第16話 冒険者ギルドの手伝いをする

 騎士団の指導を終えた時、騎士たちは皆、完全に力尽きていた。きっと、明日は筋肉痛でもんどり打つことだろう。

 だが、毎日続けていれば確実に強くなるはずだ。

 俺は騎士団の練兵場を後にすると、冒険者ギルドへと向かった。アンナから来て欲しいという要請を受けていたからだ。

 両開きの扉を開けると、ギルドの建物内に入った。

 多くの冒険者たちで賑わっている。職員たちも忙しそうだ。今日も様々な町村から依頼が舞い込んでいるのだろう。


「あ! アンナさんのお父さん!」


 金髪の受付嬢が声を掛けてきた。


「君はこの前の……」

「モニカですっ!」


 金髪の受付嬢――モニカは満面の笑みと共に名乗った。


「俺はカイゼルだ。よろしく」

「カイゼルさん! 見てましたよー。この間のガルドさんとの腕相撲! すっごく力が強いんですねっ!」

「はは。ありがとう」

「ガルドさんは受付嬢に当たりが強くて、嫌われてましたから。カイゼルさんがぎゃふんと言わせてくれてすっきりしました!」

「それは良かった」

「今日は何のご用ですか?」

「アンナに呼び出されてね――っと。いたいた」

「パパ! ちょうどいいところに!」


 奥にいたアンナが俺の姿を見ると、表情を華やがせた。ちょいちょいと手招きされた俺は言われるがまま歩み寄った。


「どうかしたのか?」と尋ねてみる。

「どうしたもこうしたもないわよ。本当に人手が足りなくって。パパにお願いしたい依頼があるんだけど」

「頼みたい任務?」

「そう。Bランクの任務。さっき緊急で舞い込んできたんだけど、今この任務を受注できる冒険者は軒並み出払っちゃってて。残りの候補の冒険者に声を掛けたんだけど、割りに合わないからってすげなく断られたの。今日中に討伐しないと、出現したオーガが付近の村を襲って被害が出ちゃうかもしれないっていうのに」


 アンナはバリバリと髪を掻きむしった。


「ああもう! 高ランクの任務を受けられる冒険者って数が少ないし、我の強い自己中な連中ばかりで嫌になる~!」


 ……苦労してるんだなあ。

 俺は元冒険者だったから、アンナの気持ちは痛いほど分かる。

 冒険者は基本、プライドが高い奴が多い。その上、変人揃いだ。高ランクになればなるほどその傾向は強くなる。

 エルザのように真面目な冒険者はかなり珍しい。


「分かった。そういうことなら、俺がその任務に赴くよ。放っておいたら、村の人たちが襲われるかもしれないし」

「さすがパパ! 助かるわ!」


 アンナは手を合わせて表情を華やがせた。


「それじゃ、諸々の手続きはこっちでしておくから。よろしくね! はい。村までの地図を渡しておくわ」

「ああ。……結構、近隣の村なんだな」


 俺は地図を見てから言った。


「それじゃ、ちょっと行ってくるよ。夕飯までには戻るから」

「ええ。気をつけてね」

「ちょちょちょっ! 待ってください!」


 割って入ってきたのは先ほどの、金髪の受付嬢だった。


「どうしたの? モニカちゃん」とアンナ。

「カイゼルさん、一人で任務に向かうんですか!? オーガの討伐任務ですよ!? 普通は四人がかりじゃないですか!」

「そうよ。人手が足りないし」

「無茶ですよぉ! アンナさん、お父さんのことが大事じゃないんですか!? 実は恨みを抱いていたりとか!?」

「私がパパに恨みなんて抱くわけないじゃない」

「だとしたら、余計にありえないですよっ! 一人はムリですって! せめて後もう一人くらいは付けないと!」

「大丈夫よ。パパは強いから。一人でも。ねえ?」


 アンナは俺に目配せをしてきた。


「まあ。任務に絶対はないけどね」

「カイゼルさん。娘のアンナさんの前だからって、虚勢を張って。うぅ。せめてご冥福を祈らせてください……!」

「勝手に殺さないでくれる?」


 俺は苦笑すると、冒険者ギルドを後にして任務に向かった。

 

 ☆

 

 アンナに貰った地図を参照しながら、オーガの目撃情報があった村に。

 村人たちに話を聞き山の中へと踏み入った。

 気配を察知しながら木々の間を掻き分ける。

 十分もしない内にオーガに出くわした。

 頭頂部に二本の角を生やし、岩山のように屈強な肉体を有している。目には理性の光は見受けられない。殺気に満ちていた。

 ――よし。これなら夕飯までには帰れそうだ。


「グガアアアアアアアア!!」

 

 ☆

 

俺は再び王都の冒険者ギルドへと戻ってきた。


「あっ! カイゼルさん! 帰ってきた!」


 モニカが駆け寄ってくる。


「ふふーん。カイゼルさん。さては逃げ帰ってきたんですね? オーガに一人で挑むのが怖くなったんでしょう!」


 訳知り顔になったモニカは、俺の肩をぽんと叩いた。


「恥じる必要はないですよ。命あっての物種ですから。ちゃんと人員を集めて、万全を期してから再出発しましょう」

「失敗した前提で話されてるし……」


 俺が苦笑を浮かべていた時だった。


「パパ。おかえり。早かったわね」

「思いの外、早くオーガと出会えたんでね。――ほら、これがその形見だ。倒すより解体するのに時間が掛かった」


 俺は腰に下げていた革袋から、二本の角を取り出した。

 オーガの頭頂部から生えていたものだ。


「うええええええ!?」


 角を見たモニカは飛び上がりそうなほど驚いていた。


「カイゼルさん、本当にオーガを倒しちゃったんですかっ!? たった一人で、というかこの短時間で!?」

「だから言ったでしょ? パパは強いって」


 アンナは得意げな表情をしていた。

 父親としては、娘の役に立てて何よりだ。

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