5 戻る

 お役目を終えたステッキはバレッタに戻る。

 

「行くのね」

 

 小奈津の質問に春火は頷く。

 そして、春火は小奈津に智里のノートを渡した。


「どうか、彼女の無念を、晴らしてくれ」


 小奈津はノートを春火から受け取り、首を縦に振る。

 

「頼んだぞ」

 

 そう言って春火はパッと姿を消した。


「あっれえ?」


 教室の中から声がする。見ると倒れていた七人の女子生徒達が起き上がっていた。


「なんでうちら、倒れているの?」


 七人がきょとんとしている中、小奈津は彼女らの前に立ち、智里のノートを突き出した。


「このノートに見覚えは?」


 自分でも驚く程冷たい声だった。小奈津の言葉に一人の女子生徒が泣き出す。


「うちらのせいだよ! うちらが!」

「はあ? あれはそもそもあんたが」


 七人の中で見苦しい責任転嫁が行われる中、一人の女子生徒が机を叩いた。

 場が静まった直後、机を叩いた彼女が言う。


「もうやめよう。うちら全員が智里を追い詰めたんだ。うちらがあんなことをしなければこうはならなかった……先生に、全部話そう……」


 七人全員が賛同する。それを見届けた小奈津は智里のノートを近くの机に置いてその場を後にした。

 外を見ると、真っ暗になっていた。

 小奈津はハッと我に返る。


「あっ! 暗っ! あっ! ケーキ! あっ! 冬木いいいいいいい!」


 冬木をほったらかしてきたのだった。

 せっかく一緒にケーキ食べようと誘ってくれたのに。


(もう帰ったかな)


 そう思って小奈津がとぼとぼと歩いていると、下駄箱に人影を見た。

 近づくと、人影の正体は冬木だった。


「冬木? 待っててくれたの?」


 今までずっと。

 冬木は外に目をやった後、小奈津に向き合って言った。


「夜道を一人で歩くのは危ない。送るよ」


 冬木の言葉に小奈津は鞄を落とした。


「う、うん。ありがとう」


 小奈津は鞄を拾い、冬木の隣まで走る。

 暗くて良かった……赤い顔が冬木に見られなくて済むから。


         *


 蝶が舞っている。黒で縁取られた虹色の蝶が目の前に来て飛び回る。

 その美しい蝶はひとしきり飛び回ると、今度はすうっと前に飛んだ。

 導かれるようにして蝶を追いかける。

 すると、光が見えた。



 真夜中の総合病院のある病室。

 交通事故で入院している智里の指がピクリと動く。




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