第15話 グッドバイ・ハロー・召喚魔法陣
いくら俺が百鬼夜行を生還し、何度か悪魔退治をしているからって不気味に思う気持ちがなくなるわけじゃない。
ボロボロになった廃屋の校舎を見れば、気持ち悪いな……と生唾を飲み込むさ。
「落書きをされたと言っていたな。まずはそれを見よう」
「落書きですね」
男も俺と同じ事を、考えているようだ。
窓がほとんど割れている廃校舎の壁を、見に行く。
校舎といっても、やはり村サイズなので大きさはさほどでかくない。
俺がLDEライトを取り出すと、男は光る玉を浮遊させた。
ランタンを光らせてたのは、それかよ……。もう何も驚かねぇぞ。
悪魔の気配は今のところない。
血の臭いはしたが、別に校舎の壁が血みどろなんて事はない。
ぐるりと校舎周りを回って、裏側の壁にやっと見つけた。
「うわぁ……」
魔術の知識の無い人が見ても、この場所で見たら強烈に恐怖心を煽ってくれるのではないだろうか。
魔法陣だ――。
円にして三メートル。
二階の窓の位置まで書かれ巨大な円だ。
血のように紅いスプレーで中には星や色んな記号、そして謎の文字。
草むらのなかに、首の落とされたカラスの死骸が四羽あるのが見えた。
禍々しいが、俺の知識では正確な意味はわからない。
しかし……。
「召喚魔法陣ですね」
「あぁ、そうだ」
この魔方陣を、悪魔が通り抜けた気配を感じる。
カラスの死骸はもう乾いて干からびている……ここを通ったのは随分前だろう。
それなのに、この残り香があるという事は、かなり強大な悪魔だ。
「……校舎の中にいるのか……?」
窓から一斉にギャーン! って出てこられたら怖いから廃校舎のなかには、まだ光を照らしていない。
少し心の準備をしようとしていたら、男はスタスタと裏の職員玄関へ向かっていく。
「ちょっちょちょ」
あんたが吸ってるの寄せ付けるやつですからぁ!
「君は此処までで終わりか……?」
嫌味ではなく、素で聞かれた。
「行きますよ!」
俺は塵を吸わないように、布を口元に巻いた。
ただでさえ不気味な夜の林。
でも一歩、廃墟に踏み出せば更に簡単に恐怖が味わうことができる。
人間のいる世界と悪魔のいる世界。
二つの世界が噛み合ってしまうから、残酷な事が起きる。
でもそれは、一歩廃墟に入るような簡単な事で起きてしまうんだ。
そして命は簡単に奪われて、もう二度と太陽の下へは戻ってこれない。
「う……」
カビ臭いなんてもんじゃない、酷い塵、色んな物が朽ちていく臭い。
バラバラになって壁が崩れ落ち、歩く場所を探すのも一苦労だ。
俺が憂うことではないんだろうが、割れた黒板や、もう黒くなった誰かの紅白帽。
いつかの日直日誌。崩れ落ちたピアノ。
二代しか続かなかったのか、校長先生の肖像画なんか見ていると……時間の経過が切なくなる。
それにしても……おかしい。
「なんだかおかしいですね」
「あぁ」
さっきの魔法陣から感じた微量な悪魔の気配は感じるんだけど、実体はどこにも無い。
俺のわずかに残る聖女としてのセンサーも闇堕ちとしてのセンサーも働かないな……。
「……君は、変わっているな」
ホタルのように光る、男の使い魔が俺のまわりをくるくる回る。
「そうですか」
「あぁ、光と闇が波のように押し寄せる……ようだ」
やっぱり、こういう人にはわかるんだな。
でも俺は、この人にも似たような気配を感じる。
緊張感は保ちつつ、俺達は体育館に入った。
もう屋根は落ちているのか、月が見える。
体育館の床も、もうボロボロだ。歩いたら踏み抜いてしまいそうだな。
あぁ……デッドリバーを思い出して、少し吐き気がする。
「ここも妙だな」
「え……?」
「屋根が落ちているのに……何故、屋根がない?」
なぞなぞのような事を言い出した。
「あ! 確かに」
屋根が崩れて落下すれば、もちろん体育館の床の上に落ちて床は見えないはずだ。
だけど、月明かりで照らされた体育館は屋根の残骸がない。
「整理……されてる?」
少しずつ中に入ってわかったのだが、なくなっているわけじゃない。
体育館の脇に積み上げられている。
なんだこれ……一体誰が? 悪魔が?
「中庭に積んである……」
体育館の横玄関から繋がっていた中庭に、砕かれた屋根が綺麗に山盛りになっていたのだ。
そして不気味さを感じていた俺の耳に、聞こえてきた。
カサカサ……カサカサ……カサカサ
「この音……!」
一瞬で湧き出たように、カサカサカサカサと体育館を埋め尽くすような音がし始める。
悪魔の気配は濃く濃くなる。
俺はライトを壁に当てるが一瞬黒い何かが過ぎった。
「囲まれたぞ!」
「えっ! あっ」
黒いなにか……!
カサカサカサカサカサカサと殺気を撒き散らして俺達の周りをけたたましく走っている!?
「なんだ!?」
「光を出す! 目をやられるな!」
男が空には上がらない照明弾のようなもので激しく周囲を光らせた。
蟻だ――。
真っ黒で頑丈な顎をもつ働き蟻。
しかし、その大きさは小学生の子供ほどもある。
そんな蟻が体育館を俺達の周りを威嚇し、頭を揺らして牙を剥き出した!
「うわぁああああ!」
キモすぎて叫んでしまった。
「こんなのは雑魚だ。始末しなければいけないのは女王蟻だ!」
今の照明弾の光で、確かにステージ前に巨大な穴が開いているのがわかった。
男がそこに何かを投げ入れ、光が漏れた。
その瞬間、地下が一気に爆発したように膨れ上がるようにして巨大な悪魔が出現したのだ。
「蟻悪魔・クインデスパイヤーだ……!!」
……女王蟻か!!
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