第11話 断罪のお時間です

 皇太子であるアーサー殿下の宮で開かれた誕生パーティーはかなり盛大なものだった。

 ほとんどの貴族が集まっていると言っても過言ではない。政治にかかわるような者は全員が出席している。


 メイドに案内されて私とエリックは、きらびやかな宮殿でのパーティー会場に辿たどり着いた。


「エミリアのおかげで被害者はかなり減ったらしい」


「ふふ、うれしいわ」


 エリックがメイドに聞こえるようにして、そんな事を言う。

 皇宮に仕えるメイドなら何となく察しがつくだろう。事前に魔力や精神の弱いものには魔法耐性を強くする護符がついたアクセサリーが配られている。

 服の下にネックレスでも、仕事の邪魔にならないように付けることを義務付けられた。


 騒ぎの中で、どんな魔法を使うかは分からない。皇宮の使用人からマリアベル側の人間を出すわけにはいかない。

 ただでさえ、今回の事でこのパーティーは台無しになるのだから。


 会場で挨拶周りをしていると、美しい異国の女性たちが目に入る。見慣れない褐色かっしょくの肌はこの会場で一番美しく、豪華な衣装にはたくさんの金がちりばめられている。

 今回の一番の貴賓きひんはこの隣国の王女姉妹だ。


 公爵さまの伝手つてを使って、皇帝の許可も得ている。そして彼女たちは見定みさだめるために招待された賓客ひんきゃくだ。


 ふと、姉王女と目が合ってしまった。

 挨拶に行かねばならないだろう。エリックと目配めくばせをして、彼女たちに近づき、挨拶をしようとしている貴族たちの中に混じる。


「あなたがレミリアですか?」


 挨拶する前に声を掛けられ、私はドレスをつまみ、王女たちにカーテシー《おじぎ》をした。

 彼女らの視線は私に向けられていた。


「お初にお目にかかります。エミリア・バダンテールと申します」


「あら、噂で聞いたのとはかなり違うようね。ね、お姉さま」


「そうね。それならあの話は本当かもしれないわね」


 彼女たちは一体何を聞いてこの国にやってきたのか。

 楽しそうに笑う彼女たちは、もう私たちには目もくれず他の貴族の挨拶を聞いていた。


 人波にまぎれるようにして、私たちは会場が見渡せる位置を探した。

 やはり考えることは同じか、アングラード公爵夫妻と私のお父様お母様もそこにいた。


 みんなで見届けるのも良いだろう。


 高くのびる階段の上にある扉が開いた。

 それが合図となり、皇帝を含めた皇族たちが会場に姿をあらわした。


 アーサー殿下が集まった貴族たちに第五皇子を紹介した。


「今日は私を祝うために集まってくれたこと、礼を言う」


 殿下の隣でクロディーヌさまがにこりと微笑んだ。

 今、目が合った気が……?


「今日はいくつかの発表がある。まず我が不肖ふしょうの弟であるヘーゼルの婚約だ」


 ヘーゼルという名前だったのですね。そういえば昔聞いたことがありました。

 公務に出てこず、特筆とくひつした長所を持ち合わせていない落ちこぼれ、そんな噂ばかりだった。

 引きこもっては子供のように駄々だだをこねては、皇宮に仕える使用人たちは困っているという話は、よくうちの使用人たちから聞いていた。


 婚約という言葉にヘーゼル殿下は私を見た。

 エリックが私を彼からさえぎるように、かばってくれた。


 父母や、公爵夫妻もまるで盾にでもなるかのように前に立ってくれる。


「隣国の王女と婚約する運びとなった。我が国とかの国との架け橋になってくれることを期待する」


「は? 兄上、何の話ですか!?」


「そして、ヘーゼルと共に民衆を扇動せんどうしたオーベル嬢にも素晴らしい縁談がある」


 アーサー殿下はつとめて笑顔で伝えた。マリアベルの「ひゃいっ」という声を見ると、いつの間にか私たちの近くに来ていたようで、その視線はアーサー殿下とエリックを行ったり来たりして泳いでいた。


 そう、嫌な予感がするわよね。

 アーサー殿下はあの本には出てこなかったもの。


 私はマリアベルに微笑み、エリックの腕に手を回す。エリックもマリアベルの動きを察してか、緊張した面持ちだ。


 あなたのことはどうでも良かったけれど、でも周りはそうじゃなかったみたいよ。

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