第17話 グッドバイ・ハロー・その男は、


「祭ぃいいいいいいい!」


 一気に酷い出血が起きて、意識が朦朧としてしまった。

 ただ迫りくる毒針を、ぼうっと眺めてしまった。

 でも俺の名前を知らないはずの男の叫びに、正気に戻る。


「あ、あんたは……」

 

 男は俺の前に立ち、クインデスパイヤの針を火花を散らしながら受け止めていた。

 それはなんと、聖剣・『祝福のウェディング・ベル』の折れた剣先だ!?


「祝福を祈り、受けろ! 出血を止めるんだ! クシャナーディア様の血を無駄にするんじゃねぇええええ!」


「しゅく……ふく?」


「早くしろ! 馬鹿がぁ!! 俺の手がもたねーだろうがぁ!」


 先程までの寡黙な男の言葉とは思えない口の悪さ。

 この言葉遣い……まさか!?


 そしてなんと男は折れた剣をそのまま掴んで応戦していたのだ。

 しかし『祝福のウェディング・ベル』は男の手を切断する事はなく、ダメージを与えながら治癒しているような状態だった。

 それで重たいクインデスパイヤの針を受け止めているのだ。

 どれだけの苦痛に襲われているか。

 男の口からは血が溢れ、苦悶の表情を浮かべる。


「き、傷よ塞がれ! 塞がってくれ!」


「なんだその適当さは無能か!」

 

 あの時に覚えた詠唱は全部忘れてしまったし、回復術なんか知らねーよ!

 しかし俺の聖剣の半分と、男の聖剣の半分が共鳴しだした。


「お!」


 傷が一気に治るのを感じる!

 その力は男にも作用しているようだった。

 俺はすぐさま跳ね起きし、クインデスパイヤと男の拮抗状態に突っ込んだ。


「うぉおおおおおお!」


 大木を斬り落とすようにして一気に、毒針部分の尾節を切断した。

 即座に溢れる毒の体液から逃れるように、俺は男を担ぎ上げて跳んだ。

 

 傷は治ったが、これは何度も使えないという事を直感する。

 ものすごい疲労で身体も動かなくなってきた。

 もう聖剣を使う魔力も僅かだ。


「次で決めるぞ! 祭!」


 空に舞い上がって一緒に着地した俺に、男は言う。

 なんだよ、なんだよ、なんだよ!

 ありえねーだろうが!

 ありえねーだろうがよ!!

 当たり前のように、なんでいるんだよ!!

 お前だったのかよ!!

 馬鹿野郎ー!!


「わかった! ウィンキサンダ! お前は右から回り込め!」


「俺に命令するんじゃねぇよ!」


 俺は下半分に折れた聖剣を、ウィンキサンダは上半分に折れた聖剣を、それぞれ振るう。

 

 一刀両断! 一撃粉砕! 

 

 俺は初めて悪魔退治をしている時に、笑ってしまったんだ――。

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