最強の美少女と謳われるワンパン姫を間違って倒したら、なぜか付き合うことになってしまった。彼女になったら可愛すぎて別の意味でKOされそうです

鹿ノ倉いるか

第1話 無敵のワンパン姫、破れる

 ~ワンパン姫side~


風合瀬かそせ奈月なつき、好きだ、付き合ってくれ!」


 柔道部のエース、権田ごんだ先輩は血走った目で私を見つめる。

 いや、睨んでいると言った方がしっくりくる目付きだ。

 朝の登校からヘビーすぎる展開だ。


「はぁ……いい加減にして下さい。もう先輩とは何十回もやってるんですよ?」

「いくぞぉお!! 風合瀬!」


 馬鹿の一つ覚えのように突撃してくる。

 あー、めんどくさい。

 あれで私を捕まえられるとでも思っているのだろうか?


 フェイントのつもりか、先輩は少し屈んで体勢を低くした。

 私はひらりと左にかわし、一歩踏み込むと同時に正拳を脇腹に打ち込む。。


「セイッ!」

「ぐほぉあっ!」


 少し手加減したけれどもろに入ってしまい、権田先輩はその場に崩れ落ちた。

 やっぱり今回もワンパンで終わってしまった。

 こんな調子だから私はみんなから『ワンパン姫』なんて呼ばれてしまうのだろう……


「もう二度と告白してこないでくださいね」


 一応警告してからその場を立ち去る。

 どうせまた挑んでくるだろうけど。


「あーあ。あんなこと言うんじゃなかった」


 ため息をつきながら学校へと急いだ。

 あまりにも色んな男子から言い寄られるので「私と付き合いたいなら決闘をして私を倒して」なんて言ってしまったことを悔いる。

 それ以降、こうして何度も色んな男子から勝負を挑まれていた。


 まあ毎回余裕勝ちだけど、さすがにこう続くと面倒くさくて仕方ない。


 学校についてシューズボックスを開けると紙切れが入っていた。


『果たし状


 風合瀬奈月様


 今日、放課後、体育館裏に来てください。

 今度こそあなたを倒してやる!

 覚悟しとけよ!愛してます』


「はぁ……」


 決闘の申し込みかラブレターかよくわからないカオスな手紙に頭が痛くなり、額を指先で押さえながら首を振った。

 きっと私はまともな恋愛なんて出来ないのだろう。


 いっそ超イケメンで優しくて頼り甲斐のある人が現れて私を倒してくれないかな……



 ──

 ────



 ~貧弱な古林くんside~


 僕、古林こばやし奏介そうすけはごくごく平凡な高校二年生だ。

 いつもクラスの隅で親友の伊坂いさかくんと静かに慎ましく高校生活を謳歌している。

 しかしいつも物静かな伊坂くんが今日は一段と沈んでいた。


「どうしたの? なんか困ったことあったの?」

「あ、古林くん……いや、なんでもないよ」


 あからさまになにかを隠している。

 優しい彼のことだ。

 きっとなにかトラブルがあるけど僕を巻き込むまいとしているのだろう。


「話してみてよ。力になるよ」

「いいんだ。ありがとう。ごめんね、心配かけて」

「僕ら親友だろ? 少しは頼ってよ」


 そう告げると伊坂くんは目に涙を滲ませて教えてくれた。

 たちの悪い不良に金を持ってくるように脅されていたらしい。

 はじめは従っていたが、どんどん要求がエスカレートしていき、今日の放課後プール裏に三万円持ってこいと言われたそうだ。


「ひどい奴らだね」

「はじめに要求を聞いてしまった僕が悪いんだ」

「伊坂くんは悪くないよ。よし、わかった。僕が代わりに話を付けてくるから」

「そんなの駄目だ! 古林くん」


 止める伊坂くんをなんとか説得して僕がその不良と話をつけることにした。

 親友のピンチを黙って見過ごすわけにはいかない。


 放課後。

 体育館裏に行くとまだ誰も来ていなかった。

 いったいどんなやつが来るのだろう?

 一人二人ならいいけれど、三人も四人もいたらさすがに怖い。


「は? なんで古林くんがいるわけ?」


 予想外の甲高い声が聞こえ、驚いて振り返る。


「か、風合瀬さんっ!?」


 やって来たのはなんとうちのクラスの女子の風合瀬奈月さんだった。

 美人な顔を台無しにするように眉間にシワを寄せ、険しい顔で僕を睨んでいた。


 まさか伊坂くんからカツアゲしていたのが、風合瀬さんだったなんて……


「言っとくけどガリひょろくんでも手加減とかしないからね」


 彼女は間髪いれず僕に向かって突撃してくる。

 そして体を捻り、殴りかかろうとしていた。


(これは本気でやる気だ。しかもそこそこ腕に覚えがあるみたいだな)


 とはいえ、いくら伊坂くんをカツアゲする不良だといっても女の子を殴るわけにはいかない。


「てりゃあー!」

「ハッ!」


 パンチを払うと風合瀬さんは驚いた顔をした。

 しかしすぐに全身を鞭のようにしならせて蹴りを放ってきた。

 とっさにガードをしたが、ずしんっと重い衝撃が伝わってくる。


(痩せてるのにこんなに威力が強いキックを放つなんて……脚だけじゃなくて全身を使っているからだな)


 風合瀬さんは武道をしているのだろう。

 それもかなりの腕前だ。

 油断したらやられてしまう。

 素早く風合瀬さんの手首を掴み、腕を捻り関節を極めながら背後に回った。


「痛っ! えっ、なに? 嘘っ!? ちょっと触んないで!」


 尚も暴れようとするので間接をぐいっと間接を極めるとさすがに抵抗をやめた。

 無駄に暴れないところを見ると、負けたことを認めたのだろう。


「くっ……そんなっ……私が負けるなんて」

「もう二度と伊坂くんに近寄るな!」

「伊坂くん? なんのことよ!」

「この期に及んで惚けるつもり?」

「意味わかんない! 古林くんが放課後体育館裏に来いって言ったんでしょ!」

「え?」


 風合瀬さんの不可解な顔を見て、僕は血の気が引いた。


「あっ!?」


 そうだ!

 伊坂くんは『プール裏』と言っていた!

 ここは『体育館裏』だ。

 場所を間違えている!


「ご、ごめん! 本当にごめん、風合瀬さん!」


 慌てて風合瀬さんの拘束を解いて駆け出す。

 早く行かないとプール裏の不良が逃げたと思って伊坂くんを追いかけるかもしれない。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「ごめんなさい! 明日ちゃんと説明するから!」


 風合瀬さんには大変申し訳ないけど、今は一分一秒を争う事態だった。



 ────────────────────



 待ち合わせ場所を間違って違う人と決闘をすることって、よくありますよね!(ない)

 そんなありがちな勘違いから二人の恋がはじまります!


 今回のヒロインは『風合瀬』と書いて『かそせ』と読みます。

 読みづらい名前なのでしばらくちょいちょいふりがなをつけます。

 そんなことするくらいなら名前を変えろって話なんですけど。


 ちなみに本作のR15指定は念のための保険ではないので15歳未満のお友だちは読んじゃ駄目ですよ!


 史上最強のヒロインと大人しい男子のちょっとえっちな格闘系ラブコメをお楽しみください!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る