第33話 2人が、見つめる空


 ミトラ視点。


 凛音──うまくやっているでしょうか。

 御影も、富子さんも、話しやすくて根はいい人。


 きっと、凛音でもうまく打ち解けることが出来るでしょう──。

 今の凛音なら、並みの妖怪程度なら負けることはありません。


 間違いなく、勝って帰ってくるでしょう──。


 そんなことを考えた後、片足で歩いて、ベランダへ。まだケガは治りきっていない。

 早く動けるようになって、また凛音と一緒に戦いたいですの。


 ベランダで肘をついて、星空を眺める。

 都心のビルのネオンに、雲一つない、満天の星空。


 まるで、芸術品かと思うくらい、とてもきれい。

 あまりにきれいな空を見ていると、思い出してしまう。


 私の一番大切な、大切な──あの人だ。


「祇園──」


 孤独で、周囲と打ち解けることが苦手だった私に一緒にいてくれた、光をくれた一番大切な人。


 ちょっと無口で、言葉足らずなところはあるけれど、全力で私のことを思ってくれていた。私の、大切な人だった。


 凛音を見た時、あまりの瓜二つさに、思わず祇園が現れたのだと。

 凛音は祇園の変わり?

 そんなことをと言われたら、言い返せる自信がない。でも──。


 自然とため気が漏れる、いけませんわ。凛音だって、私にとってとても大切な人。

 比べることなんて、出来ない。


 しかし、祇園はある日──いなくなってしまった。



 私の中に、ぽかんと空白が生まれてしまったかのようだ。


 また、私は何も守れないのだろうか。


 凛音──私の前に現れた大切な親友。

 祇園と、瓜二つと言ってもいいような外見。初めて顔を見た時は、心臓が止まるかと思いましたの。


 気がついたら、凛音は私の心をどんどん満たしていって、私の心は凛音のことでいっぱいになっています。


 そして、凛音──あなたの顔を想像するだけで、ドクン──ドクンと胸が高まります。


 凛音──一生懸命戦って、話している姿。しどろもどろで、でも必死で。

 応援したくなるような女の子。


 これからも私の隣で、大切な人としていてくださいね。






??視点


 ふぅ──。


 紫色に光る満天の星が広がった空。私が生まれた世界では、絶対にありえない光景。

 ミトラと一緒にいた空とは違う。だから、同じ空の下にいるわけではない。


 そんな空のもと、神社のような場所の境内。


「祇園──」


 そう話しかけたミトラの声。私を大切な親友として扱ってくれた。

 大切な人を見ているかのような、私を慕っているような目つき。


 絶対に、ミトラを見捨てたりなんかしない。

 そして、空を眺めていると何かがこっちを見ていることに気が付く。


 入口の方に、視線を向けた。ああ……お前か。


ばく──」


 私の身長の半分くらいの大きさ。白い毛皮に包まれた四足足の生き物。


 きゅぅぅぅん。


 何かを訴えているかのような目つき。

 かわいらしい鳴き声をあげながら、私に抱き着いてきた。


 もふもふと柔らかい体をなでる。獏は、きゅぅんとかわいらしい声をあげて、私に身体を擦り付けてきた。


 こいつは、あまり人になつかないのだが、私にだけはまるで飼い主であるかのように体をこすりつけてくる。



 こんな外見だが、強力な力を秘めていることは知っている。

 それでも、まるでペットのようにかわいい。


 まあ、私は厳密にはもう人間ではないのだが──。


「私を、心配しているのか?」


 獏の表情が、そんなことを訴えているかのように感じた。

 獏は喋れないので、絶対にそうだとは言い切れないが。


 獏をぎゅっと抱きしめていると、またさっきと同じように入り口から気配を感じた。

 さっきまでとは違う、禍々しい力の気配。


 誰かがこっちにやってくる。獏を抱き抱えながら、再び視線を向けた。


「祇園──」


「どうした、八尺」


 私の名を呼んだのは、私の倍くらいはあるであろう身長。ほっそりとした体形に白い服。

 妖怪の──それも妖怪の中でも最も強いともいわれる力を持った一人。


「本当に、人間たちと戦うつもりか」


 ぼそぼそとした小声。

 八尺──表情こそその長髪のせいで見ることはできないが、私を心配してくれているのがわかる。


 今まで、私はこの「妖怪界」などと呼ばれるこの場所にいた。まるで、その殻に引きこもるかのように。


 もしもミトラと出会ってしまったら──そう考えると、足がすくんでしまうのだ。


 私を慕ってくれたあの笑顔。ぎゅっと抱きしめて、愛情を示してくれたときの──ミトラの暖かさ。


 一生忘れることはない。だからこそ、自分の心がどれだけえぐられることになろうと、立ち上がって──あなただけは守ってみせる。


「私は、獏と一緒に戦う。人間界に戻る」


 その言葉に私は表情を硬くする。当然だ。


「お前、大切な人を守るためなら。どれだけの犠牲が出ても構わないというのか?」


「無念でしかない、でも──私はやる」


 何もためらわずに、私はコクリと頷いた。


 私は、迷わない。大切な人を守るために──手段もいとわない。どんなことも、して見せる。


 たとえ、そのせいでどれだけの人間の血が流れようとも。命を落とすことになろうとも──。私は、ミトラを守り切ってみせる。


「獏──お願い。みんなを守ってあげて」


 獏は再び何度か鳴き声を上げて、この場を去っていった。


 ミトラ。待ってて、あなただけは、絶対に守って見せるから。


 ずっと、ここに来る前から誓っていた願いを、思い出す。







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