誕生日の奇跡

モリワカ

誕生日の奇跡

十一月十三日 知らない人にとっては何の変哲もない、ただの日のように思うだろう

だが、その日は特別な日だということを俺は知っていた


そう、今日十一月十三日は俺の誕生日だ

年に一度の特別なイベントだ


高校生にもなって自分で誕生日のことを人前にひけらかすのも、どうかと思う人がいるかもしれない

でも、考えてみてほしい


自分が生まれた記念日を祝わない人が、どこにいるだろうか

自分のことが嫌いな人はいるかもしれないが、それでも誕生日くらいは一人でも祝うだろう


今日は誕生日だから、奮発していい肉を買って帰ろう、とか

明日は誕生日だから、今日を乗り越えれば一息つける、とか

誕生日を理由にして毎日を生きている人も、中にはいるに違いない


俺もそのうちの一人だ

今日が俺の誕生日だという理由で今もコンビニのパンコーナーの前でにらめっこをしている


学校終わりにいつも買っているメロンパンの隣に『高級メロンパン』と書かれた爆弾があるのだ

いつも買っている方は一つ百二十円

対して、この高級メロンパンは二百円もする

約二倍の値段は、高校生にとっては結構でかい


さて、どうしたものか

ええい! ここで考えていても仕方ない

誕生日なんだから少しくらい奮発しても誰も文句は言わないだろう


俺は高級メロンパンを手にもつ

その後ろで、いつも買っているメロンパンが悲しそうにしているように見えた

今日は買ってくれないの? と言わんばかりの表情をしていた


ああ! もうわかったよ!

両方買えばいいんだろ!

俺は流れるように二つのメロンパンを持ってレジに並ぶ


レジで会計を済ませ、レシートまでもらう

ん? レシートに何か書いてある


『QRコードを読み込んで豪華賞品を手に入れよう!』


何かのキャンペーンでもしていたのか

こういうのにあまり興味はわかないが、少しくらいならしてもいいかもしれない

俺はスマホでQRコードを読み込んだ


メールアドレスと性別、そして誕生日を入力していく

そして、当たりかはずれか画面に表示される

俺の画面に表示されたのは


当たり


の三文字だった

まあ、多くの人に当たるようになっているのだろうと、キャンペーンのサイトを開いてみた

そこには抽選三名様と表示されていた


さ、三名にしか当たらないのか

俺はそのうちの一人に選ばれた、ということなのか

それはとても確率が低いんじゃないか!?


気になる商品の方は、俺の最推しのシュリナちゃんのフィギュアじゃないか!

コンビニでもコラボしてたのか! 知らなかった

推しとして失格だ


商品の方は後日配送してくれるらしい

住所と電話番号をさらに入力して、俺はコンビニを出る

いやあ 誕生日だとこんなこともあるもんだな


それにしても今日は天気がいい

日曜日で早起きしたかいがあった

誕生日当日には何人かの友人からおめでとうメッセージがあった

毎年毎年 律儀にしてくれるいいやつらだ


家に帰ろうとすると、商店街の方で福引をしていた

特賞は最新ゲーム機だそうだ

前々から欲しいとは思っていたが、人気過ぎてどこへ行っても売り切れになっている


俺は一回だけ回してみることにした

今日は誕生日だからもしかしたら……… と思いながら回す

出てきたのは金色の玉


「大当たりいいいいいいいい!!!」


おじさんが、割れんばかりの大声で言った

まさか 本当に当たってしまうとは思わなかった

誕生日の運ってこんなに強いのか?


おじさんから最新ゲーム機をもらい、ホクホク顔で家に戻る

家に入ろうとすると、突然顔に柔らかい感触があった


「あ、ごめん いたの」

「う、うん」


姉がどこかに出かける途中だったようだ

姉とはいい関係を築けていると思う

近すぎず遠すぎない お互いちょうどいい距離感を維持している


「そうそう あんた今日誕生日でしょ プレゼント 机に置いといたから」

「あ、ありがと」


そう言って、姉は出て行った

姉には彼氏がいる 俺には彼女の一人もいないのに………

唯一大きい胸を武器に男を引っかけているという噂までたつほどだ


という事は、俺はそのバカでかい胸に顔を当たったということか!?

いくら姉弟とはいえ高校生 思春期真っ盛りだ

反応しない方がおかしい


俺はリビングに行き、手洗いうがいを終わらせる

姉の言っていた通り、机には綺麗に包装された箱が置いてあった

こうやって毎年ちゃんとプレゼントを用意してくれるのも、姉弟愛の成せるわざだろう


俺はゆっくり包装を破り、箱を開けてみる

中には、俺が推しているシュリナちゃんの声優さんのサイン入り色紙が入っていた

高かったはずなのに、ここまでしてくれるのはとてもありがたい

色紙の他にも一通の手紙が入っていた


『我が弟へ 誕生日おめでとう いつもあまり構ってあげれてないけども、お姉ちゃんは弟のことをとても大事に思っている それだけは事実 こんな手紙でしか気持ちを伝えられない不器用な姉だけどこれからもよろしく 姉より』


手書きで書いていて、心がこもっているのが俺にも分かる

普段はぶっきらぼうな態度をとってはいるが、本当は弟思いないいお姉ちゃんだということを俺は知っている

そんなお姉ちゃんが俺も大好きだ


それから 俺は最新ゲーム機で暇をつぶしていた

両親ともに帰るのが遅く、日曜にも関わらず俺達のために働いてくれている

両親には本当に頭が上がらない


しばらく 一人でゲームに熱中していると、玄関のチャイムが鳴った

誰だろうか

もしかすると、と思ったがそんなことはないと振り払う

そうっとのぞき窓から覗くと、そこにはあの子がいた


俺の初恋の人 今でも好きな人 その人が俺の家の前にいた

少しばかり顔が赤いのは、外が寒いからだろうか

それとも………


そんなことはどうでもいい

俺は急いで扉を開ける

その子は俺の顔を見た瞬間、パッと表情を変えた


「急に押しかけたりしてごめんね ひょっとして迷惑だった?」

「いや そんなことは全然ないけど」

「そ、そう なんだ」


しばらく 沈黙が続く

俺はその沈黙に耐えきれず、口を開く


「外寒いし、良かったら中入る? うち親いないし」

「…………うん」


その子は少し考え、小さく頷いた

そして この日俺は初めて女の子を部屋に入れたのだった


「ちょっと散らかってるけど、ごめんね」

「ぜ、全然 気にしないよ」


その子はとても緊張していた

俺の初恋で今でも好きな子 坂井めぐみ

眼鏡をかけ長い髪を三つ編みにした大人しめな女の子

成績は俺より上で上の中の女の子

勉強は出来るが、体を動かすことが苦手な女の子


そんなめぐみの一生懸命なところに俺は惹かれた

自分から告白なんていう大それたことはできなかった

クラスこそ二年間一緒だったが、話すこともほとんどなかった


「今日は、どうかしたの? 日曜日でもう日も暮れるのに」

「…………渡したいものがあって」

「渡したいもの?」


俺はなんとなく感づいてはいたが、本当に起きるなんて思っていなかった

全く 俺の誕生日はどうなっているんだ


「こ、これ! 受け取ってください!」


めぐみに半ば押し付けられるように、これまた綺麗に包装された袋をもらった

めぐみは恥ずかしいのか下を向いている


「開けてもいい?」

「う、うん」


俺はめぐみに了承をもらい、袋を開ける

中には一枚の紙と、ストラップが入っていた


「これは………」

「そ、それは私とおそろいのストラップです! もしよければつけてほしいなって 気持ち悪かったら捨ててくださいっ!」


めぐみはまくし立てるように言った

そう言われて捨てるわけにもいかないし、そもそも捨てるわけがない

俺はいつも学校に行くときに持っていっているカバンに着けてみた


「ど、どうかな?」

「に、似合います!」


めぐみが持っているのと合わせると、ハートの形になる

これは脈ありなのでは? 誕生日なのもあっていけるのでは?

俺はゴクンと唾を飲み込み、乾いた唇を舌で濡らす


「なあ 俺達、付き合わないか?」


俺はそう言うと、めぐみは顔を赤くして


「…………私でよければ よろしくお願いします」


あまりにトントン拍子に進みすぎて、逆に怖いまである

それから俺達は連絡先を交換したり、一緒にゲームをしたりした

めぐみと一緒の時間はあっという間に過ぎた


「もう帰らなきゃ」

「そっか もうそんな時間か」


俺は名残惜しそうに言う

そんな俺を見かねたのか、めぐみが俺の頬に口づけしてきた

予想外の展開に、俺は後ずさる


「これで、寂しくないでしょ?」


めぐみはにっこり笑って、帰っていった

その笑顔に俺はすでにノックダウンしていた


めぐみが帰ってしばらくして、両親がかえってきた

俺の誕生日を祝うために仕事を早めに切り上げてくれたらしい

その後に続いて姉も帰ってきた


『誕生日おめでとう!』


ケーキや豪華な料理に囲まれ、盛大な誕生日パーティが開かれた

みんな笑顔で俺の誕生日を祝ってくれている

それだけで、俺は嬉しかった

両親からもプレゼントをもらい、今日は本当に特別な日になった


翌日の十一月十四日

俺の家の前でめぐみが待ってくれていた

昨日のことは夢でないことを教えてくれるかのような感じがした

俺とめぐみのかばんには、二人で一つのハートのストラップがついていた


誕生日 それは年に一度しか来ない特別な日

今の世界はそこまでいい世界とは言えないが、誕生日くらい 

いい事ばかりでもいいじゃないか

世界中の人の誕生日が、幸せなものでありますように



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