第176話 閑話 シリウスと愉快な仲間達

「お~!シリウス!ここだここだ!!」


ガラリと戸口を開けて店に入った途端にナシラの大きな声が俺の名を呼んだ。店内に響き渡る声に店に居る顔見知りや常連客の視線が此方に向くと皆が俺の顔を見て驚いた表情を見せた。


「お前!シリウスじゃねーか!?随分と久し振りだなぁ!?いつ戻って来たんだ!??」


そう言われるのも仕方ないだろう。ここ百年程エルフの国の実家には戻ってなかったのだから。


「一週間程前かな。ミルトンのギルドマスターを辞めたから弟子を連れて実家に戻ったんだ。暫くは実家にお世話になるつもりだから弟子共々宜しくな」


そう店のオヤジに話ながらナシラの居るテーブルへと向かう。テーブルにはナシラの他にエルフの国に居た時の友人達が揃っていた。


「.....お前ら揃いも揃って暇人なのか?」

「仕事はちゃんとしてるぞ。だがあれだけ頑なに弟子は取らない発言していたお前が弟子を取る気になった心境が気になるから来たんだよ」

「それを暇人だって言うんだぞ」


ナシラの他に、俺が冒険者に成り立ての頃にパーティを組んでいた幼馴染みのタウとイオタとラスが居た。皆、家が近所で幼い頃から家を行き来をし、良い遊びも少しだけ悪い遊びも楽しんだ所謂悪友達だ。


俺が人の国でSランクの冒険者として活動していた時にも依頼で手が必要な時には頼りにしていたメンバーでもある。因みにタウとイオタはAランク、ラスは俺と同じSランクだ。今は三人とも冒険者活動はエルフの国でのみしているようだ。ナシラは冒険者登録はしていないが実力ならAランク相当の強さはある。何故冒険者登録をしないのかは俺達仲間内でも理由は知らない。まぁ知る必要もないだろう。


「それよりも!あれだけ弟子は要らないって言ってたのにどうして弟子を取ったんだよ?何か心境の変化でもあったのか?」


俺の分の飲み物を注文したラスが聞いてくる。


「.....ん~…...心境の変化って言うよりも、何て言うか危なっかしくて見てられない?」

「何だ?ソレ」

「いや、アイツには凄い才能があるんだがその使い方をちゃんと理解出来ていないんだよな。使ってるんだけど効率が悪いと言うかなんと言うか」

「へぇ~。リンちゃんそんな優秀なのか」


ナシラは一度会っているからか、リンの様子を思い出しているようだ。


「ああ。アイツは凄い。多分俺よりも遥かにな....だから今のままじゃ勿体ないんだ」

「そっか、じゃあ力は凄いけど基礎がなってない状態な訳か~。シリウスにそう思わせるぐらいだから相当なんだろうね。リンちゃんって言うぐらいだから女の子なんだろ?可愛いい?」

「めちゃくちゃ可愛い。あれは将来絶体に美人になるね!」


イオタがニヤニヤしながら俺に視線を向けるとナシラが力説する。


「え~!シリウスまさかそれ狙ってるんじゃないよねぇ?」

「いっその事、今のうちに婚約者にでもしちゃえば良いんじゃない?お前が帰って来たってエルフの女の子達が騒いでたから!」

「そうそう!見合いとかで煩わされないですむじゃん」


口々に勝手な事を言い出す面々に俺は溜め息をつく。


「あのなぁ…....リンはまだ子供だし、俺の家は縁談は一切受け付けないって知ってるだろう?」

「そりゃあ知ってるさ。お前ん家は恋愛結婚推奨派で有名だからな!」

「だからお前の弟妹もまだ相手が居ないんだしなぁ」

「あ~…....そうか、まだ居ないのか」


人の事は言えないが弟と妹もまだ相手が居なかったとは.....だがこればっかりはどうしようもないからなぁ……


「今は子供でもエルフと違って人の成長は早いぞ?あっと言う間に大人になってるぞ」

「それは.....」


確かにそうだがそんなつもりでリンを弟子にした訳じゃないんだかな.....。


「.....まぁ取り敢えずは師匠として弟子を立派に1一人前にする事が一番大事な事だよ」


勝手に盛り上がる友人達に溜め息をひとつつきながらそう答えればブーイングが巻き起こる。何を期待しているのかは知らないが、そもそも相手の気持ちがあって初めて婚約とかはするもんじゃないのか?俺の考え方が間違ってるのか?


友人達を見ていると自分の認識が可笑しいのではないのかと思えてくるから不思議だ。


そしていつの間にか話題が既に俺の事から俺がエルフの国を離れていた間の話で盛り上がり、酒盛りが終わる頃には既に日付が変わろうとしていたのだった。




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