第39話 隕鉄
「さて、よう集まったな。早速本題に入るぞ」
ムラサとの出会いから1夜過ぎ。
俺とアリサワ、そしてアラタとタケナカと共にムラサの元へ集まっていた。
「その、質問なのだが」
「なんや」
「その素材を貴女は持っていないのか?それと普通の鉄や合金の類では無いのか?」
アラタがそう質問する。
刀工なら素材を持っているものでは無いのか。
そう考えるのは普通だろう。
それにムラサは煙草をふかし笑いながら答える。
「よか質問や、素材はうちゃ持っとらんし普通ん鉄でんなか」
「と言うと…?」
「そん刀ん素材。そらつまり隕鉄や。ナナシキ地図もってこい」
全身包帯まみれの男が地図を持ってくる。
それは地図のようで、目印として丸が描かれていた。
「座標やらなんやらはそこ乗っとるけぇ、そこへ行きゃ見つかるだろうよ」
ムラサはそう言うとタバコを灰皿に押し付けた。
「それじゃ、宝探し楽しんでこい」
◆◆◆
「…森の中を運転させるには向いてないと思うんだが…この車」
「フハハ、拙のどらてくにかかれば心配ご無用」
「オエッ…」
「リーダー揺れて気持ち悪いのは分かりますが吐くなら袋に吐いてくだせぇ」
地図の目印が記された座標へ向かう。
ただそれだけならいいのだが、この車はなんとオフロード向きでは無い。
「イッ!?痛ぅ…」
「タケナカァ!!何故タイヤ変えなかった!!ウップ…」
「うわぁぁあ!?リーダー袋!!袋使ってくだせぇ!?」
「フハハハ!!」
馬鹿みたいに揺れる車の中トリップするタケナカの運転により車内は阿鼻叫喚になっていた。
「ウッ…オェェェエエエ…」
「姐さん大丈夫ですかい?」
「…尻痛い…」
「ふむ…座標の地点はここであるが…廃墟…?であるな」
疲労困憊の3人とは対照的に元気なタケナカは地図と到着地点を交互に見る。
隕石の落ちた場所となると巨大なクレーターがあるのを想像するだろうが、俺たちを出迎えたのは巨大な廃墟だ。
崩壊こそしていないが数年人が出入りしていないのか扉は錆つき、窓は割れ、壁は崩れかけている。
「ふーむ、見たところこれ以外になにも無いな」
「姐さん、リーダーと一緒に着いて着てくだせぇ、タケナカ、お前は後ろから頼む」
「御意」
廃墟へ入るが、瓦礫が有るだけだ。
特になにがある訳でもない。
「これは…でかい螺旋階段か?」
「凄い下まで続いてやすね」
「ッ…」
内部を軽く見回しながら歩いていると螺旋階段を見つけ、それに近づくと同時に毛が逆立つ。
「…?姐さんどうしました?」
「お前ら、ここから先は油断するなよ」
最悪だ、何故こんな場所に、何故目的のものがここに。
螺旋階段を見下ろした瞬間、嫌な寒気が背筋に走った。俺の歪人としての感覚が警報を鳴らしている。
「姐さん…?それはどういう…」
「この地下は普通じゃない」
「え…?」
「ここは…遺骸だ」
3人が驚愕する。
歪人と殺し合う事の多い剣夜の団員なら知っているだろう。それは歪人共の死骸が積み重なり出来上がった形を変える迷宮だ。
中ではどこから沸いて来たのか分からない怪物や死に損なった歪人が蔓延っている。
「俺らの目標のブツは恐らく最下層だ、クソッ…よりにもよって…」
「お嬢、増援を呼ぶのは…」
「無理だ、遺骸やその近辺じゃどういう訳か無線通信が阻害される。俺も傷はあらかた塞がった、やることはやれるはずだ」
「俺は…」
「アラタ、もしもの時の為上で待機していてくれ」
「分かり…ました…」
「これを使え、自分の身は自分で守るんだ」
「…了解です、無事に上がってくるのをお待ちしています」
「頼む」
アラタにナイフを渡す。
これなら片手でも最低限身は守れるだろう。
こうして俺らの死と隣り合わせの遺骸攻略は始まった。
◆◆◆
下層へ降りるとそこは既に異空間だ。木造の古い作りの建物が幾つものテクスチャで張り合わされたような光景はそこが普通の空間では無いことを表している。
ギィギィと軋む廊下には無数のバラバラになった人形のような何かが赤い血液に濡れ倒れ附している。
「…うーむ、切り心地は甲殻のある歪人と変わらぬが…切ったような感じがせぬな…」
「これが例の化け物ですかい。大して強くはありやせんがが数いるんでめんどくせぇったらありゃしねぇ」
アリサワとタケナカは納刀し、俺もグローブに着いた血液を払い前に進む。
「それにしても、なんでこんな地下に目的のブツがあるなんてわかったんですかい?」
「ムラサが言っていた隕石というのは実際に落ちてきていたんだろう。それこそデカイクレーターが出来るくらいのな。そのクレーターを歪人の処理が確立化されていない頃に歪人を捨てる穴として使ってるうちにそこが遺骸化した上に建物が建った、と俺は考えてる」
「わざわざ遺骸の上なんかに立てる必要があったんですかね…」
「ロクでもねぇ話だが歪人を兵器運用しようとした奴らがいてな、そういう奴らは遺骸の研究もしていてな」
歪人の死骸の処理は基本的に燃やして処分する。
埋めるだけでは完全に処理しきれない場合もあり、それこそこういった遺骸が出来上がる。
恐らく上の建物は実験の放棄が決まり廃墟になったのだろう。
全く忌々しい話だ。
「姐さん詳しいでやすねぇ」
「…まぁな」
当たり前だ。
俺はここでは無いが同じような場所で産まれたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます