


 コロ草は食べられる?


《はい、食用です》


 効能はなに。


《骨を丈夫にする、カルシウムが豊富に含まれています》


 ――博士、教えてくれてありがとう。

 

 ふむふむ、コロ草には豊富なカルシウムか――だったらこの薬草を細かく刻んで魔法水を加え、乳鉢で練って、錠剤にすればカルシウムのサプリ。また、コロ草を乾燥させ薬研で粉末にして、コムギン、卵、バターを加えて混ぜクッキーを焼けば。子供たちも、簡単にカルシウムがとれる。


 カルシウムは大切だものね。

 これは……なかなか優れもの。


 博士、図鑑登録と、この草のタネをちょうだい。


《かしこまりました。これがコロ草のタネです》


 博士にコロ草のタネをもらい。私のスキル「エルバの畑」の画面を開き、そのタネを植えた。この"エルバの畑"は育成ゲームに似ていて、博士からもらったタネを植えればコロ草が実り、ほしいときにいつでも採取できるのだ。


 植えた薬草で畑がいっぱいになったら、ノートをめくるように、指を左へスライドすれば新しい畑に変わる。このエルバの畑はむげんに使えて、ひとつの畑に三十種のタネが植えられる――便利なスキルの一つ。


 いままでに見つけた食用、薬草、毒草、痺れ草を植えていて、畑の管理はすべて博士がしてくれる。


 畑には私の好物ジャロ芋、ダイダイコン、コムギンなどの異世界の野菜、穀物も畑に植えているから、料理をしたいときにいつでも採取できるのだ。

 

「よし、コロ草の登録は終わった。次の薬草を探すぞ!」



 いま、黒モコ鳥のサタ様、黒猫のアール君とで、冒険者ギルドで受けたクエストの真っ最中。


 ――その、受けたクエストの内容はというと。


【シーログの森に危険な、モンスターが生息していいないかの調査】


【シーログの森に危険な、植物が生えていないかの調査】というもの。


 このシーログの森は大昔――魔王サタナスと勇者アークが最後に戦ったとされる、歴史的にも貴重な場所。

 

 当時の爪痕がいまものこるシーログの森には魔素があふれ。それを浴び"特異変種となったモンスター"が多くすみつく。

 そのため――ベテラン冒険でもアルクス国の許可なく、この森には足を踏みいれられない。


 年に数回。この森の調査依頼クエストが国王陛下、直々ギルドに立ちあがるが。このシーログの森は未知の森とも呼ばれていて。ランクはS級以上、調査期間は三日間とみじかく。

 

 この森に住む、特異変種のモンスターとの戦闘は厳しいし、報酬――金貨5枚じゃ―割に合わない。

 

 もう一つ、みんなが受けたがらない理由がある。

 

 それは、数ヶ月――この調査クエストにでかけた、数名のS級冒険者パーティーが戻ってこなかった。 

 調査団が組まれて森に探しに向かって見たものは……無残なものだったとクエストを受けるとき、受付嬢に聞いた。


『あなたも、危険だと思ったら破棄しなさい』


 と、言われるほど、難易度の高い危険クエストなのだ。

 

 


 ❀

 

 


 博士、あの薬草は何?


《あれはギリギリ草といいます、食せば体が痺れる麻痺草です》


 隣の薬草は?


《グログロ草、毒草です》


 ――麻痺草に毒草はつかえる!


 博士、タネをちょうだい!


 滅多に入らない森の調査だからと、珍しい薬草、毒草、麻痺草を見つけては、ウキウキ先頭を切って私が進むものだから。頭上にのる"黒モコ鳥のサタ様"は、そのいく手を止めた。


「待て、エルバ! 知らない森だ。かわった薬草にふれるな、食べるな、ひとりで先に行くな。――このままだと、ワタシの護り結界から出てしまうぞ!」


「はーい、わかってる!」

「そこ、土がぬかるみが出来ている!」


「えっ? 土?」


 ズルッと……サタ様の護り結界から足が一歩はみでた。それをみて、怒りの頂点を超えたモコ鳥は「ワタシのはなしを聞いていないな!」と叫び、てグサッ、グサッ、クチバシ攻撃を繰りだす。


「ぎゃっ! いたっ! サタ様、許して」

「エルバ、ゆるさん!」

「ごめん、ごめんて……いたっ、……もう結界から出ないから許してぇ!」


 涙目で危険な森の中を駆けまわり。

 足元に、はじめみる薬草を発見。


「お、こんなところに変種薬草、はっけん!」 

「エルバ!」


 口うるさく怒るサタ様と、それに巻き込まれたくないと、黒猫のアール君は遠巻きに私達を見ていた。


「いい加減、サタ様もわかったでしょう? エルバ様がこうなったら終わるまで止まりません」

「そんなこと初めから分かっている」

「サタ様、僕達は何かあったときのために。いまは体力温存です」

「うむ。体力温存か……わかった。仕方がない、見守るとするか」

「ええ、そういたしましょう」


 黒猫と黒モコ鳥は呆れながらも、私に着いてきてくれる。かなり強い2人に守られて、私は珍しい発見に声をあげた。


「あ――、みんなソコ見て! あの木の幹にまぼろしの"野生のピコキノコ"発見!」

「なに、野生のピコキノコだと?」

「これが野生のピコキノコですか!」


 二人もその発見に食いつく。それもそのはず、ピコキノコは乾燥したものしかみたことがない。どこに生えているのかも、知る人しか知らない幻のキノコ。


 偶然見つけれたら。


 採れたてを網の上で焼いて食べるのもよし。切ってそのまま生で、スープ、炊き込みごはん、肉詰めにしても最高だ――と書物に書いてあるほどだ。


 ――グウゥ……お腹すいた。


 近くに焚き火の出来そうな場所をみつけ。私はアイテムボックスと併用のマジックバッグを下ろして、野生のピコキノコに夢中の二人に声をかけた。


「サタ様、アール君、ここで昼食にしよう」

 

「了解。余はさっき狩ったモチモチ兎をさばこう。エルバ、調理器具と調味料、ハーブミックスを出してくれ」


「はーい!」


 私はマジックバッグを漁り、アウトドアナイフ、まな板、調理器具、岩塩、ガーリック、ブラックペッパ、ハーブミックスを入れた、木製のスパイスボックスをとりだした。


「ありゃ、ハーブミックス……減ってきたね。そろそろ作らないと」

「そうだな、クエストが終わったら作ろう」

「うん!」

 

 このハーブミックスとは――オレガノ、バジル、タイムを魔導具のミルで粉々にして、風魔法と火魔法を使用して乾燥させて作った――お肉、お魚にかけて焼くだけで、臭みがとれて美味しくなる便利な万能調味料。


「サタ様、ココに道具を置いたから後はよろしく。アール君、ここにカマドを作ろう」


「はい、エルバ様」


 石を集めてカマドを作り、薪をマジックバッグから取り出して火をおこし。みんなでたのしく昼食の準備に取りかかった。

 

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