第11話 病院へ──
グォォォ……。
女性を奪われた恨みからか、私をにらみつけている。怒りに近い感情を持っているのがわかる。
相当恨みを持っているのだろう。ヒグマの習性を思い出した。一度自分の物だと認識すると、それを取られるとにおいを元に執念深くそれを追おうとする。
こいつも、そんな感じなのだろうか。
……今はどうでもいい。助けないと──。
私は腰を落として構える。五頭竜が、こっちに向かっていこうとしているのがわかる。
「ンバァバァバァババババババビビビッ!!」
再び何を言ってるかわからない奇声をあげながら殴り掛かってきた。
上等だ。攻撃をかっこよく乗り切るなんてしまない。真正面から、殴り勝ってやる。大きく息を吐いて、五頭竜と再度向き合う。
全身から妖力を感じ始め、妖扇を握ると、一目散に障壁に向かって突っ込んでいった。そして、数メートルくらいまで接近するとこの前妖怪と戦った時の様に妖扇をふるっていく。
その一撃で障壁は大きく音を上げ、窓が割れたように崩壊。
妖怪との障害がなくなったことで、私は一気に妖怪に突っ込んでいく。
私の頭の中に、とある妖術が浮かんでいる。本来聞いた事もないのに……。まるで最初から知っていたかのように頭の中に存在しているのだ。名前からしてどんな攻撃化は理解できる。
これなら、行けそうだ。
氷華二旋
──
大きく妖扇を振ると、そこから雪を伴った大きな風が飛び出し、それが五頭龍へと襲い掛かる。風は、人が立っていられなくなるくらい強い。それだけじゃなく、触れた瞬間、激痛が走るくらい冷たい。
攻撃を食らった五頭龍は見る見るうちに凍り付いていき、数十秒もすると完全に凍り付いてしまった。そして、自らの重みに耐えきれずに、バキッと胴体が折れて体が真っ二つに割れてしまった。
当然、ピクリとも動かない。
「さすがですわ、凛音」
そしてミトラがとどめの一撃を五頭龍に当てる。妖力を伴った砲弾。肉体は大爆発を起こし、その場に倒れこんだ。
「ンギョギョエァァァッ──。グァグォギェェェェェェェェェェェェェ──ッッッ!!」
五頭龍はなんとも言えない。言葉では表現できないような断末魔の叫び声を上げている。まるでイタズラした子供が、黒板をひっかいたときの様に全身からゾクッ寒気がよだつ。
思わず耳をふさぎながら妖怪に視線を送ると、五頭龍の肉体が蒸発していくかのように消えていく。
すると、私は五頭龍の表情に悲しさのような物が混じっていることに気付く。まるで、大切なものを失い、追い求めているかのような──。
何か、あったのだろうか──。そんなふうに、考え込んでしまう。
何とか勝った。そう感じた瞬間緊張の糸が途切れ、体の力が抜けてしまいその場に座り込んでしまった。
まだだ、敵を倒しただけじゃ不十分だ。あの人を助けないと。
絢音さんだ。あの時、五頭竜に身体を傷つけられ大けがをしていた。
出血が多い、早くしないと間に合わないかもしれない。「助かって」という強い気持ちを込めながら、向かって行く。疲れ切っている身体を無理やり起こして、優斗さんのところへ。
やはり、血があふれ出している。
出血場所をガーゼで強く縛る。そして、ミトラと一緒に注意しながら道路の方へ。
道路には、すでに救急車が到着している。
救急隊員の人に妻を載せて、夫の人と一緒に運ばれていった。
心の中で強く願う。お願い、助かって──。
救急車は、急いでいくようにここから去って行った。
ふう……。
滅茶苦茶な戦いだったけれど、何とか勝利することができた。
激闘が終わって緊張の糸がほどけたせいか、またその場にへたり込んでしまった。
相当な激戦で力を使い果たしてしまい、歩いていてもフラフラしてしまう。
ミトラが、足元に寄ってきた。私の隣に体育すわりでちょこんと座り込んでくる。
「ミトラ……」
「なんですの?」
「絢音さん、どこに連れていかれるの?」
「妖怪によって傷ついた人は、専門の病院に運ばれて治療する決まりになっていますわ」
確かにこんな傷だらけの人、普通の病院になんか送ったら絶対に怪しまれる。極秘に、患者を取り扱う場所があるのだろう。
「行きますわ。凛音」
「うん」
高級そうな、黒塗りの車がやって来た。運転席から黒服のサングラスの男が乗り出して、こっちを見る。
「妖怪省の車です。行きますわ」
ミトラが立ち上がってドアを開けると、先に車内に入って私を手招きする。高級そうな車に一瞬怯んだ後、慌てて車に乗る。
車は、私たちが乗るとすぐに発車。一般道から高速へ、速度を飛ばし都心の方へ向かう。
ミトラは、特に話しかけることもなく物欲しそうな表情で遠目に景色を見ていた。何か、考え事をしているのだろうか。切なさそうな表情、かわいいな……。
真っ黒な車に乗せられること30分ほど。
夜も遅くなり、人気もまばら。街路灯が照らす、それ以外の場所は真っ暗な夜の横浜の街をしばらく行く。大きな建物の前で、車はストップ。
運転手の人が下りると、ドアを開けてくれた。どこなのか調べて、看板を見て気付く。
「ここ、大学病院だよね」
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