第3話
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それから、俺とゴウキはあの公園のベンチに集まるようになった。そして毎日、二人でゴウキお勧めのエッチな動画を見るのだ。イヤホンを半分こして、小さな画面を二人で覗き込みながら。
「俺、ハラムさんが一番好きだ」
「別格だもんなぁ、あの人」
「でも、タチだと好きな人何人か出来たよ」
「誰?」
「不義さんと、仇事さんと、あと……」
「お前、タチは誰でもいいんじゃねぇか」
「誰でもは良くない!ハラムさんが小さいから、体の大きな人が良いんだ!自由を奪われてる感じが……イイ」
「お前、分かってんじゃねぇか」
出た。ゴウキからの「分かってんじゃねぇか」。俺はゴウキからそう言われるのが好きだ。だって、それを言う時、ゴウキは必ず俺の頭を撫でてくれるから。今も撫でてくれてる。嬉しい。
「ふへへ」
「つーかさ、あられ」
「なに?」
「お前も、コッチなの?」
「コッチって?」
「……ゲイなのかってこと」
ゴウキが先程までとは違って、物凄く気まずそうな顔で尋ねてくる。しかも、全然目を合わせてくれない。
「男の人が好きなのかって事?」
「そうだよ」
「あんまりちゃんと考えた事ないから分かんないけど、俺は多分女の子が好きだと思う」
「……」
「ゴウキは?」
「……俺、もう塾だから」
ゴウキは自分が聞いて来たくせに、俺から目を逸らしたままスマホを鞄に仕舞った。耳に入っていたイヤホンもスルリと抜き取られる。
「ゴウキ?」
「じゃ」
いつもなら「またな」って言ってくれるのに、その時のゴウキは「またな」って言ってくれなかった。そんなゴウキの後ろ姿が、なんだか凄く嫌で、俺はゴウキに向かって叫んだ。
「ゴウキー!また明日―!」
ゴウキはいつもと同じで、こちらを振り返らない。でも、いつもと違って片手も上げてくれない。それが何となく嫌で、俺はもっと叫んだ。
「俺、女の人も好きだけど、ゴウキも好きだよー!また、明日―!」
もう一度、最後に「また明日」をくっつける。だって、俺とゴウキを繋げる糸は、この約束しかない。
「ゴウキー!」
「あぁぁっもう!分かったっつーの!」
俺がもう一度名前を呼ぶと、ゴウキはいつもと違って此方を振り返ってくれた。少し顔が赤い気がするのは、夕日のせいだろうか。
「また、明日―!」
俺がもう一度ダメ押しで叫ぶと、今度こそゴウキはいつものように片腕を上げて返事をしてくれた。
それが嬉しくて、やっぱり俺はゴウキの背中が見えなくなるまで、その後ろ影を見送っていた。
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