第198話 閑話 シリウスとカノープス

「それで、実際問題としてグレイス王国は大丈夫なのか?」


深夜と呼ばれる時間帯にひっそりとまるで密談でもするかのようにひとつだけ灯りのともる部屋があった。それはシリウスの部屋であり、ソファに対面で座りお酒を飲みながらカノープスとの会話を続けている。



流石にリンに聞かせる内容ではないかと思い、昼間には言わなかったがやはり気になるのは自身がギルドマスターをしていた要塞都市もあるグレイス王国の事だった。


まさか自分達がエルフの国に戻っている間にこんなにも問題が起こるとは誰が予想出来ただろうか。勿論目の前で優雅にワインを飲んでいるカノープスですら思いもよらない事態だっただろう。



「ん~……正直わからないが、まぁ王族含めた高位貴族家には魅了魔法が効かなくなるアミュレットをばら蒔いて来たから今以上に酷い事態になる事はないんじゃないかな?」

「そうなのか?」


カノープスが思ったよりも軽い調子でそう言うのにシリウスは訝しげな視線を向ける。



「そもそもあの聖女が使う魅了魔法はまず同性には効かないみたいでな、異性限定。で、魔力量自体が宮廷魔導師になれるぐらいにはあるみたいだがそれでも少ない方なんだよ。だから聖女より魔力量が多い相手には効きにくいのが前提にあるんだ。だから掛かって不味い王族には真っ先にアミュレットを渡したし、聖女は王城で保護していたから王城で働いている男連中には全員配布してきた」


カノープスは簡単に言うが王城で働く男連中は多い。半端なく多い。それを全員分のアミュレットを作ったとは.....。


「アミュレット本体を魔導師達に作らせて俺が上からまとめて魔法を掛けただけだからそこまで大変ではなかったぞ?ただ数が多いから時間が掛かっただけだ。城に勤めていない高位貴族も居るからなぁ」

「.....ああ、確かにな」

「伯爵家以下は聖女のターゲットには入ってないみたいだから除外出来たのは助かったけど....何だか女の本性丸出しみたいな聖女だから。第二王子もいくら魅了魔法に掛かっていたとはいえ、何であんな女に騙されるやら」



呆れて物が言えないとカノープスが溜め息をこぼした。



「それが魅了魔法の怖いところじゃないのか?」

「ばーか、魅了魔法なんてのは自分の意志がハッキリしてる奴は掛かりにくいんだよ。現に何度か公務で会っていた王太子殿下や国王陛下には魅了魔法が掛かっていない。まぁ個人の魔力量の違いもあるけど.....第二王子は二人より少しだけ魔力量が少ないからな」

「そうなのか」

「ああ。だが微々たる違いだ。ようは第二王子に隙が有りすぎただけだな。元々女関係にだらしないとも言われていたから」



王族としてそれはどうなんだとシリウスなんかは思うが、だからこそ王族とも言えるので何とも言いがたい表情になってしまうのは仕方がないだろう。



「そんな訳でこれ以上聖女の好き勝手にはならないだろうし、いくら聖女がごねても結果的には今回の問題を起こした責任として第二王子と婚姻させられる筈だ。国王陛下もクソ聖女を国外には出したくないだろうし、こんな問題を起こして子爵になる第二王子に娘を嫁入りさせようと思う貴族家なんて居ないからな」

「.....まぁそうだな。それなら良いんだが.....」

「心配しなくてもクソ聖女がリンと関わる機会なんてないだろうから安心しろ。クソ聖女が街に降りてきたとしても行き来するのは教会だけだから教会さえ気をつけていればリンがグレイス王国に戻ったとしても大丈夫だろ」



シリウスが心配していた事をカノープスも予想していたのだろう。



「.....それにしても、シリウスがそこまで過保護だったとは思わなかったな」

「まぁ、そうだな....自分でも過保護だとは思うが.....どちらかと言えば問題が起きた時に被害が出るのがリンよりもグレイス王国な気がするんだよなぁ.....」

「なんだそれ」



ハハハとカノープスは笑うがシリウスとしては至極真面目な感想だ。



何故そう思うのかは自分でもわからない。けれどきっとそうなってしまう気がしてならなかった。













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