月の輝く夜空の下で世界一愛しい君と

早蕨琢斗

第1話 満月の夜

「ふぁ~あ」

みっともなく口を大きく開けてあくびをする。

 時計を見ると、24時を回っていた。もうこんな時間まで集中してやっていたのか。インスタントコーヒーしか飲み物ないよな...。

 さすがに徹夜をする気にはならないため、飲み物や軽い夜食くらいあったら良いなと思った。



「はぁ、コンビニでも行きますかな」

誰に聞かせるではない独り言が、静かな部屋に響く。

 


 ところで、何をしていたのかというと机の上に答えはある。それは、随分昔に買ったプラモデルを久しぶりに組み立てていたのだ。夜になると、やらなくてもいいことやり出すことってあると思わないか? 例えば、部屋を掃除し始めたりとか絶対昼間にやればいいことをやり始めていたなんてことは一度はあるだろう。


 肌寒くなり、気温が低くなる夜はいくらコンビニに行くからといって軽装では寒くて死んでしまう。特に俺は寒がりだ。温かい格好をして財布を持ち、部屋を出る。



「やっぱ、少し寒いな」

大学生になってから、初めて一人暮らしをして知らない土地で冬を迎える。寒さのレベルは、地元と同じくらいかな。歩く人もまばらな住宅街を歩きながら、夜空を見る。どうやら今日は満月の日のようだ。


 こんなに月の明かりって強かったかと思うほど、光り輝いている。まともに月なんて今までの人生の中で、じっくり見たことはなかったなと考えていると。


「あれ? もしかして優叶じゃない?」

ゆっくり夜空を眺めながら歩いているとどこからか声をかけられた。

「こんな時間に出歩くなんて襲われちゃいますぞ」

声の方向を向くとこの時間に会うのは珍しい人物がいた。


「一瞬誰かと思ってびびった~。なんだ美紀かよ」

美紀は、俺の彼女である。

「なんだとはなんだ‼可愛い彼女さまだぞ」


「はいはい、かわいいかわいい」

適当にあしらう。


 俺の住んでるマンションから近いアパートに美紀は住んでいる。こんな時間に出歩くなんて珍しい。


「で、夜遅くになにしてるんだ?」

「それはこっちの台詞だけど、私は頭のキャパが限界に達したので息抜きに公園まで軽く散歩をしようかなと」

確かに俺たちの学部はレポート課題がやけに多いから、息抜きしたい気持ちも分からなくはないがこの時間は少しいただけない。


「息抜きは分かるけど、夜遅いんだから一人で出歩くのは危ないと思うよ。それに、いくらこの地域の治安が良いからって油断しちゃいけないよ女の子なんだから」

ここで言わないと何か起きてしまうのではないかという不安が襲った。

「は~い。心配してくれてありがと!」

なんでか、美紀は嬉しそうな表情をした。


 美紀は、大学ではかなり主観的な意見をぬきにしても可愛いと他の男子の中では噂になるほどには可愛いのだ。そんな子が夜遅くに出歩いていたら心配にもなるだろう。


「コンビニに行こうと思ってたけど、一緒に美紀も来るか? 公園行く途中にあるからさ」

「うん、行く!」

そう言って、るんるんと隣に並んで歩く。まるで子供みたいだなと思う。


 一人で散歩も良いと思ったが、二人で歩くとまた違った良さがあるなと感じた。



「ねね、優叶さ。あの日もこんな感じで散歩してたよね?」

あの日?俺は思考フル回転させる。美紀が考えていることが分からない、理由というか言い訳をするならば俺たちはよく散歩をするからだ。

「ん? いつのことかな?」

ここは正直に聞いた。嘘をついても良いことなんてないからだ。


「さすがに分からないよね。えーと、じゃあクイズです! 散歩と満月の夜、そしてミルクティーの三つから連想される日とは何でしょう?」

三つ目のヒントで、ピンときた。その日は、俺が美紀に告白した時だった。

「俺たちが付き合った日だろ...」

少し照れくさいので、もう一つの正解を言うが美紀は納得いかないご様子。


「まぁ、一様正解だけどそう答えて欲しかったんじゃないんだけどな~」

「はいはい、告白した日ですね」

そう言うと満足したか、ニコニコしていた。


「なんで、聞こうとしたんだ?」

急に質問してくるのは、何かありそうなので聞いてみる。

「あ、優叶も課題が忙しいから気づいてないのか...」

今日の日付は...。日付は俺たちの五ヶ月目の記念日を指していた。完全にやらかしたが、特に俺たちは何をするとかそういうのはない。だが、忘れていたことで美紀にがっかりされてないか不安になった。

「すまん、忘れてた」

「今回は、コンビニで飲み物一つで許してしんぜようぞ」

「ははぁ」

なんていうくだらないやりとりをしながら、コンビニに着いた。


「美紀さまは、何をご所望で?」

まぁ、聞かなくても分かるんだがな。

「分かっているだろう?例の物じゃ」

「ふ、まだ続けるのかよ」

少し笑いそうになったが、店内なのでこらえる。美紀の時代劇風の真似は続いているようだった。

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