第2話 五人に増える義妹

2-1.家に帰ったら、見知らぬ美人さんが出迎えてくれた

「はあはあっ……」


 全力で自転車を漕いだから軽く息があがったけど、おそらく数分で家に着いた。


 俺の家は、義父さんの職業が宮大工と言えば誰もが納得するような立派な日本家屋だ。とはいえ、家を建てたのは義父さんではない。

 基本的に義父さんはお寺の修復をしているので、民家の建築には関わらない。今も、あるお寺を修復するために京都へ長期出張中。

 義母さんは平日は義父さんと一緒に京都で、土日のみ帰ってくる。


 美空は義父さんにも義母さんにも頼れないから俺を電話で呼びつけたのだろう。


 俺は玄関戸を開け、普段より大きめの声で美空に帰宅を告げる。


「ただいまー」


 ガラガラッ――。


 戸が飽ききるよりも早く、居間の方から美空の声が聞こえてくる。


「あっ。ひー君が帰ってきた。分かってくれるかな」


「本当に高校生のひー君? 見に行こう!」


「二人とも待って!」


 一人で何を意味不明なことを言っているんだろう。それに、途中から声が重なったような、変な聞こえ方をした。

 玄関には美空の靴しかないけど、誰か友達でも来ているのか?


 俺が靴を脱ぎながら困惑していると、廊下の奥からとんでもない美人が早歩きで出てきた。


 トタタタタッ。


「ひー君!」


「え?」


 雰囲気が似ているので、一瞬、美空かと思った。

 だが、違う。

 美人さんはパンツスーツを着ていて眼鏡を掛けているし、髪も美空より短いから別人だ。

 けど、見違えてもしょうがないくらい、雰囲気が似ている。


 ひー君と呼ばれたけど、初対面……だよな?


「あ、美空」


 美人さんの後ろから美空が出てきた。けど、何か違和感がある。


 美空なんだけど、小一時間前に学校で会った時の美空と何かが違う。


 さっきは制服で今は私服。着替えただけにしては、何処か全体的な雰囲気が変わったかのようだ。


 美空は俺を見るなり瞼を大きく開け、口に手を当てた。


「わ、懐い。高校生のひー君だ!」


 高校生のひー君?

 変な言い方だな。

 確かに俺は高校生だけど。


 それにしても、やけに美空のテンションが高いなあ。


「ひー君!」


「うわっ」


 美人さんが抱きついてきた。

 俺は押される勢いに負けて、一歩下がり、脱いだばかりの靴を踏んでバランスを崩す。


 ぐらっ……。


「あ、危ない」


「わっ。ごめんねひー君」


 二人して転倒するわけにもいかないので俺が姿勢を正して美人さんを支える。

 必然的に密着してしまった。

 年上の美人とこんな近距離になったことなどないので、どうすればいいのか分からず、俺は顔ごと視線を背ける。


「だ、大丈夫ですか?」


「ん。ありがと」


 胸に当たる柔らかい感触と、鼻をくすぐる甘い匂いは意識から追いだす。


 俺の動揺を見抜いたのか、美人さんは耳元で「ひー君、照れてるの? 可愛い」と小さく呟いた。


 そして、俺が否定するよりも早く、美人さんは体を離す。


 めちゃくちゃフレンドリーなんだけど、まじで誰?


「えっと……。すみません。どなたでしょう……」


「えーっ。ひっどーい。私のこと分からないの?!」


「す、すみません」


 げ……。気まずい。

 こっちの記憶になくても、向こうは覚えているという関係だ。


 幼い頃に法事で会ったっきりの親戚か?

 それとも俺の知り合いではなく、義父さんの知り合いか?


「ひー君が困惑しているでしょ。色仕掛けしたら駄目」


 と美空が注意すると、美人さんは右手の人差し指を唇に当て、左手で右肘を抱え、身を捩る。


「羨ましかったら私みたいに、仕掛けるだけの色を持ったら?」


「直ぐに香り立つような色気を待つよ?! 私達四歳しか違わないでしょ?!」


 珍しく美空が強気な態度で人と接している。知り合いなのかな。


 俺の困惑を余所に、居間からもう一人、美空がやってく……え?


「はあっ?」


 美空が目の前に居るのに、また美空が出てきた?!


「えッ? ちょっと待って?」


 美空が二人になった。どういうこと?


 そっくりさんにしては似すぎ……。実は双子だった?

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