第13話 姉弟
「ケイちゃん、車出して!ローウェスは私が背負ってる。後で話すから車出して!」
「ええぇ!?わ、分かりました!」
燃え落ちる廃工場から急いで車へ乗り込む。
気を失っているローウェスを後部座席に寝かせ、車を発進させる。
赤い煙がモクモクと立ち上がり、辺りは騒然としていた。一応気絶に済ませた奴らも、この煙で逃げ出すことは難しいだろう。
ふとローウェスを見る。
服は燃え落ちてしまった為か全裸であり、なかなかに際どい格好をしていたことに気づいた私は上着を被せる。
身体に目立った外傷などは無く、今はスースーと穏やかな寝息をたてていた。
変化と言えば頭と尻からは、見慣れない物が生えており、普通の人間には無いはずの耳と尻尾が生えていた。耳はピコピコと少しではあるが動いているのでローウェスの体の一部なのだろう。
暴れていた時とは打って違い、元の姿の面影である辛うじて白い髪に混じっていた赤い髪も今は燃え尽きた灰のように黒へと変化していた。
「あの姿は…」
「気になるかい?あの獣みたいな姿が」
赤髪の女が私へ声を掛ける。女は私の隣の席に何気なく座していた。
赤色の燃えるような赤色の髪、そして瞳はローウェスの前の姿と重なる、まるで彼女がローウェスの血縁者であることを表しているようだった。
血縁者がいるなら何故教えてくれなかったのだろうか、私はすこし疑問に思った。
「教えて…あの姿は何なの?なんでローウェスは歪人…いや”特異点みたいな姿”に戻ったの?」
「特異点?戻った?」
「歪人っていうのは何かしらの強い感情…例えば絶望とかに呑まれると普通の人間が変異すると肉塊とか犬みたいな歪な異型になるの 。でも意思の強い人間やひとつの事に異常なまでに執着する人間は特異点っていう特殊な力を持った強力な歪人になる」
「そんなことが…あの時の金庫を溶かした熱…じゃあローウェスさんは」
「じゃあ帰還者は知ってるかな?」
「…強い歪人が昏倒したり、倒しきれずにそのまま休眠状態になって人間の姿に戻ることでしょ?」
「そうそう大正解、ローウェスはそれなんだ、そして私もね」
「…あの変なテレビ…なるほどそうゆう事…」
「んー、それだけ理解してるなら十分かな。そうだねあの”狼みたいな姿”は暴走したことによる歪みの再発。その中でもかなり初期の状態だね。あそこで沈静化してなかったらこの地区の人間は全員焼死してたね。でも1つ分からないことがあるんだよね」
「わからないこと?」
「なんで暴走したか、だね。大抵は心が弱くなったり、異常なストレスで中の歪みが暴走をしだすんだ。だけど今回ローウェスのトラウマを刺激するものなんて無いはずだし、なんなら心が弱っていた訳でもなさそうだった」
そこで私はある光景を思い出す。
奇妙な装いのガスマスクの男が空の注射器を持ちながら佇んでいたことを。
「…ローウェスが変異する前に変なガスマスク着けた男が空の注射器を2本持ってた…」
「…その話を詳しく」
「うん、私が駆けつけた時にはローウェスは倒れ込んでいたんだけど、その近くに変なガスマスクを被った変な男が立ってたの、言ってる事は意味が分からなかたっし、まるで試薬の為にモルモットを実験台にしてるみたいだった」
「その男がどこへいったか分かるかい?」
「…突然消えたからなんとも…でもこれだけは言える…あの消え方は光学迷彩とかそんなものじゃない、もっと得体の知れない消え方だった」
「うーん、謎は深まるばかりだ。でも帰還者をまた歪人へ変える薬だなんて…何としても対処しないとか…あ〜頭痛い」
「名前…」
「ん?なんだい?」
「名前は?」
女は私の問に一瞬ポカーンとした後、すぐハッとした様子で名乗り始める。
「あぁ!名乗り忘れてたよ。私の名前は」
名前を聞いて私は驚愕した。
「ミトリア。ミトリア・フリード、ローウェス・フリードの姉さ」
この都市最強のワーカー、そして
◆◆◆
お久しぶりです
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