第218話 戻る準備・2

「そうじゃないだろう?俺達みたいなS級と知り合って師弟関係になるのも一種の才能みたいな面があるから、ズルとは違う」

「.....そうかなぁ?」

「ああ。いくら何かの件で知り合ったからと言って誰彼構わず俺達だって弟子にする訳じゃない。弟子にしても良いと思わせる才能がリンにはあったと言う事だろ。そう言うのはズルとは言わない。違うか?」


.....まぁ、そう言われたらそうなんだけど....ある意味私の能力は女神様から貰った、最初からズルみたいなモノな訳だから。


かと言って、そんな事を師匠に言える訳もなく素直に頷いておく。こればっかりは私の心の問題なので仕方がないんだろうけれど。


「ま、お前に才能がなかったらそもそもにしてS級試験には通らないんだから竜種倒してS級になった暁には素直に喜んでおけば良いんだよ」


そう言って私の頭をポンポンと優しく撫でてくれる師匠に笑みを浮かべる。


「そうですね」

「そうそう」


確かに竜種を倒せるだけの実力を見せつければ誰もズルいだとかは言わなくなるだろうしね!


「正直なところ、全く心配してないしな。俺もカノープスも」

「え?」

「討伐対象の竜種さえ見つかればお前の事だから簡単に倒しそうな予感しかしないからなぁ。ぶっちゃけると、相当規格外な能力してるって自覚がお前、あるのか?」

「.....あるにはあるんですけど.....」

「自覚があるなら良いんだよ。自覚が無くて規格外な奴の相手が一番困るからな」


しみじみと言う師匠に、もしかして過去にそんな相手に困らせられた事があるんだろうか?と想像してしまう。


「.....経験者は語るってやつですね!」

「まぁそうだな。お前がそんな奴らと同じようになるとは思ってないがお前を利用しようとする奴らは必ず沸いて出てくるからそれだけは気をつけろよ?何かあれば必ず俺かカノープスに相談すれば良いから」

「.....わかりました」


実際に今までエルフの国で匿って貰ってたみたいなものだしねぇ……。


「取り敢えず明後日には屋敷を発つから準備はしておくんだぞ?」

「はい、大丈夫です!翻訳の仕事の引き継ぎも終わりましたからね。と言っても王宮の書庫にある翻訳の必要な本はもう殆どないんですけどね」


翻訳の仕事を始めてから数年で殆どの本は全て翻訳が終了して、最近では新しく入荷するのと同時に翻訳も始めるからすぐに暇になって皆でお茶をする時間の方が多いぐらいだったから。


それに荷物は基本的には無限収納に入ってるからそこまで整理する必要もないしね。強いて言えばこの屋敷で生活するようになって増えた物ぐらいだろうか。


「.....必要のない服なんかは屋敷に置いてて良いそうだ。母さんや父さんがまたいつでもお前に来て欲しいからってな」

「ふふふー。何だかそう言われると嬉しいですね!」

「.....これだけ一緒に住んでたらお前も娘みたいに思ってるんだろ」


アダラさんやミルザムさん達は私も凄く好きだからそう思って貰えたなら本当に嬉しい。まるでこの世界での私の家族みたいに思えるから。


「.....そう考えるとこの屋敷を離れるのが寂しくなりますよね」


冒険者なんかをしてたら別れなんていくらでもあるだろうに。ここまで仲良くしてくれた人達との別れがこの世界に来てから初めてだから余計にそう感じるのかも知れない。


「そうか?会おうと思えばいつでもまた来れば良いんだし、連絡もすぐに取れるからなぁ」


そう言って伝達魔法を手のひらに展開する師匠を見て、それが出来るのは一部の人だけですよ?と呆れたのは内緒だ。



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