詠唱不要のコードメイカー~司書を目指していた俺、転生してチートな(魔導)司書になったので選書に勤しみます。ただし魔導書~
蒼乃ロゼ
序 その時のこと
その日は姉ちゃんの誕生日だった。
『231!』
『おしいわねぇ。古代ローマは232、よ。231は古代ギリシア』
『~っだぁー!!』
両親は学者。未来を見据え、エネルギー問題に取り組む物理学者の父と、過去を知り未来へと語り継ぐ考古学者の母。
共働きでお出かけもそう多くはできなかった。家に多くの本があったこともあり、俺たち姉弟は幼い頃から絵本や本を読むことが好きだった。
だから、俺たちにとっての読書とは、まるで自分を知らない世界へ誘ってくれる旅そのものだった。
そんな俺たちは自然と、学校帰りや休日に図書館という施設に行くことが楽しみの一つになっていて、仲もよかった。
いつしか共通の夢は『図書館の司書になる』ことになっていた。
『わざわざ迎え、来なくてもよかったのに』
『いいじゃん。どうせ本屋寄ってくんだろ?』
『そういうあんたもアレの新刊買うんでしょ?』
『まぁね』
姉ちゃんは夢を叶え公共図書館の司書になっていた。
偶然、実家近くの図書館に欠員が出たらしく新卒で就職。
これは本当に運がいいことらしい。
『姉ちゃん、何歳になるんだっけ?』
『23』
『……彼氏は?』
『うっさいわ!』
『いてっ』
仕事は楽しいみたいだ。けど、実際の現場は想像とちがって体力仕事らしい。まぁ、たしかに本って重いよな。施設も広いし。今の目標は、図書館の利用者さんを増やすことだそうだ。
今日は姉ちゃんの仕事帰りに一緒にごはんを食べる約束をしていた。
ついでに本屋にも立ち寄ることに。
『あんた、もし司書の募集なかったらどうすんの?』
『どうだろ。俺は県外出てもいいし、やっぱ司書目指したいけどな』
司書の資格がとれる大学に入学して、一か月。
先輩である姉ちゃんは、今から俺の心配をしてくれている。
『……タイミングだからねぇ』
『なければ本に関わる仕事、探すよ』
『わたしより好きよね、ミナト』
『うん。本はいろいろ、教えてくれたから。というか、本棚に並んでるの見るだけでナゾに嬉しいんだよなぁ』
『まぁ、わかる。分類、いまから全部覚えることはないけど、よく聞かれるものは覚えとくと便利よ』
『おう』
俺と姉ちゃんの昔からの遊び、本の分類番号を当てる遊び。
日本の図書館のほとんどで使われる、とある図書分類法に基づいて決められているそれは基本三桁で構成されていて。
例えば図書館を利用する人に一番人気があるであろう、文学は9類。
その中で、日本文学の小説・物語は『913』。
さらに細分化して、例えば俺……
本を探す時は司書の人に聞いてもいいし、図書館のパソコンでこの請求コードを調べればだいたいの場所は分かるってやつだ。
『今日はなんか、
『うん。地元の歴史についてとか、何件か受けたよ。……利用者さんの求める情報が載ってると、自分のことのように嬉しいよね~』
『おー、さすが姉ちゃん!』
『褒めてもなんも出ないよ』
照れ隠しで俺を軽く小突く姉ちゃん。
あーだこーだ言いつつ本屋に入った俺たちは、自然と声のボリュームを下げる。
お目当ての新刊コーナーを見ていると、
『────俺も、姉ちゃんみたいになれるかな』
なぜか胸の中に過った言葉が、口からでていた。
俺は姉ちゃんのことを、思っている以上に尊敬していたようだ。
『なれるよ、ミナトなら』
姉ちゃんは、迷いなく笑顔で答える。
『俺、自分が本好きなのはよくわかってるけどさ。同じ本好きな人とか、これから本を読んでみたい人とか。あとは、情報を探してる人とかさ。……なんか、好きなことを他の人のためになる仕事に就けるといいなって』
『いいじゃん、きっかけはなんでも。やりたいことがあるなら、あとは一歩ずつ進むだけだよ。……もし求人がその時なくてもさ。何年後かに、仕事を探すタイミングで出会うことも……可能性はゼロじゃないから』
『だな』
仕事の性質上、そう簡単に求人が増えることはない。
むしろ、昨今の事情でいえば減っている方だろう。
それでも、やっぱり。
俺はなりたい。
決意を新たにすると、妙に外がざわついている気がした。
この店の新刊コーナーは入り口を入ってすぐ左手。俺たちは本棚を挟んで、ちょうど外を向いている状態だった。
『……? なんか、外が──』
『──姉ちゃん!!』
鈍い大きな衝撃音と、激しくガラスの割れる音。
それから、ズズズと物が擦れる音。
聴こえるよりも早く、姉ちゃんに覆いかぶさる。
視界の端に白いトラックが見えたのを最期に、俺は意識を手放した──
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