第17話 託す
「…んん〜眩しい…」
昨日ケイニスに話を聞いてもらったからか、不思議とよく眠れた気がする。背伸びをし衣服を着替える。
「…クソ…尻尾が邪魔だ…」
下着にはやっとのこと慣れたというのに、尻尾が生えたせいかショーツが履きにくく、違和感がものすごい。
「ローウェスさんおはようございます、あの後寝れましたか?」
「あぁ、おかげでな。お、今日はパンケーキか」
「おはよー」
いつもの朝食、甘いパンケーキの匂いが鼻いっぱいに広がる、心做しか嗅覚が鋭くなったような気がする。
ケイニスが来てからというもの我がホームの食事のランクは数段階上がった。
シリアルなんかよりもずっと美味しい、やはり手作りはいい物だ。
『次のニュースです、第2区で今月になって急激に増え始めた、霧の夜に起こる殺人事件の被害者は現在21人にまで増加しており、類似した手口の犯行や凶器から同一犯の可能性が高く――』
「朝から物騒だな」
「そうだね〜」
朝のニュース番組も特に変わった様子も無く、朝食の時は何時ものように垂れ流しにしている。
「そういえば、今日は何時に集会が有るんですか?」
「んぐ、午後からだ、面倒臭いから行きたくないがな」
甘いパンケーキを頬張っていると、ふとある事を思い出す。自分もうっかりとしていた。
「おい、エド」
「んー?」
「今日は登校日だったんじゃなかったか?」
「…あ、そういえばエドちゃんは学生でしたっけ?」
「…!ンッゲホッ」
「え、エドちゃん水!水飲んでください!!」
「は、落ち着いて飲み込め!俺が送ってやるからゆっくり食え!」
「わ、わかった」
食べ終わった後、愛車のエンジンをかけ、エドが制服に着替えてくるのを待つ。
身長が変わった影響で無駄な出費を強いられたが、新しく買うよりは安く済む。
…身長が変わった事の影響が大きすぎるとは思うが。
前は取れたはずの棚の荷物が取れずにケイニスやエドに取って貰ったりなんてしょっちゅうだ。
「おまたせ、じゃ行こう」
「おう、これ被れよ」
俺はヘルメットをエドに渡し、出発した。
バイクのアクセルを回し、道路に出る。
学園の地区自体は近くに有るが、通勤時間と通学時間が重なっているからか車が多い。
アルビオンの学校はよく休校になるのだが、地区の閉鎖が大抵の原因である。マフィアやらワーカーの抗争もしょっちゅうある上に歪人が暴れ回ることも多い。
ふとエドが話しかけてくる。
「ねぇ、ローウェス」
「ん?」
「ローウェスはさ、痛いのは怖くないの?」
意外な質問に少し考え込み、答える。
「そうだな…痛いのは…俺も嫌だな」
「じゃあなんで…前に進めるの?」
「…これだけは言える、もう居ない大切な人を絶対に忘れず、後悔をしないためだ」
「…ごめん」
「別に良いさ、今を生きる俺たちは今のことを考えれば良い、そうだな…時々だが、死んだやつの事を思い出してやるだけでもいいかもしれないな」
「じゃあさ、もしも死んだ人を生き返らせることができるとしたらどうする?」
「そんなの要らないさ、死んで生きてる奴らに思いを伝えたり託したのに、また生き返らせたら可哀想だろ?ほら、もう着くぞ」
「…ありがとう」
死んだ人間は生き返らない、例え生き返ったとしてもそれはもう別のものだ。
少なくとも俺はそう考えている。
「…」
手を振るエドを見送りながら、俺は無言でアクセルを回し、ホームへ戻った。
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