第002話 この縁談……破断させていただきますっ!(2)
「……そう言えばフィルルさんは、陸軍を志願されているんですよね? 陸軍の華の広報部隊……。女性兵だけで構成された、陸軍
「え、ええ……。幼きころからの、わたくしの憧れなもので……。来年、入
「わたしも
「ええ、まことに。わたくし、
──陸軍
ドグが言った「国営の歌劇団」という表現が的確な、麗しき
この国の多くの女子が憧れる存在で、フィルルも例外ではない。
四年に一度の入
加えて受験資格が十五歳から十八歳までという、一生に一度しか挑めない狭き門。
そしてその門を一度くぐると、年齢上限の二十四歳まで退役不可。
フィルルは受験までの一年間に、「
(……入
そんな我欲にまみれたフィルルの内情を無視しつつ、お見合い相手のドグもまた、我欲まみれの言葉を重ねる──。
「だけど困りましたねぇ……。わたしは妻となる女性には、常にそばにいてほしいのです。
「えっ……? ですが
「それはそうなんですが……。やはり七年という歳月は、長いですよ。いかにフィルルさんが魅力的な女性だとは言え、七年も離れ離れでは、お互いの気持ちに揺らぎも生じるのではないでしょうか?」
(出た……! また……! 前提無視の身勝手男! 見合いの相手はいっつもこう! わたくしが求めているのは、七年後の結婚相手……すなわち婚約者だと! お互いに待つ七年間で、双方己を磨き合いましょう……と、口すっぱく伝えてありますのに!)
「聞けば
(このパターンもいつもの! わたくしが入
「当家の血縁と財産が
(ああもう……。この
フィルルが膝の裏でいすを後方へ押しのけ、席を立つ。
直立の姿勢でドグを見下ろしたまま、同行させていたメイドの名を口にする。
「……クラリス、剣っ!」
「あ……えっと……。は……はいっ」
それまで部屋の隅に立っていたフィルルお付きのメイドが、少しとまどいながらも、壁に立てかけられていた二本の鋼鉄製の剣を、両手に握って運ぶ。
受け取ったフィルルが、二本の
──シャッ……カランカラン!
背を正して立ち、足を肩幅に広げ、双剣を左右へゆらりと広げるフィルル。
その突飛な行動に驚き、呆然といすに座ったままのドグ。
再び部屋の隅へ戻り、フィルルの双剣の間合いから離脱するクラリス。
フィルルはスゥ……と軽く息を吸うと、胸の前で瞬時に、双剣を握る両腕を交差させた。
「この縁談……。
──ガキイイイィン……ザシュッ!
フィルルが左足を一歩前に出して、前のめりになりつつ双剣を一振り。
空気を切り裂くかのような鋭い一閃が、宙で交差した。
左右へ広がって振り下ろされた双剣。
のち、わずかに場に漂う静寂。
それを破ってフィルルが、前に出した左足のかかとを、トン……と一踏み。
──ガタガタガタガタッ!
白いテーブルがホールケーキのようにきれいに四等分され、床へ崩れ落ちる。
破断はそれにとどまらず、テーブルの左右にあった空席のいすも、背もたれと座いす部分を分割した。
目の前の家具が折り重なって瓦礫と化したのを見て、ドグが悲鳴を上げる──。
「ひいっ……ひいいぃいいぃいいっ!?」
(わたくしとの結婚を七年待ってくれる、上玉の眼鏡男子……。この地に……いないものかしら? ふううぅ……)
フィルルが左右の剣を、同時にピッと振った。
それから切っ先についた木くずを払いながら、心中で大きく溜め息をつく──。
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