第025話 ファーストキスは潮風と葉巻の香り(11)
「……
「……あなたの生い立ちや事情には、汲むべきところも多いです。ですがやはり、この艦の強奪の理由にはなりえません。わたくしが……フォーフルール家が軍と国へ進言し、
「できない相談だ。まず、
ギナがいよいよフィルルへ顔を向け、きつい視線を浴びせる。
「公海上ってのは、軍艦はうかつにウロウロできねぇ。とたんに周辺の国と緊張状態だ。お嬢さんのコネは、周辺の国すべてに及ぶのかい?」
「そ、それは……」
フィルルは反論できず、ギナから顔を背けて俯き、言葉を失う。
ギナの言う通り、
そして、
「……だから俺らみたいなのが、勝手にやってる
「で、では……ギナさんたちは……。四方の国から追われながら、広い海の上でただ一隻、
「ああ。燃料も食料も、あちこちの無人島に隠してあるからな。二、三年はなんとかなるさ。お嬢さんはいまから、救命いかだで帰す。陸に戻ったら、俺たちの手配書を派手に刷ってくれ。ただし懸賞金はつけるなよ。追手が増えるからな、ははっ」
「……ほかの人質は?」
「さて……どうするかねぇ。このまま乗せていても、無駄飯食らいにしかならないからな……。適当な無人島にでも、捨てていくさ。そこの操舵手は腕が良さそうだから、仲間に欲しいところだがね。俺の話も聞いちまったし」
「……………………」
一時、返す言葉を失うフィルル。
ギナの言い分は、現実的で合理的。
しかしフィルルの心中では、素直に従えぬなにかが燻ぶっている。
「……ギナさん。あなたの言い分は、極めて合理的です。ですが将来、第二、第三の
話しながらフィルルは気づいた。
ギナの正論には、己自身が犠牲になるという欠陥があることに。
それに気づけるのは、ギナを愛した女……。
ギナの母親、そして自分、フィルルであることに。
ブラックハープーンの
ギナはそのフィルルの異論を受け、フン……と鼻で笑った。
「じゃあ、
「……軍での対応が難しいなら、各地で自警団を立ち上げましょう。自警団の船舶による、事前の監視活動。船上から
「ずいぶんとまあ、気の長い話だな」
「時間を要することでも、人々が協力し合えばそのぶん短くすみます。先ほどの自警団の話を、各地の
「……黙れっ!」
……シャッ!
ギナが左手の
眼鏡越しに、ひん剥いた両目でフィルルを睨みつける。
それでもフィルルは、普段の微笑染みた糸目を崩さない。
「あなたのその、心の逸り……。母上に代わって、わたくしが破断いたします……」
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