第154話 バレッタの街・5
買い物から宿へと戻ってきた私達は夕食を取る為に宿に併設されている食堂へと向かう。私達が宿泊しているこの宿は宿泊施設と食堂の経営者が違うらしく兄妹で運営してるんだと師匠から聞いた。何でもこの兄妹と師匠は知人らしく、この街に来る時には必ずこの宿に宿泊するんだとか。
「探せば高級な宿は他にもあるんだが、この宿は飯も旨いからこの街の中では一番のお薦め宿なんだよ」
「へぇ~そうなんですね」
「それに、下手に貴族階級が泊まる宿に行って難癖つけられたら困るしな」
.....確かに。特に今は言ってみたら逃亡しているようなものだしねぇ....
私が苦笑して見せると師匠も溜め息をひとつついた。きっと師匠は私だけの事じゃなく、今までにも貴族階級の人達に色々迷惑を掛けられて来ているんだろう。
いくつか師匠オススメの料理と私が気になった料理に、果実水と果実酒を頼み明日からのスケジュールを打ち合わせする。
「取り敢えず明日は午前中にギルドで買取り金を受け取って街を出ようと考えてるんだが....リンは他に何かこの街でやりたい事とかはないのか?」
運ばれてきたオーク肉のシチューの味に舌鼓を打ちながら師匠の言葉を頭の中で反芻する。
.....この街でやりたいこと....って言われてもねぇ...
「まぁ特にはないですね」
特段この街でしか出来なさそうな事もないみたいだし、気になる食材や調味料関係も今日見た感じならミルトンよりも種類が少なかったし買いたい物は今日買っちゃったしねぇ.....。
「どちらかと言えばこの街よりもエルフの国の方が気になると言うか」
言ってみれば鎖国状態....とは少し違うけど人の国が不可侵の国なんて秘密があり過ぎて興味を出すなと言う方が可笑しいよね?本にのってない事実とか有りそうだし。
私の考えてる事がまるでわかってるかのように師匠が苦笑を溢す。
「....お前が考えてるような特殊な国じゃないからな?まぁ強いて言えば俺から見てもエルフには美形が多いから昔は人によるエルフの誘拐も多かったそうだ。誘拐して奴隷にして権力者が侍らして優越感を得るんだ。それが一種のステータスになってたそうだぞ?」
「うわぁ.....さいあく....」
想像しただけで虫酸が走る。
「だろ?流石に見かねた当時のエルフの王が人の国全てに絶縁を提示したそうだ。人の国に対して一切の支援を打ち切るとね。流石に焦った人の国の王達がエルフを誘拐し奴隷にして楽しんでいた貴族やショウニン達を一斉に取り締まり処罰してエルフの王に許しを乞い、不可侵条約を結んで今に至る訳だ」
「.....貴族達って本当にロクな事しませんね」
ないわー。馬鹿じゃないの?
「まぁ、貴族連中の皆が皆、そんな奴らじゃない事を知っているから俺は個人的に付き合ってる奴も居るんだけどな」
「それはそうなんですけどね」
でもその良心的な貴族達の努力を無駄にするような行為をするのもまた貴族達だからタチが悪いんだよね~
「じゃあ明日はギルドに寄った後にそのまま出発で良いんだな?」
「はい。構いません....そう言えばこの街からエルフの国までは近いんですか?」
この街がエルフの国に向かう最後の街だと言うのは聞いていたが実際ここからどのぐらいの距離なんだろう?
「ああ、この街を出た所からまた街道沿いに森が広がってるんだがその森が入り口になるんだ」
「森が....入り口に?」
「そうだ。森のなかからエルフの国に入るんだが、人がエルフの国に勝手に入り込まないように幻術を掛けてあるんだ」
師匠はいつの間にか私と師匠の回りに結界を張り、周囲に私達の会話が聞こえないようにしている。それだけこの話が重大な話だと言う事だろうか?
「人がエルフの国に勝手に入れない事は周知の事実だから隠す必要はないんだが俺達が今から行く事はあまり知られない方が良いからな」
「....確かに?」
国王から派遣された騎士団がこの街に来れば聞き取り調査も行われるだろう。その時に私達の事が街の人達の話題から出る可能性もある。
「エルフの国にさえ入ってしまえばどうも出来ないが念には念をいれておいて損はないから」
その後の打ち合わせは部屋でする事にして、私達は取り敢えず食事を楽しんだ。
翌日、午前中に再度ギルドに行きギルマスのカストルさん直々に買取り金を受け取った。
「もう行くのか?」
「ああ....当分大丈夫だとは思うけど、いつこの街に来るかわからないからな。一応カノープスには逐一報告しろとは言ってあるがカノープスが部隊を率いてる訳じゃないからな」
「そうか....まぁまた状況が落ち着いたらいつでも来いよシリウス。リンもまたな」
「はい。ありがとうございます!」
「うーん.....良いねぇ、可愛い弟子で。俺も弟子を取ろうかなぁ」
冗談なのか本気なのか、こんな時なのに和やかな一時を堪能する。
「.....よし、じゃあ行くか」
「はい」
バレッタの街を出て、ようやく私達はエルフの国へと向かうのだった。
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