1-2
自己紹介を含むホームルームが終わった。一年生は本日の行事を全て終え、解散となる。
「じゃあみんな、帰るもよし部活の見学に行くも良しだ。因みにアタシは水泳部の顧問だからな〜」
と、加藤は教室を後にした。
(疲れたなぁ。主に精神的に……帰ってゆっくりしたいけど、吹奏楽部の見学も行っておきたいしなぁ)
と、通学鞄のリュックサックに筆箱や配布された教科書の一部を詰めながら、礼は考える。
「赤比さん!」
背後から呼ばれ、振り向くとそこには3つ後ろの席に座る女子の姿。因みに井上と植田の二人は既に教室から去っているため二人の間の席は空席だ。
「遠藤…さん?」
爽やかな笑顔を見せながら、遠藤唯は立ち上がり、礼に近づく。
「スイソウガク部…に入りたいんだよね?」
「え?うん……」
礼は中学の3年間、部活でクラリネットを吹いていた。特段上手いわけでもなく、かといって下手というわけでもない、極めて普通の腕前。他に出来る事は無いから唯一人並みより少し得意な事が出来る部活に入ろう…その程度ではあるが、一応入部を予定している。
「あたし、部に知ってる先輩いるから一緒に行かない?」
「本当!?いいの?」
今日初めて出会ったばかりとはいえ、自分を心配して声を掛けてくれた唯はほぼ間違いなくいい人だろう。そんな子が口利きをしてくれるなら、入部への抵抗も無くなるだろう。礼はお言葉に甘える様に、唯に着いて行く事にした。
「ねえ、赤比さんはどういうのが好きなの?」
部室までの道すがら、唯が話し掛ける。どんなの、とは音楽の事だろうか?随分アバウトな質問だと感じながらも礼は応える。
「う〜ん……速いのより、ゆっくりしたのが好きかなぁ」
「あーわかるよ。フライングフォックスやゼブラダニオよりディスカスとかバトラクスみたいなやつね」
「え?うん……」
何やら聞き慣れない単語が唯の口から出たが、自分の知らない曲名や音楽家の名前だろうか。礼は取り敢えずの相打ちを打つ。そして、彼女は自らが目指す目的地の音楽室を既に通り過ぎている事には全く気付いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます