第8話 波乱万丈

「強そうなのがいっぱいあるなぁ」


流石に50ポイントまで来ると、結構強そうな物が出て来る。


「けど……ほとんど前提スキルありきだ」


前提スキルというのは、スキルを習得する際に事前に――要は、準備段階として取っておかなければならないスキルの事を表す。

ゲームなんかでよく使われる表現で、この前提スキルが無いと新しく強いスキルが取れなかったりする。


剣気ブレードオーラとかカッコいいけど、まあ後回しだよな」


剣気ブレードオーラは剣術Lv1を前提とするスキルだ。

発動させると剣にオーラが発生し、攻撃力と耐久力が上がる。


あ、耐久力ってのは僕自身の防御能力じゃなく、オーラを纏う剣の方ね。

壊れにくくなる様だ。


このスキルの良い所は、剣がオーラに包まれる所である。

絶対かっこいいので、戦闘でイキルのに正にピッタリの技と言えるだろう。


今はIPがそこまで余裕がないので諦めるけど、そのうち絶対取るつもりだ。


「お……」


スキルのチェックを終え、次は魔法の方に移る。

そこで僕は一つの魔法に目を止めた。


「姿形を変える魔法か」


正確には、姿形を別の形に見える様にする魔法だ。

幻術的な誤魔化しに近い感じだね。


「追われる身としては、姿形を変えられるのは大きいよな。でも少し我慢すれば済む問題でもあるし、必須って訳じゃないんだよなぁ」


追手はまだ、街の外には向かっていないと思う。

出入りが厳重にされてるからね。

だからまだ、僕があの街にいると思って探しているはずだ。


え?

流石に、1週間もあればもう探しつくされてるんじゃかって?


大々的に捜査したんなら、まあそうだろうね。

でも、家は僕を堂々と探せないんだ。

片腕の息子なんて、いないって事になってるからさ。


もし下手にお触れを出したら、ガゼムス家が恥をかく事になりかねない。

面子を重視する家――片腕がないだけで、ずっと牢屋に閉じ込めてたぐらいだから――みたいだし、きっと内々に済まそうと、今も隠密裏に捜査が続けているはずだ。


当然そうなれば、探索には相当な時間がかかる。

あの街はかなり大きいから、街の外への捜査にはまだ移れていないだろう。


「まあ厳重なガゼムス家の屋敷を脱出してるから、ひょっとしたら街の出入りも同じ様な感じで突破されたって考えてる可能性もあるけど……」


もしそうなら、周囲の街にはもう調査の手が入っている可能性は十分考えられた。

けど――


「どっちにしろ関係ないよな」


余計な痕跡を残さない様、街には今までも近寄らない様にしているのだ。

このままガゼムス家の影響圏外にさえ出てしまえば、こっちの物である。

隻腕が目立つとはいえ、そこまで行けばそう簡単に捕捉される心配はない筈だ。


「これが10ポイントぐらいなら、迷わず取るんだけどね」


街に寄る為だけに、今あるポイントの大半を費やすつもりはない。

これは保留だ。


更に、僕は他の魔法もざっと確認して――


「うん、保留にしとこう。今回みたいに、急に何かが必要になるかもしれないし」


イキリを目指す身としては、保険重視の立ち回りはどうなんだって気もするけど……まあそこは気にしないできにしないでおく。

本格的にイキリるには、今の僕の能力や立場は微妙過ぎるから。


「う……うぅ……ん」


マントを敷き、その上で寝かせていたエルフの少女が目を覚ます。


「大丈夫か?」


「あ……あの……ありがとうございます」


少女は慌てて立ち上がり、大きく腰を折って頭を下げた。

この世界でも、お辞儀はある様だ。


「たまたま通りがかっただけだ。気にしなくていい」


そう言って、気にするなとクールに片手を上げる。

うん、勿論格好つけた。

『ピロリン』とIPが加算される。


「ありがとう……ございます」


「森の中は魔物が居て危険だ。家なり、帰る場所まで君を送って行こう」


余計な詮索はしない。

ただ救いの手を差し出すのみ。

くぅー、我ながらカッケェ。


『ピロリン』と音が鳴る。

格好つけてポイントも溜まるとか、本当に神仕様だよ。

IP交換システムは。


「実は私……ハイエルフなんです。それで、人間に攫われてしまって」


誘拐されたのか、この子。

と言うか、何が‟それで”なのかがよく分からない。


ゲームやアニメでは、ハイエルフってのはエルフの上位互換扱いになっている。

ハイなんてついてるんだから、きっとこの世界のエルフでも同じ感じなんだろう。


けど、それが何故誘拐に繋がるのか?

ひょっとして王族とかそういう扱い何だろうか?


「実は……ハイエルフの血には、奇跡の霊薬を生み出す力があるって言われてるんです。それで、私の村は……うっ……うぅ……」


話の流れ的に、辛い事でも思い出したのだろう。

少女が泣き出してしまった。


「……」


女の子に、目の前で泣かれた経験はない。

漫画とかだと主人公が抱きしめたりしてるが、それは流石にハードルが高い。

とにかく、僕は彼女の頭を優しく撫でる事にした。


「私のせいで……村の皆は……」


しばらくして、泣き止んだ彼女が、自分の身に起こった事をぽつぽつと話し出した。

きっと、誰かに吐き出さずにいられないんだろう。

僕はそれを黙って聞いてあげる。


「……」


ハイエルフと言うのは、どうやら滅多に生まれて来ない存在らしい。

彼女の生まれ故郷は森の中にある小さなエルフの村で、そこにハイエルフが生まれたのは1000年ぶりの事だったそうだ。

そしてその血は、奇跡の霊薬の材料として古くから重宝されていた。


村のエルフ達は、彼女が危険に晒されない様ハイエルフである事を隠した。

しかし昔から交流のあった人間の行商人に、それがバレてしまったそうだ。


そしてその情報が漏れた事で、エルフの村は人間の襲撃にあい、彼女以外は皆殺しにされてしまう。

そして攫われた彼女は牢に閉じ込められ、霊薬の精製の為に血を抜かれ続ける事となる。


あの注射針の跡は、どうやら霊薬用の採血の跡だった様だ。


そんな生活が1ヵ月程続いたある日、彼女は牢屋から出され、護衛の大量についた馬車に乗せられる。

その目的地は分からなかったそうだが、道中、襲撃があった様だ。


その護衛達と襲撃者の戦い。

その際に監獄仕様の馬車が破損し、彼女は逃げ出した。

死に物狂いで。


何とか無事森に逃げ延びた彼女だったが、運の悪い事に、今度は山賊盗の様な奴らに捕まってしまう。

そしてそいつらにアジトへと連れていかれる際中、その集団は突然魔物の襲撃を受けた。


彼女はその混乱を利用し、山賊達から逃げ延びる。

それが1週間ほど前の話だ。

そして彼女は森の恵みで飢えを凌ぎ、あてもなく森をふらつき続けた。


――そしてゴブリン達と遭遇してしまう。


ゴブリンに襲われそうになった彼女は死に物狂いで逃げ回り、もう体力が尽きて転んでしまった所に、俺が現れたという訳だ。


……波乱万丈すぎだろ。

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