第43話 視察
「俺の話は別に良いんだよ....それよりギルドの視察だ視察!」
何故Sランクだったギルドマスターが冒険者を辞めてギルドマスターになったのか気になるところではあるけど、それは今回の目的ではないし個人の事情を他人から聞くのもあれよね。
「そう言えば視察って何をやるんですか?」
私は態とらしくギルドマスターに同調するように話を反らす。
「そうねぇ、大抵ギルドで不正が行われてないかの確認作業が主になるわね。例えばギルド予算の横領とか?」
「....ちなみに今までそんな事あったんですか?」
「勿論あったわよ。だからギルドマスターが私に変わったんだし」
いやその辺りの事情は知りませんが、そうか普通に横領とかあるんだ......。悪い事を考える人はどこにでもいるんだな。
「一応前回の視察から昨日までの帳簿関係は全て揃えてあるわ。まぁ、この私がギルドマスターで有る限り不正なんて絶対にさせないし、出来ないだろうけどね!」
キッパリとそう言い切るアリオスさん。
しかも"させない"はわかるが、"出来ない"とは一体?
「どうして出来ないんですか?」
「あら、それはね私のスキルがそう言った悪意や罪悪感を見抜く事に特化したスキルだからよ」
「悪意や罪悪感を見抜く」
「ええそうよ。人は悪い事をしたら必ず悪意や罪悪感を心の中で浮かべるものよ。それが自分で意識してるか無意識かはわからないけどね。その敏感な物を感じ取れる能力が私にはあるのよ、だから悪い事をしたら直ぐに私にバレるわ」
「.....それは.....凄い能力ですね」
「ふふふ、でしょ~?ギルド職員にはこのスキルを隠さないようにしてるから、このギルドで悪い事をしようとする職員は居ないわ。直ぐに捕まるもの!」
確かに。そんなリスクを犯す馬鹿は居ないだろう
「じゃあどうしてギルドマスターは毎年視察に来てるんですか?」
「まぁ一応王都のギルドへの報告上、来ない訳には行かないんだ。この要塞都市ミルトンを含めた領内にあるギルドを統轄しているのがミルトンの冒険者ギルドになるからな」
そうなのか。それなら毎年視察に行かないといけないのもわかる。恐らくメントスだけではなく他の街のギルドにも時期をずらして視察に行ってるんだろう。
「.....でもこの量の資料を1人で確認してたらいくら時間があっても足りないんじゃないですか?ホワイトバードの狩りには私1人でも大丈夫ですけど......?」
この大量の帳簿関係資料を全てギルドマスターが確認し終えるまで自分は待たなくてはならないのだろうかと思ってしまう。
「いや、直ぐに終わる」
そう言ってギルドマスターが帳簿の一冊に手を乗せるとパアッと淡く帳簿が光り、その光は徐々に消えていった。
「これは俺のスキルの内のひとつで、間違いやミス、改竄があれば判るようになっているんだ」
「え、何その視察に特化したスキルは!?」
「普通はこんな使い方をするスキルじゃないんだが、視察に時間を取られるのが嫌で俺が応用させたんだよ」
「スキルを応用させたって簡単に言うけど、そんな直ぐに出来るようなもんじゃないのよ?そこはやっぱり魔法の扱いの上手いエルフだからかしらね」
呆れたようにアリオスさんがギルドマスターに視線を向けると、ギルドマスターは肩を竦めるポーズを取る。イケメンは何をしても絵になるなぁ。
「そう言う訳で今日中に視察は終わって、明日にはホワイトバードの生息地に行けるから大人しくしておいてくれないか?」
まぁそう言う事なら......。
「わかりました」
その後、本当に数時間で視察を終えたギルドマスターだった。
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