第100話 スピード対決


 視線の先にいたのは──ロン毛でボロボロの服を着た人。勝親の叫び声に、こっちを振り向く。眼鏡をかけていて、長い前髪でニキビと泥が付着した汚れにまみれた顔つき。そして、物語に出てくる鬼のような角2つに、睨みつけてくるような吊り上がった目つき。


 遠目からもわかる、人型だけど人間じゃない。さっきいた半妖だと。


「逃げても無駄だ。俺の速さなら追いつく」


 勝親が自信満々に言うと、一瞬腰を下ろす。両足から強い妖力を感じたと感じた瞬間、勝親の姿が消えた。

 何があったかと思った瞬間、勝親はあっという間に妖怪の目の前にいたのだ。


 速い──動きが全く見えなかった。


「どのみち貴様のような妖怪に逃げ道はない。観念して、誰が貴様に半妖の力を与えたのを話せば、命だけは助けてやるぞ宅間三郎」


 本名を言った瞬間、妖怪の片刃ビクンと震えたのがわかる。名前まで調べていたのか。

 そんな風に考えていると、御影さんが裾を引っ張って話しかけてきた。

「ほら、ぼさっとしてないで応援行くわよ」


「す、すいません」


 速足で歩きながら、御影さんが話かけてくる。


「1か月前から追っかけてたのよ、子供ばかりを狙って妖怪だって。それで半妖だってわかって──交戦の際に落としていったものから名前を特定したわ」


「そ、そうだったんですか」


 宅間と数メートルのところまで接近。ケケケ……と言わんばかりににやけていた宅間が言葉を返す。


「ほう、俺の名を知っているとは」



「当然だ、俺たちは戦うしか能のない脳筋ではない。情報収集だってできている。貴様の家族構成だってすべてまるわかりだ」


「だからどうした。元々逃げる必要などない──貴様らなど、この力で全員餌にしてやる!」


 半妖は、勝親の言葉にまったく動揺していない。ニヤニヤと笑みを浮かべて、首を傾けていた。負ける気など毛頭ないのだろう。

 その言葉に、一気に緊張が高まる。戦いが始まるんだ──。覚悟を決めた。

 敵に当然勝つとして、子供たちの場所を知る──それとこの子は絶対に守る。



 あれ? 時空のおっさんは? どこかにいちゃった。はぐれちゃったのかな? ってかミトラもいないじゃん。こんな時に道に迷ったのかよ……もう。仕方ない、私達だけで戦うしかない以下。

 私の困惑なと知らずに、勝親は妖怪に向かって叫んだ。


「すでに正体は知っている。貴様に秘密を割らせる秘策だってある。族滅されたくなかったら、すぐに投降しろ」


「ケケケ……減らず口で止まるんだったら、最初っから妖怪にはならねぇよ。頭使って考えな、バーカ!」


 勝親の言葉に、バカにしたような笑いで言葉を返す。降参する気はないようだ。


「わかったわ。これで心置きなく、こいつを始末できるわ」


「ああ……仮にも元人間だから、ここで投降すれば酌量くらいはしたんだがな。もう躊躇はしない、全力で貴様を追い詰めることができる」



「ケケケ……ハッタリかましてんじゃねぇぞぉぉぉぉぉっっっ!! てめぇら男と──ババァどもは全員八つ裂きにしてやる!!」



 そう叫んで、三郎はこっちに突っ込んできた。


 三郎も、勝親に負けず劣らず早い。

 互いに、剣で攻撃を繰り出しあうが、目視でとらえるのが精いっぱい。


 加勢したいんだけど、下手に突っ込んで勝親の邪魔するかもしれないし──。そんなことを考えていると


「ああ、暇つぶしにプレゼントだ」


 三郎がそう言った瞬間、私たちを取り囲むように大きなウジが出現。


 ウジが勝親に向かって突っ込んでいくと、三郎は短剣を思いっきり振りかざしてきた。


「まずは紫からだぁぁぁ」


 後方に下がって攻撃をかわす。御影さんが応戦するが、攻撃をすべてかわす。


「なんだ、蚊でも止まってるんじゃないのか? このババァめ」


「バ、ババァ?? こいつ──ロリコンかなんかなの??」


 確かにさっきもババァとか言ってた。御影さんはムキになったのか顔をきっとゆがませて怒っている。


「ババァだろうが! 16歳超えた女なんてよぉ」


「カチンときたわ──容赦しないわ!」


 御影さんが地団駄を踏んで、三郎に突っ込んでいった。ババァの言葉に、ムキになってるみたいだ。


 御影さんは、薙刀を出現させ三郎と交戦。


 自分の身長くらいある薙刀。三郎の短刀相手だと接近されると小回りが利きにくく苦戦している。


 それでも柄の部分も使い、薙刀を使いながら器用に攻撃を防いで反撃していく。

 三郎は、それでも自分の速さを生かして責め立てる。


「そんなへっぴり腰で、俺様に勝てると思うなよォォォォォォ」


「うるっさいわね。その天狗になった鼻、私がへし折ってやるわ!」



 って、ウジが2.3匹こっちにもやってきた。突っ込んできたウジを飛び跳ねてかわして、反撃。相変わらず気持ち悪い外見だなぁ……。


 妖扇を振りかざして、ウジを切り裂いて光線を当てて凍らせる。そこまで強くなく、あっという間にカチンコチンに凍ってしまった。


 それから勝親の加勢に向かおうとするも──。


「いらん、これで終わりだ!」


 勝親が両手を伸ばすと、両腕が灰色に光る。

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