腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~
明治サブ/角川スニーカー文庫
開幕 悪魔祓師は十三歳
◆
少女
真里亜はベッドに潜り込み、震えている。部屋中を満たすカサカサと何かが
――この屋敷は、
四日前、本国・
……それからというもの、夜になる度に、この怪奇現象に悩まされることとなった。
異国の港で貿易業を営むとき、この手の――その国が他文化圏出身の妖魔に
日の沈まぬ大帝国として世界に君臨する母国から、極東くんだりにまで商いの手を伸ばしている武器商人たる父、その娘である真里亜は、そういった事情をよく知っていた。
武器商人たちの目は今、この国――吹けば飛ぶような小国たる日本に注がれている。
理由は、戦争だ。帝国が『
……真里亜は現状に絶望していた。そんな折、一通の手紙が届いた。
『
――ゴン、ゴン
玄関から、ドアノッカーの音。来た! 来て
「――失礼、レディ。こちらです」
下から声がした。見るとそこには、おままごとか何かであろうか、ぶかぶかの軍服を着た子供が立っていた。真里亜は戸惑う。軍人と聞いて筋骨隆々な偉丈夫を想像していたが、実際にやって来たのは身長一四〇サンチ程度しかない少年だったのだから。
「大日本帝国陸軍・
アノクタラ・カイナ――物珍しいその名前と、目の前にいる
「そんな、真里亜――…」皆無の方もこちらを覚えて呉れていたようで、何やら泣き出しそうな顔をしている。思わぬ再会が、それほどに
真里亜はまじまじと、十三歳の
「失礼いたしました、レディ」皆無が直立不動で敬礼する。そこにあるのは軍人の顔だ。
そんな皆無が、腰の拳銃嚢から拳銃を取り出してみせる。武器商の娘たる真里亜は、その銃を知っている。昨年開発されたばかりの自動拳銃、『試製南部式』だ。
真里亜は銃の持ち込みを快諾し、幼馴染を中へ案内すべく先導する。
「失礼します」ぺこりとお行儀よく頭を下げ、皆無が玄関のドアを開いた。
「……暗いですね」廊下を歩きながら、少年がぽつりと
それはそうだろう、今夜は月が出ていないのだから。真里亜は少年に、足元に気を付けるよう忠告する。
「はい、ありがとうございます――ぅっひゃぁ!?」何かにつまずいたらしい少年軍人が、素っ頓狂な声を上げた。
「……【新月の夜・夜空を駆けるラクシュミーの下僕・オン・マカ・シュリエイ・ソワカ――
振り向いて見てみれば、少年の
「何でもありませんよ」少年がにこりと
応接室に着き、真里亜は皆無にソファを勧める、自分はテーブルを挟んだ対面に座る。
「あ、ありがとうございます」少年が
真里亜はこれまでのいきさつを洗いざらい話した。
話の後、悪霊が
「今はこの部屋にいますが……大丈夫です。すぐに
皆無が懐から細長い小箱を取り出す。小箱には『大天使弾』と記載されており、日本での暮らしが長い真里亜にも、その意味は読み取れた。
少年が慣れた手つきで箱を開くと、中から実包が出てきた。武器商の娘・真里亜の見立てによると、八ミリ口径、ボトルネック型のリムレス
「【御身の手のうちに】」右手の二本指を、まるで剣のように鋭く伸ばして額に当て、
「【
「【力と】」左肩へ、
「【栄えあり】」右肩へ当てる。
ぽぅ……と、少年の左拳が白い光を帯びる。
「【永遠に尽きることなく――
少年が左手を開くと、大天使弾がキラキラと光り輝いている。その輝きは美しいが、同時に何故か真里亜の胸中を不安にさせる。
「聖別したこの弾丸で、今からこの屋敷に巣食う
少年が南部式自動拳銃を抜く。独特の丸い
脅かさないで欲しい、と真里亜が抗議すると、
「いいえ、いますよ」
少年が、ひどく寂しげに笑った。その手には、南部式が握られている。
「――――ここにね」
真里亜の視界に、八ミリ口径の銃口が映った。
「――――■■■■?」どうして、と呟いたはずだった。
が、その声は、数日来悩まされ続けてきた金切り声そのものだった。
◇同刻/同地/帝国陸軍
弾丸は、真里亜を名乗る悪霊の頭部を破砕せしめる。
最後には、淡く白く輝く、蠅のような塊が残った。電灯も点いていない、蝋燭の明かりもない真っ暗な部屋で、
皆無の足元では、
皆無は南部式自動拳銃を腰の銃嚢に収め、静かに
――――――――明治
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