謎の彼女
けろよん
第1話 彼女との出会い
不思議な出会いとは誰でもいつかはする物なのだろうか。
ピンポンが鳴って玄関を開けたら知らない少女が立っていた。
俺と同い年ぐらいの高校生の少女だ。だが、知らない人だった。
目が合うと彼女はにっこりと柔らかい笑顔で微笑んだ。
「こんにちは。風岡翼君!」
「どうも」
俺は戸惑いながら返事をする。俺のフルネームを知っているこの少女は何者なのだろうか。
パッと見は綺麗な美人に見える。ミスコンの優勝だって狙えそうだ。だが、接点が見つからない。
こんな可愛い人が両親のいないこの家に何の用なんだろうか。
「ここは風岡翼君のお宅ですよね?」
「はい、俺が風岡翼ですけど」
「やっぱりそうだ。そうだった。知ってた!」
「知ってた!?」
俺は彼女なんて知らない。だが、ニコニコ微笑んでいるところを見ると敵対する意思は無いようだ。
このヒロイン実は男だと思っていた俺の幼馴染で…………なんていう、ありがちな展開が待ち受けているのか?
いや待てよ。もしかしたら彼女は俺を陥れようと何かしらの勧誘を仕掛けてきたのかもしれない。
そうだとしたら、俺は彼女にどう対処すればいいんだ? とりあえずドアを閉めよう。
「セールスはお断りで」
「待ってよ。ドアを閉めないでよ。ゲームが終わっちゃうよ!」
「何のゲームだ?」
「私がヒロインの壮大なストーリーのゲームです」
「……エロゲー?」
「違いますー!」
両腕を振ってあたふたとする彼女。
こうした事に免疫は無いようだ。
次に恥ずかしそうに両手の指を突き合わせた。
「翼君は私とそういう事したいんですか!?」
「いや、別に」
「即答!?」
ショックを受けて落ち込む彼女。
そういえば、この女の子は一体何で俺の名前を知っているんだろう。
さっきから何度も名前を連呼しているけど、どこかで会ったことがあるっけか? こんな可愛い子なら忘れるはずがないんだけどなぁ。
……まあ、それは後々考えるとしてだ。
今は目の前にいる彼女についてもっと詳しく知る必要があると思う。
まずはこの子に色々と質問してみよう。
「えーっと、君はどうしてここにいるんだい?」
「もちろん! あなたに会いに来たんだよ!」
「俺に会いに来たって……どういうことなんだ? 俺達初対面だろ?」
「ふふん♪ 私の名前は高嶺有彩。これからよろしくね」
「あっはい。こちらこそよろしくお願いします」
たかみねありさ。やはり聞き覚えの無い名前だ。
だが、なんかいきなりよろしくされてしまった。
それにしても綺麗な声をしているなぁ……。
まるで声優さんみたいに透き通った声で聞き惚れてしまうくらいだった。
「そんな他人行儀な態度取らないでよ~」
「ごめんごめん。でも本当に初対面だと思うんだけど……」
「でも、私はあなたのことを知ってるよ。だってずっと見てたもん」
「ん? それってどういう意味なんだ?」
「それはね……こういうことだよ!!」
すると突然、彼女は俺の腕に飛びついてきた。
そしてそのまま体を密着させてくる。
むにゅうぅ~と柔らかい感触が腕全体に伝わってきてドキドキしてしまう。
それに彼女の顔がすぐ近くにあるせいか、甘い匂いが鼻腔を刺激してくるし。
このままだと変な気持ちになってしまいそうだ。とりあえず一旦離れてもらおう。
「ちょっちょっと!? 何をするんですか!? 意味が分からないんだけど!」
「えへへぇ~、男の子がそういうこと言う? これは挨拶代わりだよぉ~。だから遠慮しないでどんどんスキンシップしていこうね」
「そ、そういう問題じゃなくてですね……」
この彼女は何かやばい。いろいろすっ飛ばして迫ってくる。
慣れない展開に俺は焦ってしまう。
そのドキドキを彼女は勘違いしたようだ。
「ほほう。これはつまりこういうことかな? 私のことを異性として意識しちゃったとか?」
「いやいや、違いますよ!! 俺はただびっくりしただけですから!!」
「うふふっ、照れなくてもいいのにぃ~。それと何で敬語になってるの?」
「びっくりしたからだよ!」
それと彼女の背後に恐い人達がいないか警戒したからだ。でも、大丈夫。恐い人達はいない。俺は何も悪い事はしていない。
彼女だけが平常運転だ。
「気なんて使わなくて大丈夫だよ? 私たちはもう友達同士なんだからさ」
「とも……だち……?」
「そうそう。私たちはお隣同士のお友達。いわば親友といっても過言じゃないよね!」
「はぁ……親友ですか」
いつの間に俺たちはそんな関係になったんだろう。
とりあえず一つ分かった事があった。彼女は隣に越してきたんだ。それで俺に挨拶に来たんだ。それだけなんだ。
だが、分からない事もある。どうしてこの子は俺のことをここまで知っているんだ? 親しく接してくるんだ? 気になる点が多すぎて頭がパンクしてしまいそうだけど。
とにかく一つ言えることがあるとすれば……俺にとって彼女は危険だということだけだ。
ここは逃げの一手を打つしかないだろう。
「あはははっ。それじゃあ俺はそろそろ家に戻ることにするよ。これからお隣さん同士よろしくね」
「えっ!? まだ話は終わってないんだけど……ってあれれ? どこに行くつもりなの?」
「そりゃ自分の家に帰るだけさ」
「ダメだよ! ここから帰るには私が一緒じゃないといけないんだから!」
「何言ってるんだ? そんなわけないだろう」
「だって私、あなたの恋人なんだもん」
「……はい?」
……今なんて言った? 俺の耳がおかしくなったのか? 恋人って聞こえたような気がするけど……。
きっと聞き間違いに違いない。さっきは親友と言ったじゃないか。その前は友達と。どれもありえない。
そう思ってもう一度聞いてみることにしよう。
「あのー、すみません。よく聞こえなかったんでもう一回お願いできますか?」
「だからぁー、私とあなたは付き合ってるんだよ」
「……」
やっぱりおかしいぞ。俺の記憶では彼女と付き合うどころか知り合った覚えすらない。
それに恋人だなんてありえない話だ。俺はずっと…………ぼっちだったからな!
「悪いけど冗談はやめてくれ。君とは今日初めて会ったはずだ」
「うーん、困ったなぁ。どうすれば信じてくれるのかなぁ……」
「そうだな。まずはそのふざけた態度をやめることだ」
「それは無理だね。これが地だし」
「じゃあ俺の前だけでも普通の女の子らしく振る舞ってくれ」
「それも難しい注文だね。私、演技苦手だしさ」
「はぁ……。これじゃあ話が進まないじゃないか」
どうしたものかと頭を悩ませている時だった。
俺の後ろから足音と声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、ご飯できたよー」
妹の声だ。
わざわざ呼びに来てくれたらしい。助かった。
「ああ、すぐ行く。ありがとう」
「誰か来てるの? ……って、誰その人?」
「初めまして。私は高嶺有彩と言います。これからよろしくね、舞ちゃん」
「あっはい、こちらこそ……」
彼女は礼儀正しく頭を下げて自己紹介をする。俺の名前を知っている有彩は舞の名前も知っているようだ。
すると、舞の目がだんだんと鋭くなっていく。
「ちょっと待って。なんであたしのお兄ちゃんに抱きついてるんですか?」
「ん? これはもちろん、スキンシップだよ」
「スキンシップねえ」
「俺は何もやってないぞ」
手を出してない事を必死にアピールする。妹の舞にはいざという時に証人になってもらわないといけない。
何かあった時に俺は何もやってないと証言してもらう証人に。
「そう、なら仕方ないね。ただし、うちのお兄ちゃんに手を出したら許しませんよ」
「分かってるよ。安心していいからね」
「なら、いいけど」
こうして俺たちは一旦、リビングへと戻る事にした。
でも、なぜか背中に強い視線を感じる。
俺は恐くて振り返る事ができなかった。
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