第4話 モデルなようです
そんな大層な内容なのだろうか。
「一人になりたいから部屋の外で待っててくれる?」
「はい」
マーサは少しショックを受けているようだったが、従ってくれた。
「辛くなったらすぐに呼んでください! このアルバン、いつでも駆けつけます!」
ドン、と胸を叩いたアルバンを押し出すようにして部屋の外に追い出して、私は急いで椅子に向かった。
何度も色んな人に読まれてボロボロになった冊子は、それだけ人の心を動かしたのだろう。
表紙には愛らしい少女の姿。どことなくマリアベルに似ている。
絵の少女は金髪に青い瞳で、儚い雰囲気だ。
対するマリアベルは明るい茶髪。数年前に跡取りのいない男爵家に引き取られた。貴族ではなかったが遠縁の商家から引き取られたと聞く。
彼女は彼女で大変なのだろう。
物語は、平民として貧しい暮らしをする心優しい少女の暮らしから始まった。
小さな花に感動し、毎日を一生懸命生きている。けれども助けてくれる親はおらず、近所の優しい大人たちに助けてもらいながら暮らしていた。
時折、街に訪れる男爵夫妻にも子供でもできるかぎりのおもてなしをしていた。子供がいなかった男爵夫妻は少女の心のやさしさに感動し、身寄りのなかった彼女を養子にすることに――。
少女は貴族としてのマナーを厳しくも美しい家庭教師から学び、みるみると美しい令嬢へと生まれ変わった。
実は、少女にはとある記憶があった。どこかで暮らしていた、はるか昔の記憶だ。
記憶の中で少女はいつも恋をしていた。
ある時は村娘、ある時はお姫様、ある時は冒険者。
けれどもいつも邪魔をする者が現れる。村長の娘が権力を盾に少女の思い人を無理やり結婚させたり、結婚できたかと思えば姑である皇后にいびられる、冒険者であった時はチームを組んだみんなから見捨てられて、かわりに美しい魔術師が加入してしまい居場所を奪われる。
今は幸せだけれど、未来の不安におびえる少女は、けれども諦めず魔法学園に入学した。
そこで運命の人と巡り合う。いつも少女と恋仲にあったかの人は今は公爵家の跡取り、リックとして生まれていた。
少女と目が合うと、リックも何かを感じ取ったようで、まるで運命に導かれるようにして二人の仲は発展していった。
――そんな二人の仲を許さなかったのが、リックの婚約者であるレミリアだ。
レミリアは少女を
けれども少女は「今度こそ!」と諦めることなく、リックと共に試練を乗り越えるために頑張っている。
あまりのいじめに、祝賀パーティーでレミリアは婚約を破棄される。純真無垢な少女の姿に心打たれた友人たちはレミリアを糾弾するが、少女はやさしい言葉をかけてレミリアと友達になる。
改心したレミリアは、リックと少女の勧めもあり、新たに皇子と婚約を結んだ。
公爵夫人になった少女――マリアと皇后になったレミリアはとても仲が良く、もし同じ年齢の子供が生まれたら結婚させよう、と誓い合うのだった。
「は?」
まあ物語としては面白かったが、このオチは何なのだ。
いや、私が悪役令嬢レミリアに見立てられていることは容姿の特徴からも分かっていたけれど、それにしてもだ。
私だったら、レミリアが改心したとしても皇子と結婚はさせないし、結婚するならレミリアに惹かれている描写が必要だろう。
なぜ皇子……?
そんな理由で婚約破棄された女が皇子妃になれるわけがないだろう。
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