第30話 戦闘開始


 それからしばらく時がたつ。氷明荘にいた私達。


 私の握りこぶしが、自然と強くなった。私はいつ敵が来てもいいように半妖体へと変身。

 変身した瞬間、富子さんが腰に手を当て反応する。

「おっ、凛音ちゃんエロエロだな。乳出しスタイルで、スタイルいいし……」

「……黙っててください」

 エロおやじかよ。結構気にしてるんだから。御影さんはふーんといわんばかりに腰に手を当て、私をじろじろ見る。

 まじまじと見られると、やっぱりドキドキしてしまう。

「かわいいじゃない。綺麗なあなたにとても似合ってると思うわ」


「……ありがとうございます」

 こんな地味で、陰キャな私が綺麗? お世辞だな。

 こんな私じゃ、美人なミトラと御影さんとは比較にならない。


 そんな事を考えながら、湖の方へ。


 ため息をついた後、湖の周りをとぼとぼ歩いてうろつく。湖、透き通ってて本当にきれいだな。今度、仕事抜きで観光目的で来てもいいかも。ミトラと一緒に──。

 そんな事を考えながら一時間ほど──。

「じゃあ、放ってくれるか?」

「わかりました」

 私は妖扇に魔力を込め──。

 そのまま湖に放つ。

 大きな魔力の塊がドボンと湖に落ちる。大きな音を立て、波が立った後もしばらく湖面に視線をおいていた。

「とうとう、来たみたいだな」

「──そうですね」

 この場にいる全員が気づく。さっきまではひっそりとしていて、穏やかだった湖面。

 突然ブクブクと気泡が生じたかと思うと、その部分が波しぶきを発生させ、小山のように盛り上がった。

 盛り上がった部分の水が波となって四方に流れたかと思うと、その部分から十数メートルくらいの化け物が飛び出してきた。

 ヴォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ──!!

 頭には赤い日本の大きな角。筋肉質で数十メートルはあろう二本足で立っている巨大な牛だ。

「とうとう来たわね」

 御影さんが薙刀を構え戦闘モードに。

 あれが、怪牛か──。

 紫色のオーラの様なものを身にまとっていて、にらみつけるような目つきで周囲をキョロキョロとみる。

「な、何だよあれ」

「夢だろ。バケモンじゃねぇか!」

 その瞬間、後ろから声がした。声からして、恐怖で震えているのがわかる。

 さっき管理人が帰るように宣告したにもかかわらず、怒鳴り散らしてバーベキューをしていた人たちだ。

 トサカのヤンキーが震えながら囁いたとたん、怪牛はその方向に視線を向け、一目散に走っていった。

 そして怪牛は逃げ惑うトサカのヤンキーの胴体を鷲掴みにして持ち上げた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ。助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 トサカのヤンキーは鼻水を出して大声で泣き叫ぶ。さっき私にビール瓶を投げつけてきた奴……。

「ほっとこうぜ……」

 富子さんはやれやれとしたポーズでため息をついてあきれ果てる。確かに、それが正解かもしれない。私だっていやな思いしたし……。


 けれど──。



 私は、一目散にその男の方へと向かった。御影さんも一緒だ。

「そういうやつなんだな、お前」

 そうだ。私はバカで、不器用で、非情になれなくて──損な行動をしてしまうことだってある。私は男を目掛けて飛びあがる。その間にも怪牛はヤンキーを口に入れようとしている。

 そして怪牛がヤンキーを口に入れ、噛んだ瞬間──。私は扇子に魔力を込め、口元部分をなぎ払う。

 その後に続いて、御影さんが無理やり男を怪牛から引きずり出す。

 体に視線を移すと、完全には間に合わず、右足が食いちぎられてしまっている。

 遅かったか──。

「凛音、よそ見しない!」

 怯んでいた私に御影さんが叫ぶ。そうだ、戦いの最中なんだ。

 ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ──。

 怪牛は逆上したのか、私に向かって拳を振り上げ、殴り掛かってくる。

「御影。そいつをこっちに投げろ!」

 後ろから富子さんの声。

「了解」

 すぐに御影はヤンキーの体を富子さんの方に投げる。怪牛がそれをさせまいと御影さんに殴り掛かるが、私がその間に立ちはだかった。

 その間に御影さんは男の身体を投げる。富子さんは、体を震わせながらも、何とかヤンキーを受け止め、管理人に渡す。

 そのまま、二人はこの場を去って行った。よかった。

 ──が、私は良くない。



 私は着地するなり、怪牛の振り下ろした拳から逃れようと身を投げる。しかし間に合わず、右足に牛鬼の拳を受け、グチュッとひざから下がつぶれてしまった。

「凛音──」

 御影さんが慌てて叫ぶ。

 気を失いそうになるくらい痛い。歯を食いしばって何とか耐える。

 こいつを見捨てていれば、こんなことにはならなかっただろう。けれど、それはできなかった。

 そんな行動をしてくれて、助かりたいって感情を捨てて、私を守ってくれた人。琴美のおかげで私はここにいるのだから。

 すぐに体を回復させ、さらに後ろに飛んで攻撃を回避。怪牛をにらみつける。

「こいつ。なかなかやるわね」


 御影さんの険しい表情。実績のある御影さんが言うということは、相当な強敵なのだろう。


 それなら、御影さん1人よりも2人で戦った方がいい。

 慌てて怪牛に立ち向かっていく。


 妖力を全身に、適量に込める。以前みたいに、力を制御できなくて体が吹き飛ぶなんてことはもうない。


 怪牛は一気に私に向かって突っ込んでくる。上等だ。殴り合いなら負けない。一気に怪牛に向かって突っ込んでいく


 その時、背後から御影さんの叫び声が聞こえた。


「ダメよ、策もなくに突っ込んだって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る