第2話 妹と話をする

「いただきます」

「いただきます」


 夕食の時間。

 いつものように俺は舞と二人で食事をしている。

 両親は外国で働いていて留守だ。これが我が家の平常運転。

 いつだったか舞に『お兄ちゃんが読んでいるラノベみたいだね』と言われた事があるが、現実で何かが起きたりはしない。

 俺は学校でリアルなぼっち生活を送っている。

 はばたくような人間になれと名前を付けてくれた両親には申し訳ない。その両親は外国をあちこち移動しているみたいだけど。

 ちなみに今日のメニューは焼き魚に味噌汁に白米といった和食である。


「ふぅ、美味しい。やっぱり舞の作る料理は最高だな!」

「褒めても何も出ないからね」

「あはは、知ってる」

「で、あの女は誰よ?」

「やっぱり見逃してはもらえないか……」


 俺は考えて答える。


「……それがさっぱり分からないんだ」

「へぇーそうなんだ。本当に心当たりがないの?」

「ああ、ないな」


 俺はきっぱりと答える。

 実際問題として彼女の記憶が俺にはないのだ。

 いくら考えても思い出せないものは思い出せない。


「子供の頃に遊んでいた男だと思っていた幼馴染とかじゃなくて?」

「ああ、違うな」


 舞も俺の買ってきたラノベを読んでいるので発想が似てしまうようだ。

 でも、残念ながらその可能性はゼロだ。

 だって俺には一緒に遊んでいた友達なんていないからな!


「うーん、それじゃあ本当に知らないんだね」

「そうだな。俺は今日初めて彼女と出会った」

「そっか、分かった。お兄ちゃんは騙されてるんだと思う」

「えっ?」


 何を突拍子の無い事をと思う。だが、舞の意見ははっきりしていた。


「だっておかしいもん。あんな可愛い子が突然現れて『あなたのことが好きです』なんて言うわけないし」

「まあ、確かに言われてみると変かもしれないけど……」

「お兄ちゃんを騙して何を企んでいるのか分からないけど、お兄ちゃんは渡さないんだからねっ!!」


 妹が珍しく声を上げる。

 それだけ兄を心配してくれているのだろう。


「大丈夫だよ。俺を信じてくれ」

「うん、信じるけど……。もし何かあったらすぐに連絡してよね」

「ああ、もちろんだ」


 そんな感じで夕食を食べ終わった後、俺は自室に戻ることにした。

 妹はリビングでテレビを見るようだ。


「じゃあまた明日ね、お兄ちゃん」

「おう、またな」


 俺はそう言って自分の部屋に入る。

 そして机に向かって椅子に座ると大きく息をつく。


「はぁー、疲れたな……」


 今日は色々ありすぎた。

 いきなり現れた美少女に告白されるし、その子は隣に越してきたようだし、妹と話をしたし。


「ふう、いつもよりはいろいろあったな」


 こんな経験、今まで一度もなかった。


「それにしても彼女は一体何者なんだ……?」


 高嶺有彩と名乗った少女。

 なぜ俺なんかのことが好きになったのだろうか。


「まさか、これは夢じゃないよな?」


 頬を思いっきりつねってみる。


「痛い……だと!?」


 どうやら現実らしい。……マジかよ。どうしてこうなった?


「……とりあえず、寝るか」


 もう夜遅い。考えるのは後にしよう。

 今はゆっくり休んで明日の朝一で考えよう。そう思った時だった。

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