第133話 スタンピード・5

魔獣の大群の第二陣が間を置かずして視界に入ってくる。砂煙が段々と近づいてくるのを冒険者や騎士達も厳戒態勢でいる。先の魔獣との戦闘で怪我をした人達は城壁の中へと入れ治療を受けていた。減った分の人員を補充する人員は今の王都にはおらず、残ったメンバーで魔獣と闘わなければならない。けれどそれでは確実に魔獣達に押し負ける可能性が高い。


一か八かの大勝負


カノープスさんの立てた作戦はこうだ。


「リン、準備は良いか?」


カノープスさんが杖を構える。さっきまで杖は使っていなかったが魔力と火力を際限なく増幅する為なんだとか。


「上手く出来るかわかりませんが頑張ります」


初めて使う魔術だから上手く出来るかはわからない。けど黎明レイメイも力を貸してくれると言ったから大丈夫!


『我が魔力が安定するように補助しよう』

『うん、ありがとう』


「シリウス、魔獣の最後尾が視界に入ったら合図だ」

「ああ」



魔獣の大群は横一列に規則正しく並び縦に何万と引き連れて街を破壊していく。先頭があれば必ず最後尾がある。


それを全て____


「リン!」

「はい!!【風壁ウィンドウォール】【風檻ウィンドジェイル】!!」



無詠唱で発動された魔術は魔獣達の四方八方を風の壁の結界で覆い、更に風の檻を作り出し拘束し魔獣1匹すら抜け出せないようにする。風の壁は正面からの攻撃は防いでしまうが、上空からの攻撃は通るのだ。ただ範囲が広すぎて私の魔力と集中力が持つか、魔獣が競り勝つか。


「カノープスさん!お願いします!!」



そして行き場を失った魔獣を上部から超広範囲殲滅魔術で焼き尽くす。


「【加具土命カグヅチ】」




それは一瞬の事で、まるで日本で言う大爆発を目の前で見せられたかのように炎が風の壁の中を駆け巡り燃え尽きる。魔術を展開している私には直にその凄まじい炎の力が振動で伝わってくるようだった。けれど風の壁で結界を張っていたお陰で炎は周囲に広がることなく、中に居た魔獣だけを殲滅させたのだった。


「.....うん、生きた魔獣の反応はないな....リン、もう魔術を解いても大丈夫だ!」


カノープスさんはそう言うと閃光弾を一発空に打ち上げた。これは全ての魔獣を倒したと言う合図だ。


風壁ウィンドウォール】【風檻ウィンドジェイル】を解いた瞬間足元から崩れ落ちる。


『リン!?』

『だ、大丈夫....流石に魔力を使いすぎたわ』


あとあれよね、魔獣を全部倒せた事に対する安心感が一気に足に来た感じ....。



そして1拍置いて背後から大歓声が聞こえてくる。ようやく他の冒険者や騎士の人達も魔獣との戦闘が終わったのだと実感したのだろう。


「お疲れ様、リン」

「.....カノープスさん、最後のあの魔術は....」

「うん。あれが超広範囲殲滅魔術加具土命。炎を創りだして攻撃するんだけど、威力が半端なくてね。結界の中でないと大陸全土を一瞬で焦土に出来るぐらい威力があるから滅多に使えない魔術かな」

「.....え~……」


そんな危険な魔術使ってたのか!?結界持たなかったらどうするつもりだったんだろ.....。いや、考えるのはやめておこう.....。


「ひょおっ!?!」


ひょいと急に持ち上げられ驚いて顔を上げるとギルドマスターがまさかの私をお姫様抱っこしてした。


「えっ?ギルドマスター!??」

「魔力使いすぎて歩けないんだろう?街まで運んでやるよ」

「いや、でもギルドマスターも疲れてますよね!?少し休めば大丈夫ですから!!」


うん、お姫様抱っこなんて日本含めて初めて過ぎて恥ずかしさ満点なんですけど!?


変な意味では決してないけど自分の顔が赤くなるのがわかる。うう~っ!!


「良いから大人しく運ばれてろ....お前は良く頑張ったよ、リン」

「.....はい....」


両手を赤くなった頬にあて、斜め上にあるギルドマスターに視線を向けると幼子に見せるような優しげな笑みがあった。



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