第175話 提案
「でもどちらにしても羨ましい能力だよ。どんな本だって翻訳し放題じゃないか」
ウェズンさんが羨ましそうに私を見た。
「翻訳、ですか?」
「ウェズンは王家直属の文官でね、城で主に書籍の翻訳を担当しているんだよ。古代エルフ語で書かれた蔵書から人の国に伝わる古書なんかのね」
アダラさんがそう少しだけ自慢気に息子の仕事を説明する。うんうん、エリートな息子は誰彼構わず自慢したくなるよね!
そんなアダラさんとウェズンさんを内心ではニヤニヤしながら交互に眺めてると、流石にその私の視線の意味に気がついたのがウェズンさんが恥ずかしそうに補足してきた。
別に恥ずかしがらなくても良いのに~。
「古代エルフ語が読めるとは言っても現存している本の最古は数千年前に及ぶ物もあるから、かなり独特な言い回しの物もあって難しいんだよ。間違った解釈で翻訳する訳にもいかないからなかなか進まないんだ」
「.....確かに.....」
現代の常識で間違って翻訳しちゃったら、今後その間違った知識の方が後世に残ってしまう。だからこそ慎重に慎重を重ねて翻訳していかなければならない。
うん、大変な仕事だよね。
「あら、ならリンに翻訳を手伝って貰えば良いんじゃない?」
「は?」
アルドラさんが唐突に突拍子も無い事を言い出したから吃驚する。慌ててアルドラさんの方を見れば本人は素晴らしい提案をしたかのように自信満々な笑みを浮かべている。
え?何その表情。
「アルドラ?」
アルドラさん以外の3人も何を急に言い出したんだ?とばかりにアルドラさんを見ているが本人は慣れているのか当然とばかりにその視線を受け止めていた。
「あらだってお兄様を含め城の文官達は翻訳が進まなくて困っているのでしょう?そこに完璧に翻訳の出来るリンが居る。リンは将来の為にもお金を貯めておいた方が良いだろうから、城の臨時文官として雇いお給金もきちんと払う。ほら、誰も損をするどころかお互いに良いことずくめでしょう?」
た、確かに言われてみればそうかも?何時までも師匠の実家にご厄介になるのも心苦しいし、どちらにせよ修行が終わった後で独り立ちする時には先立つものはあればある程良いことには変わらない。臨時とは言えお城で文官として雇って貰えればお給料もそれなりに貰える筈だから下手な場所でバイトするよりマシだよね?
現実的に考え出したらアルドラさんの提案が一番良いように感じてきた。上手いなぁ、アルドラさん。
ただ私の一存で決めて良い問題ではないだろう。一応師匠であるシリウスさんが居るのだから。
その事にウェズンさんもアダラさんも最初から気がついて居たんだろう。アルドラさんを嗜める。
「アルドラの言い分は理解するし、良い提案だと僕も思うがリンはシリウス兄さんの弟子だ。まずは師匠であるシリウス兄さんに話を通してからするべき事だよアルドラ」
「そうだね。師匠であるシリウスを無視して私達で勝手に決めて良い話ではないよ」
「そうよ~アルドラちゃん。師弟の関係はエルフの中では家族よりも重いものよ?弟子の全ての責任を取るのは師弟なのですから」
「そ、そうだけど.....」
流石に3人から立て続けに言われてはアルドラさんもそれ以上は黙り込む。
うん、提案その物は私本人も凄く良いとは思うんだよね。
「だがその提案は凄く私も良いとは思うから、シリウスには私から話をしてみよう。リンはどうだね?文官として城へ勤める気はあるかな?」
アダラさんにそう聞かれて頷く。
「そうですね。私はまだエルフの国を良く知らないのでお城で働かせて貰えるなら逆にありがたいです。アルドラさんの言う通り、将来的な意味でお金はいくら貯めてても困る事はないですから」
私がそう告げると、最初に提案したアルドラさんが一番驚いた表情をしていた。
後で理由を聞くと余りにも子供らしくない言動に年齢を誤魔化してるんじゃないかと思ったのだとか。
.....まぁある意味間違ってはないかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます